「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第二部 非情の冬
紅蓮の街 第二部 7-1
7
すぐにやむ、という終末港市民の大半の予測に反し、五日が過ぎてもいっこうに雪はやまなかった。
「薪も炭も高騰しています……」
「食料が天井知らずの高騰……」
「難民が次から次へと流入してきます……」
「海産物を取ろうにも悪天候で船が出せない、という訴えが多数……」
次々ともたらされる、悪化の一途をたどる知らせを、エリカは硬い表情で聞いていた。
「ありがとう。また、特筆すべき状況になったら報告してくれる?」
「はっ。閣下」
「下がっていいわ」
しばし、エリカは黙って考え込んだ。
「アクバ」
常にエリカのそばにいる家令のアクバは、ついとエリカの脇へ寄ってきた。
「なんでしょうか」
「会議を開きたいわ。明後日の評議会の前に、こちらでも打ち合わせをしておきたいの。重臣たちを呼んでくれる?」
「はっ」
アクバは一礼し、くびすを返そうとした。
「アクバ」
「はっ?」
エリカは、なんでもないようにいった。
「会議には、アグリコルス博士のほかに、あの新参の二人も呼んできてくれる?」
これで誰のことをいっているのかがわからなければ、貴人の家で家令など勤められるわけがない。
「ガス殿と、ナミ殿ですな」
「そのとおりよ」
「わかりました。ほかに何か」
エリカは、少々いいにくそうにしていたが、やがて真剣な顔でアクバにいった。
「会議の前に、あの男を呼んでほしいの」
「あの男……?」
アクバははじめて、とまどった。
「『彫刻屋』のガスのことよ」
「かまいませんが……あの男がなにかしましたでしょうか?」
「なにもしていないわ」
エリカは笑った。このところ、硬い表情しか取ることができなかったエリカにしては、初めての心からの微笑みだった。
「ただ、あの男には、聞いておかなければならないことがあるのよ」
「わたくしがうかがっておきましょうか」
エリカは首を振った。
「これについては、わたしが、わたしだけが聞かなくては意味がないのよ。わかって、アクバ」
「はっ。では、そのように」
しばらくしてから、エリカの部屋へアクバに伴われたガスが入ってきた。
「おれになにか用ですか、公爵閣下」

すぐにやむ、という終末港市民の大半の予測に反し、五日が過ぎてもいっこうに雪はやまなかった。
「薪も炭も高騰しています……」
「食料が天井知らずの高騰……」
「難民が次から次へと流入してきます……」
「海産物を取ろうにも悪天候で船が出せない、という訴えが多数……」
次々ともたらされる、悪化の一途をたどる知らせを、エリカは硬い表情で聞いていた。
「ありがとう。また、特筆すべき状況になったら報告してくれる?」
「はっ。閣下」
「下がっていいわ」
しばし、エリカは黙って考え込んだ。
「アクバ」
常にエリカのそばにいる家令のアクバは、ついとエリカの脇へ寄ってきた。
「なんでしょうか」
「会議を開きたいわ。明後日の評議会の前に、こちらでも打ち合わせをしておきたいの。重臣たちを呼んでくれる?」
「はっ」
アクバは一礼し、くびすを返そうとした。
「アクバ」
「はっ?」
エリカは、なんでもないようにいった。
「会議には、アグリコルス博士のほかに、あの新参の二人も呼んできてくれる?」
これで誰のことをいっているのかがわからなければ、貴人の家で家令など勤められるわけがない。
「ガス殿と、ナミ殿ですな」
「そのとおりよ」
「わかりました。ほかに何か」
エリカは、少々いいにくそうにしていたが、やがて真剣な顔でアクバにいった。
「会議の前に、あの男を呼んでほしいの」
「あの男……?」
アクバははじめて、とまどった。
「『彫刻屋』のガスのことよ」
「かまいませんが……あの男がなにかしましたでしょうか?」
「なにもしていないわ」
エリカは笑った。このところ、硬い表情しか取ることができなかったエリカにしては、初めての心からの微笑みだった。
「ただ、あの男には、聞いておかなければならないことがあるのよ」
「わたくしがうかがっておきましょうか」
エリカは首を振った。
「これについては、わたしが、わたしだけが聞かなくては意味がないのよ。わかって、アクバ」
「はっ。では、そのように」
しばらくしてから、エリカの部屋へアクバに伴われたガスが入ってきた。
「おれになにか用ですか、公爵閣下」
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~ Comment ~
NoTitle
ふと思ったのですが
アクバって北斗の拳に出てきたアミバさんとおんなじ響きが・・・・。
気のせいかだんだん人物像もそれで・・・。
あぁ、すいません!
アクバって北斗の拳に出てきたアミバさんとおんなじ響きが・・・・。
気のせいかだんだん人物像もそれで・・・。
あぁ、すいません!
- #2828 ねみ
- URL
- 2010.12/23 19:03
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Re: limeさん
が、ガスくんはつらいだろうなあ。
と、書けば、おわかりいただけるかと……(^^)