紅蓮の街 第二部 7-2

　ガスの問いに、エリカはうっすらと微笑んだ。

「前にあなたにお聞きしようと思っていたことを、今、この場所で聞いておこうと思ったのです」

　ガスは黙り込んだ。

「確かに、お教えしてもいいとはいいましたがね、今じゃないと駄目なんですか、公爵閣下？」

　エリカは真剣な瞳でガスの瞳を見た。

「明後日には、わたしは、事実上のガレーリョス家との交渉の場である、評議会に臨まねばなりません」

「……………………」

「それに備えての会議をこれから開きますが、それに際してあなたからの献策を受ける前に、『彫刻屋』のガス、あなたの人間を知っておく必要があるのです」

「献策ではないかもしれませんがね」

　ガスは事実だけを述べる調子で語った。

「第一印象で、その人間が信じられるかそうでないのかがぴんとこないのであれば、おれは貴族の家の当主なんかやめていますね」

「あなたは信じられる人です、理性的な人をそう呼ぶのであれば」

　エリカはいった。

「しかし、わたしは、あなたの感情の奥底が知りたいのです」

「奥底ですか」

　ガスは吐き出すようにいった。

「そんなものを知って……」

「あなたが利だけで転ぶような、心の底からの裏切り者ではない、ということさえわかればいいのです」

「それが公爵閣下にとっては忠誠の証になるというわけですか？」

「そうです」

　ガスは視線をアクバに向けた。

「だったら、家令のかたには席をはずしてもらいましょうか。それと、ここから先はこの場だけの話にしていただきたい」

「アクバ」

　エリカは忠実な家令に命じた。アクバは一礼した。

「椅子をお持ちいたしましょうか？」

「ガス？」

「おれは立っているだけでけっこう」

　アクバは再び一礼すると、部屋を出て行った。

「まったく強引なお姫様もあったもんですよ、公爵閣下は」

　ガスの疲れたようなつぶやきに、エリカは微笑みで返した。

「そういえば、おれに関しての悲しい噂を聞いているとかおっしゃってましたよね？　どんな噂です？」

「孤児院でレーアという女の子が死んだのは、あなたの暴力や落ち度ではなかったという噂です。それとは逆の噂もそうとう聞きますが、わたしは悲しいほうを信じます」