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    ささげもの

    10008ヒット:ネミエルさんに捧ぐ

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    「まだ電話はかかってこないのかしゃく」

    「そのうちかかってくるさ」

     俺と美鶴は机の上の携帯をにらんでいた。今のところ携帯はだまりこくっている。

    「10008ヒット記念のショートショートを贈ってくれるということだが、これまで、ポール・ブリッツの小説のレギュラー・メンバーはたいてい出て来ている。エドさんだろ、桐野さんだろ、範子ちゃんに文子ちゃんだろ、ガスさんだろナミさんだろ、それに『昔話シリーズ』からも」

    「するともう、順当に行けば残っているのは紅探偵事務所の紅恵美ちゃんだけでしゃく。十九歳で美人のお姉さんしゃく」

    「まあ、そういうことになる。だから、俺たちとしては、失礼がないようにしなくちゃならないんだ」

     俺は隣りでうきうきした顔をしている美鶴を見て、ため息をついた。ついこないだも、こんなことがあったような気がする。基本的に普通の人間程度の力しか持っていないあの人の登場人物は、美鶴の妙なパワーに対してほとんど抵抗できないのだ。

     それを抑えて、紅恵美さん(年上の女性だからこういわなければ失礼だろう)を無事に美鶴の魔の手からまもるのが、俺の使命だ。

    「こんなものも用意してきたでしゃく」

    「水着なんか用意してもあの人は着ないぞ! こんな寒いときに!」

    「だから僕が温めてあげるでしゃく」

     だめだこいつは。俺がしっかりしておかないと。

     電話が鳴った。

     おれが取る前に、さっと美鶴が携帯をひったくった。

    「もしもし! 恵美ちゃんでしゃく? うひひひ……え? 恵美ちゃんじゃなかったらさっさと切るでしゃく! 病院なんか知らないでしゃく!」

     美鶴はピッと携帯を切った。

    「誰からだったんだよ」

    「『刻み岩』とかいってたでしゃく」

     どこかで聞いた覚えがあるが……うーん、思い出せない。

    「病院くらい教えてやればよかったのに。まったく、お前が出ると話をまったく聞かないんだから。いいか、これからは俺が出る」

     電話が鳴った。

     俺はなおも出ようとする美鶴の顔を殴ると、その隙に携帯を耳に当てた。

    「はい……?」

    『サシェル・イルミール男爵であるが』

     俺は携帯をぶちっと切った。

    「誰からだったでしゃく?」

    「俺がお前以外で一番嫌いな人間からだった……あっしまった、こっちにおびき寄せて殺しておくんだった」

    「バカでしゃく~。やっぱり、僕が取ったほうがいいでしゃく」

    「ダメ」

     電話が鳴った。

     携帯に手を伸ばす美鶴の顎にパンチを見舞おうとすると、生意気にも美鶴はスウェーで俺の拳をかわし、携帯をするっと取って耳に当てた。

    「はい! そうでしゃく。うへへへへ、女の人の声でしゃく。こんなきれいな声の人なら、恵美ちゃんでなくてもいいでしゃく」

    「誰からだったんだよ?」

    「うるさいしゃく。話しかけるなしゃく。ヴァリアーナさんとかいう人でしゃく」

    「たしかその人三人の子持ちの、中年をまわったおばさんだぜ」

     美鶴はたたきつけるように携帯を切った。

    「油断も隙もないしゃく……」

    「だから俺が出るって」

     おれが携帯を握り締めた瞬間、電話が鳴った。

    「はい? もしもし」

    『オルロス伯爵ヴェルク・ガレーリョス三世である。今、母上に無礼を働いたのはそなたか』

    「間に合ってます」

     この神経質な男としゃべっているとイライラしてくるだろうから、おれは即座に電話を切った。

    「まったく、ろくなやつが電話をかけて来ない」

    「じゃ、僕が出るでしゃく」

    「やめといたほうがいい。どうせかかってくるとしても、『ナイトメア・ハンターの掟』に出てきたクリスとかからだろうからな」

    「やめとくでしゃく」

    「それがいい」

     俺はうなずいた。そのとき、またも電話が鳴った。

     携帯を耳に当てる。

    「はい」

    『波音さんですか? 「紅探偵事務所」で所長を務めております、紅恵美と申しますが』

    「ああ! 紅さん! はいはい!」

    『命が惜しいので、そちらに向かうのはやめさせていただきます。それでは』

    「え……えええ?」

     電話は切れた。俺は無音となった携帯を耳に当てたまま硬直していた。

    「どうしたでしゃく? 恵美ちゃんはなんといっていたでしゃく? 来たら僕がかわいがってあげるでしゃく」

     天才的頭脳の持ち主は、やはり普通よりも頭が良くて賢明だった、ということらしい……。

    元小説:紅探偵事務所事件ファイル
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    ~ Comment ~

    Re: ネミエルさん

    いやわかりません。

    力は無理でも、あの娘には「博打の才能」と「強運」がありますから。

    腕力にものをいわせた戦いならどうにもならんでしょうが、あの娘が波音と美鶴といっしょにポーカーか花札をやったら、哀れ二人の男子高校生は、小遣いお年玉衣服全部取られたうえでケツの毛までむしられてしまうかもしれません(笑)。「カイジ」みたいに。

    わたしのキャラクターってそういうやつが多いな。(^^;)

    正解!

    それでよかったんですよ、紅さん!

    美鶴の力に敵うわけがないんですからw
    ありがとうございました!!
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