「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第二部 非情の冬
紅蓮の街 第二部 4-3
エリカは無言で、ナミをじっと見すえた。
ナミも無言のまま、エリカの視線をじっと受け止めた。
先に目をそらしたのは、エリカのほうだった。
「ナミ」
エリカは、少しばかりいいよどんだが、冷たい声で語った。
「……それがあなたの本心であることは認めましょう。だが、しかし、あなたはなにかをまだ隠している。それをわたしが理解するまでは、いいともだめだともいえません」
ナミも力を抜いた。
「頑固なお姫様よねえ、公爵閣下も!」
「頑固というより」
ガスは口を挟んだ。
「慎重なだけじゃないのか?」
「頑固よ」
ナミは、ガスの意見を一蹴した。
「どう考えたって、お前がサシェル男爵のところで見せた用心深さより、程度は軽いぜ」
「あれはあれで、判断をしくじったら、あたしが死ぬことになるんだから仕方なかったのよ」
「わたしも同様です」
エリカがいった。
「あなたの要求をそのまま呑むことは、バルテノーズ家にとって死活問題につながりかねないおそれがあります」
「あたしが、閣下を傷つけたりすると思っているわけ?」
「その可能性はないです。しかし、ナミ、あなたが気づいていない要因により、わたしやバルテノーズ家が危機に瀕する可能性はなきにしもありません」
ガスはそれを聞いて、はっと悟った。
エリカ・バルテノーズの能力も、強力ではあるが万能ではないのだ。
ナミも顔色がわずかに変わったらしい。
エリカはその微妙な変化を見逃さなかったようだった。
「その通りです、ナミ、ガス。こんな話を知っていますか? 説話集にあるのですが、ある冬の夜、木こりが山で焚き火に当たっていると、そのそばに魔物がやってきて、木こりの考えていることを全部当ててしまうのです。このままでは魔物に食べられてしまう、と、木こりは焦りますが、魔物はさらに先回りしてその考えを読み取ってしまうのです」
「結末は聞いたことがあるぜ。焚き火の中で木こりが焼いて食べようとしていた栗の実が偶然はじけて、魔物の目に当たるんだ。魔物は、考えてもいないことをするなんて、人間とはなんて恐ろしい生き物なんだ、と叫んで逃げてしまう……」
「その通りです、『彫刻屋』のガス。わたしも、その魔物と似たようなものです。一族を守るためにも、どこかで予想外の隠れた栗の実がはじけて当たることはないか、絶えず気を配っていなければならないのです」

ナミも無言のまま、エリカの視線をじっと受け止めた。
先に目をそらしたのは、エリカのほうだった。
「ナミ」
エリカは、少しばかりいいよどんだが、冷たい声で語った。
「……それがあなたの本心であることは認めましょう。だが、しかし、あなたはなにかをまだ隠している。それをわたしが理解するまでは、いいともだめだともいえません」
ナミも力を抜いた。
「頑固なお姫様よねえ、公爵閣下も!」
「頑固というより」
ガスは口を挟んだ。
「慎重なだけじゃないのか?」
「頑固よ」
ナミは、ガスの意見を一蹴した。
「どう考えたって、お前がサシェル男爵のところで見せた用心深さより、程度は軽いぜ」
「あれはあれで、判断をしくじったら、あたしが死ぬことになるんだから仕方なかったのよ」
「わたしも同様です」
エリカがいった。
「あなたの要求をそのまま呑むことは、バルテノーズ家にとって死活問題につながりかねないおそれがあります」
「あたしが、閣下を傷つけたりすると思っているわけ?」
「その可能性はないです。しかし、ナミ、あなたが気づいていない要因により、わたしやバルテノーズ家が危機に瀕する可能性はなきにしもありません」
ガスはそれを聞いて、はっと悟った。
エリカ・バルテノーズの能力も、強力ではあるが万能ではないのだ。
ナミも顔色がわずかに変わったらしい。
エリカはその微妙な変化を見逃さなかったようだった。
「その通りです、ナミ、ガス。こんな話を知っていますか? 説話集にあるのですが、ある冬の夜、木こりが山で焚き火に当たっていると、そのそばに魔物がやってきて、木こりの考えていることを全部当ててしまうのです。このままでは魔物に食べられてしまう、と、木こりは焦りますが、魔物はさらに先回りしてその考えを読み取ってしまうのです」
「結末は聞いたことがあるぜ。焚き火の中で木こりが焼いて食べようとしていた栗の実が偶然はじけて、魔物の目に当たるんだ。魔物は、考えてもいないことをするなんて、人間とはなんて恐ろしい生き物なんだ、と叫んで逃げてしまう……」
「その通りです、『彫刻屋』のガス。わたしも、その魔物と似たようなものです。一族を守るためにも、どこかで予想外の隠れた栗の実がはじけて当たることはないか、絶えず気を配っていなければならないのです」
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ニャーール。
用心深くて丁度いい。
自然の動物も用心深くなくては、長生きはできない。
まったく、ここは弱肉強食そのものだね。
用心深くて丁度いい。
自然の動物も用心深くなくては、長生きはできない。
まったく、ここは弱肉強食そのものだね。
- #2764 ぴゆう
- URL
- 2010.12/13 23:33
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Re: ぴゆうさん
今日の更新でまたその条件に過酷なものがつきます。
わたしってSなのかMなのか(笑)