「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第二部 非情の冬
紅蓮の街 第二部 2-1
2
「こんな堅苦しい服を着るのは性に合わないんだが」
控えの小部屋で、礼服の襟を引っ張りながらガスはつぶやいた。
「お前よりはましだな」
ガスの目の前にいるナミは、なんとドレスをまとっていた。透明感を感じるかのような白いドレスだった。これまた白い貌に、黒い髪が映えていた。身体の線も、くっきりと現れていた。
「似合わないってこと?」
「そんなものを着ていると、お前が普通の人間に見えるからな」
「あたしは、普通の人間よ」
「嘘つけ」
ガスは吐き捨てた。
「それにしても」
ナミはくるりと一回りした。
「同じように貴人の前で武装解除するにしても、バルテノーズ家のほうがいくらか話がわかるみたいね」
ガスに向け、皮肉たっぷりに続けた。
「少なくとも、荒縄よりはこっちのほうが洗練されているわ」
「ふん」
透明感のある白い清楚なドレス。そこには、剣や短剣を隠すような余地はどこにもなかった。ちょっとでも重量物を身につけたが最後、ドレスの動きが不自然になり、ひと目でわかってしまう。しかも、着替えには、バルテノーズ家の召使がつきっきりだった。その目をかいくぐって武器を持つには、まずはらくだに針の穴をくぐらせるような魔法でも知っていなければ無理だった。
「針なんか口にしていないだろうな」
ナミは首を振った。
「口は開かされて、霧吹きで香を吹かれたわ。そのときに、あたしの口の内部を調べる意味もあったんでしょうね。ちらりと見れば、わかるんでしょう、訓練を受けた人間の目にはね」
「確かに洗練されているな。そのうえ徹底している」
ガスは考え込んだ。
「でも、お前には体術があるだろう」
「それには、優雅な動きしかさせてくれないこのドレスを破かなくちゃ」
「徹底してるな。おれなんかよりも、よっぽど徹底してやがる」
ガスは感に堪えたように首を振った。ドレスを破って戦闘態勢に移るその一瞬の間というものが、どれほど危険な時間であるか、殺し合いの中に生きてきたガスには、肌で見当がついた。
「ガス、そういうあんたも丸腰なんでしょう? それにその礼服も、見るからに動きにくそうだわ」
ガスはうなるしかなかった。

「こんな堅苦しい服を着るのは性に合わないんだが」
控えの小部屋で、礼服の襟を引っ張りながらガスはつぶやいた。
「お前よりはましだな」
ガスの目の前にいるナミは、なんとドレスをまとっていた。透明感を感じるかのような白いドレスだった。これまた白い貌に、黒い髪が映えていた。身体の線も、くっきりと現れていた。
「似合わないってこと?」
「そんなものを着ていると、お前が普通の人間に見えるからな」
「あたしは、普通の人間よ」
「嘘つけ」
ガスは吐き捨てた。
「それにしても」
ナミはくるりと一回りした。
「同じように貴人の前で武装解除するにしても、バルテノーズ家のほうがいくらか話がわかるみたいね」
ガスに向け、皮肉たっぷりに続けた。
「少なくとも、荒縄よりはこっちのほうが洗練されているわ」
「ふん」
透明感のある白い清楚なドレス。そこには、剣や短剣を隠すような余地はどこにもなかった。ちょっとでも重量物を身につけたが最後、ドレスの動きが不自然になり、ひと目でわかってしまう。しかも、着替えには、バルテノーズ家の召使がつきっきりだった。その目をかいくぐって武器を持つには、まずはらくだに針の穴をくぐらせるような魔法でも知っていなければ無理だった。
「針なんか口にしていないだろうな」
ナミは首を振った。
「口は開かされて、霧吹きで香を吹かれたわ。そのときに、あたしの口の内部を調べる意味もあったんでしょうね。ちらりと見れば、わかるんでしょう、訓練を受けた人間の目にはね」
「確かに洗練されているな。そのうえ徹底している」
ガスは考え込んだ。
「でも、お前には体術があるだろう」
「それには、優雅な動きしかさせてくれないこのドレスを破かなくちゃ」
「徹底してるな。おれなんかよりも、よっぽど徹底してやがる」
ガスは感に堪えたように首を振った。ドレスを破って戦闘態勢に移るその一瞬の間というものが、どれほど危険な時間であるか、殺し合いの中に生きてきたガスには、肌で見当がついた。
「ガス、そういうあんたも丸腰なんでしょう? それにその礼服も、見るからに動きにくそうだわ」
ガスはうなるしかなかった。
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Re: ネミエルさん
こんなところでことを構えるほど、ガスもナミもバルテノーズ家もバカではありません。
だいいちそんなことしたって誰も得しないし(^^)
だいいちそんなことしたって誰も得しないし(^^)
NoTitle
ガスとナミっていいコンビになってますね
でもガスは皮肉たっぷりですが
さぁエリカ様の登場ですね
どんな捻くれモノか今から楽しみだったりします。
でもガスは皮肉たっぷりですが

さぁエリカ様の登場ですね
どんな捻くれモノか今から楽しみだったりします。
- #2670 レオ・ライオネル
- URL
- 2010.11/30 00:34
- ▲EntryTop
Re: limeさん
どうしてどうして、バルテノーズ家のエリカちゃんは、ナミの天敵のような特殊能力を持っているのです。
そうでなければ、こんな街で生きていけません(^^)
ある意味、サシェルやヴェルク三世も被害者?(^^)
まあこれからしばらくの間ご期待を。
絵文字ですが……limeさんまでひどいや
そうでなければ、こんな街で生きていけません(^^)
ある意味、サシェルやヴェルク三世も被害者?(^^)
まあこれからしばらくの間ご期待を。
絵文字ですが……limeさんまでひどいや

NoTitle
すごく優雅なふりして、バルテノーズ家の策略は抜け目がないですね。
そろそろエリカ嬢にあえるのでしょうか。(まだだっけ)
でも、どんな状況になっても、ナミが負ける気がしないんですが・・・。
エリカ嬢が気に入ったら、エリカ嬢を応援してもいいですか?笑
←あ、こんなのもあるんだ~(´∀`)
そろそろエリカ嬢にあえるのでしょうか。(まだだっけ)
でも、どんな状況になっても、ナミが負ける気がしないんですが・・・。
エリカ嬢が気に入ったら、エリカ嬢を応援してもいいですか?笑

Re: LandMさん
ナミの戦闘能力を奪うことに徹底しているのはバルテノーズ家のほうなのですが(汗)
わたしの描写力不足でしたかねえ(汗)
わたしの描写力不足でしたかねえ(汗)
NoTitle
何にしてもそうですけど徹底することに限度を覚えたらいけませんよね。物事には限度がありますけど、拘るべきところは徹底的にこだわる。そうすることで筋が生まれますし、それが強みにもなる。ナミのそういうところは好きですね。どうも、LandMでした。
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Re: レオ・ライオネルさん
引っ張るぞふふふふ(えええー)