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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 5-4

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    第五章 ユニオン・ジャッカー(承前)


     高居の夢の中、わたしは着流し姿で二刀をたばさんでいた。
     剣道なんて知らなかったが、どうもこの二刀は竹刀よりも軽いらしい。身につけて歩いていてもまったく不自由を感じない。
     それにしても。わたしは辺りを見回して溜息をついた。
     明るすぎる町並み。箱庭のような風景。どこかで見たような顔、顔、顔。
     時代劇の世界なんて。
     見た感じだと、江戸の町らしい。でも夢の中なのだから、つながりを無視して、一歩裏に入れば貧乏長屋が並んでいたりするのだろう。
     まずは高居を探すことにした。こう人が多いと、探すのもたいへんだ。
     人にぶつかりぶつかりしながら、きょろきょろ見回していたところ、視界の隅に人影をとらえた。やせた浪人風の男。
     あの男か? わたしは慌ててその後ろ姿を追いかけた。
     角をひとつ曲がる。
     いきなり風景が寂しくなった。
     気がつくとわたしは薄暗い曇り空の下、草っ原のどまんなかで高居とおぼしき男と向かい合って立っていた。
     高居はわたしの目の前で腰のものを抜いた。刃が冷たく光る。
    「川畑敏左衛門の手先か」
     川畑敏左衛門? 一瞬混乱した。佐竹一のボスである、国会議員の川畑敏則の名前が頭に浮かんだときはもう遅かった。
    「斬る!」
     高居は素早くこちらに走り寄ってきた。横殴りの一閃。
    「うわっ」
     わたしは後方に飛びのくと、なんとか刃をかわした。
    「おのれ!」
     二度三度と斬撃がくる。こちらも必死でよけ続けたが、いつかは当たってしまうだろう。しかも相手は合気道だか剣道だかの達人だ。死ぬ。これは死ぬ。
     脳裏に、医学部時代に別れた恋人の顔がちらついたとき、高居は急に立ち止まった。
    「なぜ抜かぬ」
     は?
    「お主も武士であろう。ならば抜け!」
     腰の二刀に目を落とした。とんでもない、こんなもの抜いたら斬られてしまう。
     わたしは刀に手をかけると、両刀をがらりと大地へと投げ出した。
    「ここは話し合おうじゃないか!」
    「話すだと? 大小を投げ捨てて話すなど、それが武士のやることか!」
     わたしは武士じゃない。といっても、相手に通じるかどうか。
    「まあ待て。待ってくれ。わたしは川畑の手先じゃない。わたしが追っているのは、えー、あー、妖怪だ」
    「怪しのものとな?」
    「そう、まあ、そんなものだ」
    「かようなものは知らぬ」
    「だろうな」
     そうつぶやき、なんの気なしに地面を見た。
     目を疑った。この暗いのに、高居の身体から影が伸びている。そしてその影は……。
     くそっ!
     その影は、人外のものの姿をしていたのだ!
     わたしが気付いたことに、高居も気付いたようだった。形相を一変させると、さらに激しく斬りつけてくる!
     こちらには武器はなにもない。
     精神を集中させる時間さえあれば、短筒くらい作れるかもしれないのだが。
     わたしは刃を避けて逃げ惑うだけだった。
     武器……さっき投げ捨てた刀を拾えれば!
     焦りながら探した。夢の中の世界に飲み込まれていないことを祈った。
     願いは聞き届けられた。
     あった!
     わたしは刀に近寄ろうとしていることを高居に悟られないようにしながら逃げ回った。
     こうまでも逃げていられるのはわたしがナイトメア・ハンターとして、夢の世界に適応する訓練を受けているからだ。
     しかしそれでも限界は来る。その前に刀を拾いたい。
     わたしは刃を避けながら大地に転がって……。
     斬られた!
     かと思ったが奇跡的に身には傷ひとつなかった。奇妙な感じがする。
     刀に手を伸ばした。手がぬるぬる滑るので摑みづらい。凍りついたような零コンマ零何秒。
     鞘ごと刀を持ち上げ、それで相手の刃を受け止めた。危ないところだった。あとほんのわずかでも遅れたら、わたしの身体はまっぷたつになっていたに違いない。
     冷や汗を感じているヒマはなかった。
     半ばヤケクソで鞘から刀を抜いた。だが、武道の達人に正面きって斬りあって勝てるはずもない。なにか勝つには別な手段が必要だった。
     直感と本能に全てを任せ、わたしは……。
     刀を地面に突き立てた。
     高居は胸を押さえると、刀を取り落として地面に倒れ伏した。
     勝算があったわけではない。
     わたしは肩で息をつきながら額の汗をぬぐった。
     足元では、刺し貫かれた影が、苦しみ悶えていた。
     精神を集中させ、手中に銃を物象化させた。短筒のような骨董ものの銃が姿を現す。
     銀の弾丸をイメージして、地面に二発撃ち込んだ。
     影はゆっくりと動きを止めた。
     空が少しずつ晴れて行き、わたしは夢から覚めた。

    「どうでした?」
     汗だくになって目を覚ましたわたしに、北村は心配そうに声をかけてきた。
    「いた。夢魔だ。高居さんがこうなら、佐竹一には相当強い夢魔が取り憑いていることだろう。正直、潜っても、選挙違反の証拠を見つけ出せるだけの余裕があるかどうか、自信はまったくないな」
    「ということは、この仕事は?」
    「やるよ。なには置いておいても、夢魔だけは狩らなくてはな。わたしは、ナイトメア・ハンターなんだ、腐っても」
     虚勢が三分の一くらい入っていた。
    「われわれとしては選挙違反の証拠が手に入ることを最優先してほしいです」
    「夢に入ったら、自分が生き残ることだけで精一杯になりかねない。そこはわかってくれ。わたしがいうのもなんだが」
    「そういうことでしたら」
     北村はどこか不満そうだった。もっともだ。
    「山瀬さんも佐竹一の監視から外しておいたほうがいいかもしれないな。彼まで夢魔に取り憑かれかねない」
    「それは無理です。監視は続けなくてはなりません。山瀬を離すそのためには、一刻も早く桐野さんに佐竹一の夢に入っていただかないと」
    「……」
     黙るしかない。
    「桐野さん、なにか、われわれにできることはありますか?」
    「してほしいことはただひとつだ」
     わたしは、あたりを見回した。
    「高居さんの夢に入ったことで、精神的にかなり疲れた。どこかで眠らせてくれ。少なくとも八時間。それさえ済んだら、佐竹一でも文鮮明でも、エリザベス二世だろうと、誰の夢にでも潜って見せるから」
    「用意しましょう。頼みます」
     北村は腕時計をちらりと見た。まだ一時前である。
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    喜んでもらえて嬉しいであります。

    これで時代小説もイケるなんていわれたら、ほんとうに時代小説を考証に考証を重ねて書いている方に申し訳ないであります。(^^;)

    ポールブリッツさま時代小説もイケますよ^^

    すごく緊迫していてドキドキハラハラしました!

    いやーこのシリーズ面白いです!

    >佐槻勇斗さん

    個人的にはその前の文鮮明のほうがメインのギャグのつもりだったのですが(爆)。ジェネレーションギャップかなあ(^^;)

    北村さんはいい人ですよ。基本的に「静」の人ですけど。今連載している第3弾の「吸血鬼を吊るせ」にもしばらくしたら再登場しますので、こちらが読み終わりましたらそちらもぜひ……。

    桐野先生必死ですね。
    エリザベス2世www

    でも、佐槻は仕事に真面目な北村さんのもっともなセリフが大好きです。
    北村さんが出てくるとテンション上がりますね。

    佐竹さんにどんな夢魔が取り憑いているのか楽しみですww
    続き、また読みに参ります(´∀`)ノ

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