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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 5-5

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    第五章 ユニオン・ジャッカー(承前)


     目を覚ましたときには陽はとっぷりと暮れていた。森村探偵事務所のソファーで毛布を引っかぶって寝ていたので、身体が少々痛い。だが、気分は悪くなかった。
     北村からコップの水と書類を受け取った。頭をしゃっきりさせるために水を飲みながら、書類を読む。佐竹一についてわかっていることの詳細なデータだった。
    「さすが、ナイトメア・ハンターだけあって起床時間は正確ですね」
    「しらふで寝たからだよ。酒が入っていたらこうは行かない。ところで、酒……じゃなかった、食事を取らせてほしいんだが。ファミレスでけっこうだから」
     北村はにこりと笑った。
    「起きるだろう時間に合わせて、近所の中華料理店に出前を頼んでおきました。あと五分もしたら来ます。半チャンラーメンでいいですよね?」
     否やはなかった。カップラーメン以外のラーメンは久しぶりなのだ。
    「ラーメンはいいとして、桐野さん、書類は読み終わりましたか?」
    「まだ読み始めたばかりだ」
    「それでは、食事を取りながらでも読んでください。残念ながら、政治のダーティーな世界に足を突っ込んだ男ゆえに、過去をたどるのは容易なことではなく、わからないことばかりでしたが」
     それでも充分だ。
     佐竹一、四十三歳。富山の貧しい工員の家に生まれる。三歳にして父他界。その後、母と共に想像を絶するような悲惨な少年時代を過ごす。
    「この、犬を助けて職を失うっていうのは?」
    「佐竹一が小学生のとき、犬を飼っていたんです。あるとき犬がちょっとした規模の工場敷地内に入ってしまい、たまたま視察に訪れていた本部の偉い人に殴り殺されそうになり、犬を追って入ってきた佐竹一はそれを止めようとして」
    「偉い人に組み付いた、と」
    「悪いことにその系列の工場で、彼の母親が働いていたんですね。鶴の一声で母親は解雇です」
    「ひどい話だ」
     十九のとき、母死去。単身上京。苦学していたが、学校を中途退学して政治の世界へ飛び込む。以降、川畑敏則の私設秘書として活動、現在に至る。
     私設秘書になってからの経歴はすごいのひとことだった。
     なにせ、汚職と不法行為の塊なのだ。これだけの量の談合やら不正投票やら買収やらに関わっていて、そのいずれも「恐らくは関与したと思われるが、具体的証拠なし」なのだから驚いたり呆れたりを通り越して感嘆してしまう。
    「警察はなにをやっていたんだ」
     資料から目を上げて北村にいうと、やつは肩をすくめてそれに答えた。
    「ラーメンが来ましたよ」
     ラーメンをすすり、チャーハンをほおばりながら続きを読む。
     川畑議員をめぐる金の黒い流れは、これだけの危ない橋を渡ったらしい形跡があるにもかかわらず、さっぱり見えなかった。もしどこかで破綻があったとしても、ただ単に佐竹一と該当する相手との間の、ごく私的な金のやりとりだけで済んでしまうようにできているのだ。革命組織のもつ、細胞システムのような芸術性がそこには感じられた。まったく、人間の悪知恵というものには底がない。
     今回の謎の献金先は、それらとはだいぶ様相が異なっていた。これまでは、とにかく相手らしきものは見えてはいたが、これはほんとうにまったくの闇に包まれているのだ。わかっていることは、何回かにわけて、相当額に上る金額が、煙に溶け込んでしまったかのごとく消えている。
     これを突き止めれば、川畑議員の息の根を止めることにもつながるかもしれない。依頼主が求めていることはたぶんそれだろう。
     麺と野菜を食べ終わり、スープにとりかかる。
    「依頼主は誰なんだい」
    「それは教えるわけには行きません」
     まあそれはそうだな。わたしはスープを飲み干した。塩分などを考えると健康には悪いかもしれないが、古人のいう通り、カロリーを取らなければ戦はできない。
     資料の後半は、佐竹一につながる人間の顔写真のリストだった。膨大な数だ。とてもじゃないが全員は覚えられない。
    「この中でもっとも関わっていそうな人物は」
    「きりがありません。載っている人間は皆同等に怪しいと思ってください。まあ、ここにこうしてありますが、桐野さんには、夢から戻られてから顔をチェックしていただくことになろうかと思います」
     それならば話はわかる。それでも、わたしはトップから二十人の顔と名前、役職を覚えておくことにした。佐竹一の夢の中で、なんの役に立つかわからないからだ。本来だったらもっと覚えておくところだが、短い時間ではそのくらいしか覚えられない。
    「潜るのはいつになりますか」
    「今夜、十二時以降だな」
     わたしは時計を見た。九時を回ったところだった。

     三時間の間、わたしは一夜漬けをする受験生になったつもりで書類とにらめっこをした。
    「どうです? 桐野さん」
    「佐竹一という男かい?」
    「ええ」
    「昔はどうだったかしらないが、今は最低のゲス野郎だという印象を受けた」
    「すばらしいご理解です」
     わたしは、はは、と乾いた声で笑って資料を閉じた。
    「そろそろ?」
    「ええ。駐車場へ」
    「北村さんの運転で?」
    「いえ。高居が。わたしもご一緒しますけどね」
    「それは安心だ。なにせ相手は強力な夢魔にとりつかれているらしいからな」
    「じゃ、早く行きましょう。高居が車で待っている」
     わたしたちは連れ立って外の駐車場に向かった。
     身体の芯までひびくほどの冷え込みだった。そして乾いた空気。
    「寒いな」
    「西高東低の冬型の気圧配置だと天気予報ではいってましたからね。湿度も三日連続で今月最低を更新しているとか」
    「冬は嫌だな。夏も嫌だけど」
     車は年代物のカローラだった。わたしは勧められるままに乗り込んだ。
     夜ともあって、道はかなりわかりにくかったが、ポイントポイントを頭に叩き込んだ。薬屋。レストラン。ディスカウントショップ。
     また来るような予感があったからだ。
     それは、佐竹一に憑いているだろう夢魔を今日のうちに倒すことはできないのではないか、ということでもある。高居の夢魔を黙らせるにもあれほど苦労したのだから。
     脳裏に是蔵忠道の声がよぎった。
    「あなたは運がよかった」
     そうかもしれない。いや、きっとそうだろう。
     それでも、わたしは夢魔を狩らねばならないのだ。
     同時に、今回は森村探偵事務所からの依頼も果たさなければならない。
     夢魔を倒せば、依頼も果たせると思うのだが。倒せなくても情報だけは得なければならないのが辛いところだ。わたしは内心が顔に出るたちだ。それは北村も知っている。報告のときは本当のことをいわなければならないだろう。もとより嘘をつく必要などはまったくないのではあるが。
    「ここですよ」
     車は二階建ての安っぽい建物の前で停まった。ちりっ……と、背筋になにか異様な感覚が走る。違う……この場所は、なにかが違う……。
     わたしは看板を読んだ。
    「選挙事務所……?」
    「ここの二階が佐竹一の寝床なんです。桐野さん、お願いします」
    「やつはもう寝てるのか」
    「早寝早起きを習慣としている男なんです。この事務所にいるときは、遅くとも十一時には寝てしまいます」
     運転席の高居が口を挟んできた。
    「主任、このままここに長く停めておくわけにも行かないですよ」
    「高居君、お巡りがやってきたら交渉はわたしがする。君はいつでも車を発進できるように準備しておいてくれ。それでも、桐野さんは、夢に入っておられる間に、その相手から離れすぎてしまうと、肉体と精神が分離してしまうかもしれないことを忘れないでいてくれよ。桐野さん、そういうことです。できるだけ早く戻ってきてください」
    「わかった。やれるだけやってみる」
     わたしは目を閉じ、回転する六角形を思い描いた。
     ここまで目標と距離を置きすぎていると夢に入るのはなかなか難しいのだが、精神さえうまく集中できれば。
     気がふっと遠くなり……。
     わたしは佐竹一の夢の中へ入った。
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    佐竹の夢ですが……。

    まあごゆるりと。ふっふっふっ。

    と気を持たせるのであった(^^)

    ユニオンジャッカーの名前が出ると戦慄を覚えますね…。

    果てしなくクロに近い男佐竹の夢とは…!?
    続きが待てませんね…また今日読みに来てしまうかも?です。

    >佐槻勇斗さん

    若いっていいなあ(←おいおい(^^;))

    それは森村探偵事務所も金をケチったということで(^^)

    佐竹さんの夢は……さてどうでしょう♪

    半チャンラーメン?
    桐野先生、佐槻は"喰らう"ときはチャーハン、ラーメン、餃子、一人前ずつを一人で食べきりますよ(´∀`)アハ

    今回はまだ夢の中のシーンまで来ませんでしたね。
    佐槻の読むスピードが遅いだけですが^^;
    佐竹さんのどっろどろしているであろう夢を期待しつつ← 今日はこの辺で失礼します。それでは
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