「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第二部 非情の冬
紅蓮の街 第二部 6-4
「あの男を?」
ヴェルク三世は憮然とした調子で漏らした。神経質そうな顔がしかめられる。
「『いかさま賽』、お前は、本気でそういっているのか?」
「本気も本気ですよ、伯爵閣下」
「しかしわたしには……」
「まあ、お聞きください」
トイスは壁に寄りかかると、ポケットから二つの、なんの変哲もないサイコロを取り出すともてあそび始めた。
「サシェル・イルミール男爵は、さっきも申しましたとおり、エリカ公爵閣下……いや、民衆に投げてやる餌にすぎません」
「間違えるな、トイス」
ヴェルク三世は厳しい声でいった。
「わたしは、あのエリカという娘の命まで奪おうなどとは考えてもおらん。忘れるな、ゆくゆくは、わたしはあの女と結婚し、公爵家自体を乗っ取らなければならんのだ。そのためには、今の段階で、エリカ・バルテノーズという小娘を怒り狂った民衆の前に投げてやるということは避けねばならんのだ」
トイスは笑った。
「伯爵閣下、まるであの娘を大事に想っておられるようなお言葉ですな」
「馬鹿なことを!」
がたっと音を立てて、ヴェルク三世は立ち上がった。
「わたしがあんな小娘になにを感じておるというのだ!」
「まあ、おれは会ったことがないですが、気をつけたほうがいいですな、伯爵閣下。なんでも、あの小娘と会った人間は、誰でも人間的に魅了されてしまうそうではありませんか。もしや、閣下も……」
「悪い冗談はよせ。わたしは、あの小娘を自分の力のための駒としか思ってはおらぬ」
ヴェルク三世は再び腰を下ろした。
「話を戻せ、トイス」
「はっ。失礼いたしました」
トイスは姿勢を正すと頭を下げた。
「サシェル男爵をどうするかについての話でしたな。そう。男爵には、バルテノーズ家の専横に対する抗議の声を第一に上げていただく。当然、バルテノーズ家は反発するでしょう。自然と、サシェル男爵は反バルテノーズの象徴的存在となっていく」
「それで?」
トイスは含み笑いを漏らした。
「運動が最高潮に達したとき、謎の暗殺者により突然男爵は暗殺されてしまうわけですな。この事件を機に、反バルテノーズ派は暴発する。暴動に発展するのがいいでしょう。あくまでも鎮圧可能な程度のものですが」
「なるほど」
ヴェルク三世も納得の笑みを漏らした。
「そこで暴動を鎮圧し、調停者となるのが閣下です。鎮圧ついでにバルテノーズ家まで無力化できれば、万事大成功というわけです」

ヴェルク三世は憮然とした調子で漏らした。神経質そうな顔がしかめられる。
「『いかさま賽』、お前は、本気でそういっているのか?」
「本気も本気ですよ、伯爵閣下」
「しかしわたしには……」
「まあ、お聞きください」
トイスは壁に寄りかかると、ポケットから二つの、なんの変哲もないサイコロを取り出すともてあそび始めた。
「サシェル・イルミール男爵は、さっきも申しましたとおり、エリカ公爵閣下……いや、民衆に投げてやる餌にすぎません」
「間違えるな、トイス」
ヴェルク三世は厳しい声でいった。
「わたしは、あのエリカという娘の命まで奪おうなどとは考えてもおらん。忘れるな、ゆくゆくは、わたしはあの女と結婚し、公爵家自体を乗っ取らなければならんのだ。そのためには、今の段階で、エリカ・バルテノーズという小娘を怒り狂った民衆の前に投げてやるということは避けねばならんのだ」
トイスは笑った。
「伯爵閣下、まるであの娘を大事に想っておられるようなお言葉ですな」
「馬鹿なことを!」
がたっと音を立てて、ヴェルク三世は立ち上がった。
「わたしがあんな小娘になにを感じておるというのだ!」
「まあ、おれは会ったことがないですが、気をつけたほうがいいですな、伯爵閣下。なんでも、あの小娘と会った人間は、誰でも人間的に魅了されてしまうそうではありませんか。もしや、閣下も……」
「悪い冗談はよせ。わたしは、あの小娘を自分の力のための駒としか思ってはおらぬ」
ヴェルク三世は再び腰を下ろした。
「話を戻せ、トイス」
「はっ。失礼いたしました」
トイスは姿勢を正すと頭を下げた。
「サシェル男爵をどうするかについての話でしたな。そう。男爵には、バルテノーズ家の専横に対する抗議の声を第一に上げていただく。当然、バルテノーズ家は反発するでしょう。自然と、サシェル男爵は反バルテノーズの象徴的存在となっていく」
「それで?」
トイスは含み笑いを漏らした。
「運動が最高潮に達したとき、謎の暗殺者により突然男爵は暗殺されてしまうわけですな。この事件を機に、反バルテノーズ派は暴発する。暴動に発展するのがいいでしょう。あくまでも鎮圧可能な程度のものですが」
「なるほど」
ヴェルク三世も納得の笑みを漏らした。
「そこで暴動を鎮圧し、調停者となるのが閣下です。鎮圧ついでにバルテノーズ家まで無力化できれば、万事大成功というわけです」
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~ Comment ~
次から次へと…
よくも、こんなに陰謀が出てくるんですなぁ。
頭の弱いfateには段々ついいけなくなりそうです…
しかも、エリカのとんでもない弱みって、具体的には分からないけど、もしやこんなこと? という想像が出来て…ううむ。
頭の弱いfateには段々ついいけなくなりそうです…
しかも、エリカのとんでもない弱みって、具体的には分からないけど、もしやこんなこと? という想像が出来て…ううむ。
Re: LandMさん
ヴェルク三世としては、なんとしてでもバルテノーズ家の家督がほしいのであります。そして中央に食い込もう、と。伯爵では重みが足りませんからねえ。どうしても公爵位が。
織田信長というより、ハプスブルク家と……いえないよなあやっぱり。街中の卑小な争いだもんなあ。
織田信長というより、ハプスブルク家と……いえないよなあやっぱり。街中の卑小な争いだもんなあ。
Re: ぴゆうさん
策士なんてみんな姑息なものですハイ(笑)。
ヴェルク三世の中央のし上がり計画には、バルテノーズ家と姻戚関係を結び、あわよくば乗っ取ってしまうというのが必要不可欠な要素ですからねえ。これだけは譲れないというか。
こんな悪人どもを気に入っていただいてうれしいです。作者がいうのもなんですが、友達にはしたくないタイプばかりですが(笑)。
ヴェルク三世の中央のし上がり計画には、バルテノーズ家と姻戚関係を結び、あわよくば乗っ取ってしまうというのが必要不可欠な要素ですからねえ。これだけは譲れないというか。
こんな悪人どもを気に入っていただいてうれしいです。作者がいうのもなんですが、友達にはしたくないタイプばかりですが(笑)。
NoTitle
女性は政治の道具…というのはまあ織田信長のときは普通でしたけどね。ただ、それを計算に入れすぎるのもアレだと思いますけどね。・・・取らぬ狸の皮・・・とはいうものですね。
どうも、LandMでした。
どうも、LandMでした。
NoTitle
まっ
と椅子じゃない、トイスって姑息ぅ~~
だけど、このマザコン。
エリカを自分の物認定しているよね。
ちょっとちょっと、そこのアホンダラーと一声言いたくなる。
しかしキャラが楽しい。
どいつもこいつも。

と椅子じゃない、トイスって姑息ぅ~~
だけど、このマザコン。
エリカを自分の物認定しているよね。
ちょっとちょっと、そこのアホンダラーと一声言いたくなる。
しかしキャラが楽しい。
どいつもこいつも。
- #2824 ぴゆう
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- 2010.12/23 06:12
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Re: fateさん
殴り合うより密談しているときのほうが長い、という(^^;)
そしてこれから終末港は地獄絵図になりますのでよろしく(^^;)