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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第二部 非情の冬

    紅蓮の街 第二部 8-1

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     エリカは息をついた。長い息だった。

    「おれは話しましたからね」

     ガスはいった。

    「よく話してくれました」

    「気分が晴れたか、とは聞かないでください、公爵閣下。おれは後ろめたくてたまらないんだ。亡くなられた伯爵閣下との約束を踏みにじってしまったのだから」 

    「宝玉です」

    「え?」

     エリカは椅子から立ち上がると、ガスの手を取った。

    「あなたは、わたしが見込んだとおりの人間でした。あなたは宝玉です。かけがえのない宝のような人材です。わたしは、街を襲う危難に際してあなたのような人の助力を受けられることを天に感謝します」

    「やめてください。おれは……」

     ガスは手を引っ込めようとしたが、エリカはガスの手をしっかりと握った。

    「わたしはこうしてあなたと握手できることを、これ以上ない栄誉と思います」

     エリカはささやくように続けた。

    「あなたの才と力を、わたしとバルテノーズ家へ預けてください、『彫刻屋』のガス。あなたのような人の力が必要なのです、この難局を乗り切るには」

     すらりと立ったエリカには、為政者としての気品と決意があった。

    「終末港の市民たちを、全員救うことは無理でしょう。しかし、三十万人死ぬところを十万人で抑えられるのなら、わたしは悪魔にだって魂を売ります」

    「お……おれは悪魔ですか」

    「誰もそんなことはいっていません」

     エリカは苦笑した。

    「あなたには、わたしの地獄への旅路で、道案内を務めていただきたいのです」

    「地獄の道案内?」

     ガスの顔に、理解の昏い色が広がった。

    「そろそろ、アクバもしびれをきらせているころでしょう。呼ばなくてはなりませんね」

     ガスの手を放したエリカは、部屋の出口へ進むと、扉を叩いた。

     扉は左右に開き、外で番をしていた二人の家士が、そろってエリカの前で直立不動になった。

    「アクバと、わたしの相談役たちを呼びなさい。すでにアクバが揃えていることだろうと思いますがね」

    「はっ。わが主よ」

     ガスはエリカに、硬い表情で尋ねた。

    「公爵閣下、地獄への道案内、おれなんかにできると思いますか?」

     エリカは答えた。

    「これからの地獄は、あなたが見た地獄に劣るものではないでしょう。だからこそ、そこを見届けたあなたの目が必要なのです」



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    ~ Comment ~

    Re: limeさん

    終末港は自由な貿易港ですから、ラブロマンスのほうもけっこうオープンですが、この時代と世界背景では、身分の差は絶対、というものがあります。公爵閣下と雇われ戦士では、時代劇の「姫」と「忍者」以上の身分の開きがあるものだと考えてください。もしもガスくんがエリカちゃんとの間にロマンスを芽生えさせ、手を出したことが公になってしまったら、ガスくんは打ち首で、エリカちゃんは修道院にでも自発的に入らなくては世間が許さないでしょう。そのくらいのスキャンダルです。ヴェルク三世が豪語するのも実は当然で、範囲を終末港だけに限ったら、エリカちゃんの婿として家格の釣り合いが取れるのは、伯爵家の爵位を持っているヴェルク・ガレーリョス三世くらいなのです。サシェル・イルミール男爵ですら、位が違いすぎてよほどのことがないとエリカちゃんを嫁にすることは不可能でしょうね。

    とはいえ、世の中には、そういったスキャンダルを恐れない連中、というのも確かに存在していて……アクバさんたいへんだ(笑)。

    NoTitle

    エリカは地獄の門をくぐって、どこへ行こうとしてるのか。
    民を救うには、やっぱり危険な戦いが伴うのか・・・。

    で、エリカちゃんとガス。
    美女と野獣のようで、わくわくするんですが、ロマンスなんて・・・ない?
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