ささげもの
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「塔の中の姫君の昔話異伝」
魔法使いは、鏡を見ながらちょっと襟元を直した。
万全だ。身だしなみは完璧そのものだ。
ちょっと、階下がうるさいが……。なにかあったのだろうか?
まあいい。そんなことは、どうでもいいのだ。今日は、念願の、あの隠者がいっていた一年目に当たるのだから。
魔法使いは、そわそわしながら塔のてっぺんの部屋へ向かった。そこには、魔法使い自身が描いた、美しい姫の絵姿がある。
隠者の話によれば、塔の最上階の小部屋で、陽の光を浴びせることを一年間続ければ、絵姿の姫と自分は結ばれるということだった。
もう陽は落ちたころだ。魔法使いは、期待に胸をときめかせながら小部屋の扉を開いた。
魔法使いは中を見た。
姫はいなかった。ただ単に、自分の描いた絵が、窓に向かって掲げられているだけだった。
魔法使いはよろよろとよろけた。
最初に頭に浮かんだのは、隠者に対する怒りだった。そしてその次に襲ってきたのは、絶望……。
いや。
違う。
この絵を小部屋に掲げ、毎日毎日、案じ、悩み、そしてやがてくるその日をこれ以上ないほど楽しんだ以上、自分とこの姫は、ある種の絆で、固く結ばれていたということではないのだろうか?
あの隠者は、それをいわんと?
そのとき、小部屋の扉が跳ね開けられ、武具に身を包んだ聖騎士がなだれ込んできた。
魔法使いは、全てを得たものの笑みを浮かべ、聖騎士に向かって、ひとこといった。
「……飲まんかね?」
元小説:「塔の中の姫君の昔話」http://crfragment.blog81.fc2.com/blog-entry-234.html
魔法使いは、鏡を見ながらちょっと襟元を直した。
万全だ。身だしなみは完璧そのものだ。
ちょっと、階下がうるさいが……。なにかあったのだろうか?
まあいい。そんなことは、どうでもいいのだ。今日は、念願の、あの隠者がいっていた一年目に当たるのだから。
魔法使いは、そわそわしながら塔のてっぺんの部屋へ向かった。そこには、魔法使い自身が描いた、美しい姫の絵姿がある。
隠者の話によれば、塔の最上階の小部屋で、陽の光を浴びせることを一年間続ければ、絵姿の姫と自分は結ばれるということだった。
もう陽は落ちたころだ。魔法使いは、期待に胸をときめかせながら小部屋の扉を開いた。
魔法使いは中を見た。
姫はいなかった。ただ単に、自分の描いた絵が、窓に向かって掲げられているだけだった。
魔法使いはよろよろとよろけた。
最初に頭に浮かんだのは、隠者に対する怒りだった。そしてその次に襲ってきたのは、絶望……。
いや。
違う。
この絵を小部屋に掲げ、毎日毎日、案じ、悩み、そしてやがてくるその日をこれ以上ないほど楽しんだ以上、自分とこの姫は、ある種の絆で、固く結ばれていたということではないのだろうか?
あの隠者は、それをいわんと?
そのとき、小部屋の扉が跳ね開けられ、武具に身を包んだ聖騎士がなだれ込んできた。
魔法使いは、全てを得たものの笑みを浮かべ、聖騎士に向かって、ひとこといった。
「……飲まんかね?」
元小説:「塔の中の姫君の昔話」http://crfragment.blog81.fc2.com/blog-entry-234.html
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~ Comment ~
ありがとうございます
10000hitおめでとうございます。
そして素敵な物語をありがとうございます。
どうして、こんな素敵な物語が紡げるのですか~?
創造が苦手な私は
ただただ尊敬し感心するばかりです。
お姫様と魔法使いがこれからも固い絆で結ばれますように♪
ありがとうございました。
そして素敵な物語をありがとうございます。
どうして、こんな素敵な物語が紡げるのですか~?
創造が苦手な私は
ただただ尊敬し感心するばかりです。
お姫様と魔法使いがこれからも固い絆で結ばれますように♪
ありがとうございました。
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Re: あこがれや妻さん
あこがれや妻さんのお気持ちを傷つけるような作品にだけはしまいと、それだけを念じて書いておりました。
この小説は、あくまでも「異伝」ですから、元小説とどちらが真実かなんてことは考えずに(どっちもフィクションですものね)、好きなほうを選べばいいと思います。
元小説のほうは、ちょっと悲惨に過ぎたかなあ、とかねがね思っていたもので……。