FC2ブログ

    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 5-3

     ←ナイトメア・ハンターの掟 5-2 →ナイトメア・ハンターの掟 5-4
    第五章 ユニオン・ジャッカー(承前)


     翌日、カップ麺のブランチを取ると、わたしはビートルで森村探偵事務所に向かった。少々早く着きすぎた。時計を見るとまだ十二時ちょっと過ぎである。
     あいさつもそこそこに、わたしは北村に案内され、所長のもとへ通された。
    「よくいらしてくださいました」
     物静かそうな、品のいい老紳士がそこにいた。
    「所長をしております、森村と申します。桐野さんには、何度も当社のために力になっていただきましたのに、お会いするのはこれが初めてですな。失礼をお詫びいたします」
    「わたしはなにをやればいいんですか」
    「北村からお聞きだとは思いますが、川畑議員秘書の、佐竹一の夢に入って、そこで選挙違反について調べてほしい」
    「それはわかっています。わたしが聞きたいのは、森村さんがわたしに直接会って伝えたくなるような、どんな突発事態が起こったのか、ということです」
    「安心しました」
    「なにがです」
    「桐野さんが、しっかりとものを考えられるかただということがわかってです」
     遠まわしにバカにされているような気がする。
     わたしの顔色を見て、森村はかすかに笑った。
    「これは失敬。失礼なことを申し上げる気はなかったのですが」
    「それで」
     森村は一冊のファイルを開いた。
    「われわれは調査員を派遣し、佐竹一の身辺を調査していました。江川と、高居という男です。しかし、昨日、江川は突如、自宅のマンションから飛び降りてしまいました」
    「遺書は?」
    「ありました」
    「どこから見ても完全な自殺のように思えますが」
    「まあ、その通りで、警察もそう判断したのですけれど」
    「納得が行かない?」
    「そういうことです。自殺したことがでなくて、自殺にまでいたる経緯のほうが」
    「それは、どういう?」
    「遺書には、判読しづらい字で、『あれがやってくる。おれは眠れない!』と書かれていたのです」
     わたしは首を振った。
    「夢に異常があったらしいと? 残念ですが、よほどのことじゃないと死人の夢には潜れません」
    「いえ、それは最初から諦めています。わたしどもが危険に思っているのは、むしろ、江川を自殺に陥らせる原因となったであろうもののほうです」
    「というと」
    「江川は、佐竹一より、悪夢を伝染させられたのではないかと……」
    「ばかな」
     とわたしはいったが、脳裏には速水鈴音の言葉が甦ってきていた。
     夢魔が現実世界を侵食する……。
    「……今は、江川の代わりに山瀬という男を張り付けてありますが、彼にも影響は出るでしょうか?」
    「なんともいいようがありません」
     わたしは正直に答えた。
    「お話によると、江川さんがお仕事につかれてから自殺までにはそうとう長い期間がかかっていると見受けられました。また、佐竹氏が直接の原因をなしているとも、今の説明だけでは特定できない。高居さんや山瀬さんの夢にも入ってほしいというなら入りますが、それよりも情報がほしい。もっと詳細に話してください」
    「わかりました。差し支えない範囲で」
     佐竹一は、川畑議員の政治活動のうち、後ろ暗い側面を統括する立場にあった男だった。しかし、後ろ暗いことといっても、佐竹一は実に法律の裏表に通じているやつで、実際の違法行為はまったくなかった。もちろん、非合法すれすれの行いは日常茶飯事なのだが。
    「この男が……」
     急に忙しく活動し始めたのが去年中ごろ。まだ正常だった頃の江川氏が調べ上げたところによると、かなりの額のカネが、佐竹一の周りで動いていたらしい。
    「そのカネは、どこかへ消えてしまいました」
    「横領?」
     森村はかぶりを振った。
    「川畑議員も了承の上のことだったようです。その直後でした。例の都議選。川畑議員の息のかかった人間が数人、圧倒的な不利をささやかれながらも当選したのは」
    「買収……」
    「そう考えるのも当然です。わたしどもの依頼人も同じように考えました。確証を摑むために、調査を続けてきましたが、どうも敵は尻尾をつかませない」
    「それをわたしに探れと」
    「そういうことです。探ってほしいことは、カネがどこへ流れたかということです。プラス、できる範囲で江川の死因に佐竹一が関わっていたかどうか」
    「高居さんにも潜る必要がありますね」
    「お願いできますか」
    「やってみましょう。高居さんは?」
    「山瀬と交替して、戻ってきています」
    「だったら話が早い。さっそく見てみましょう」

     高居という男は、無精ひげを生やしたやせぎすの男だった。事務所の一角のソファーで、いぎたなく眠りこけている。
     探偵というより、三文文士だ。縞の着物でも着せたら似合いそうである。
    「この人が……?」
     北村はうなずいた。
    「貧相に見えるでしょう? しかしこいつは、なんとか流という、合気道と剣道の混ざったような古武術の達人でしてね、その手にかかれば、アンドレ・ザ・ジャイアントみたいな男だって投げ飛ばされてしまいます」
    「アンドレ・ザ・ジャイアントか」
     わたしは疑わしげに見た。合気道の達人ねえ。
    「わたしが入るかもしれないということは、すでに伝えてあるのかい?」
    「もちろんです」
    「で、なんて?」
    「イカサマ師風情が人の夢に入ってこられるつもりだったら上等だっていってました」
     信じてもらえていないようである。
    「桐野さん、高居に関する情報は必要ですか? 仕事の性質上、あまりお教えできることがないのが残念なのですが、それでも、ひいきの野球チームくらいは……」
     考えた。
    「大丈夫だろう。この寝顔を見ている限りでは、さほど異常があるとも思えないし」
    「それでは、お願いします」
     わたしは高居のそばに椅子を持ってきて腰を下ろし、ゆっくりと六角形のイメージを頭の中に結び始めた。
     回転……。
     夢の中へ……。
    関連記事
    スポンサーサイト






     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    もくじ  3kaku_s_L.png X氏の日常
    【ナイトメア・ハンターの掟 5-2】へ  【ナイトメア・ハンターの掟 5-4】へ

    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    若いころからそうやって相手を信用させてから情報を聞き出しに来るタイプの探偵なのです、森村所長は(^^)

    しかも常にこのような態度だから所員からも尊敬を集め、事務所のほうも円満。

    北村さんももっと齢を取れば森村所長みたいになれるでしょうね。生きていればですが(おい)

    おはようございます。

    さて、この夢への潜入が吉と出るか凶と出るか…気になるところです。

    しかし森村さんって予想外に紳士だったです^^
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【ナイトメア・ハンターの掟 5-2】へ
    • 【ナイトメア・ハンターの掟 5-4】へ