FC2ブログ

    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 5-6

     ←ナイトメア・ハンターの掟 5-5 →ナイトメア・ハンターの掟 5-7
    第五章 ユニオン・ジャッカー(承前)


     暗い町だった。鉛色の空の下に、薄汚れた町工場が果てしなくどこまでも立ち並んでいた。故郷の富山の風景だろう、と、見当をつけた。
     自分の姿を確認した。工員が着ているような、つなぎだった。ところどころ油で汚れている。これがどういう職種に当たるのかについては、わたしにはわからなかった。
     工場が稼動している様子は見られない。不況下なのだろうか。オイルショック、という言葉が脳裏に浮かんだ。
     どうも町全体に活気がない。
     なんでもいいから動いているものを探した。人でも、犬でも、猫でも、鼠でも。
     動いているものはただ、風だけだった。
     どういうことだ?
     でたらめに歩き回った。相変わらずだ。動いているものはなにもない。
     大きな工場の門があった。入ってみる。
     だだっ広い敷地に、巨大な建物が建っていた。にもかかわらず物音はなにもしない。
     誘いこまれるように建物に入った。道路ほどの幅もあるようなベルトコンベアー、なにに使われるのかまったく判然としない機械群、そのどれもが動いていなかった。
     四方に目を配るが、動いていそうなものはなにもない。
     拍子抜けして壁にもたれかかった。
     それがいけなかった。
     なにかのスイッチを押してしまったのか、いきなり激しい音を立てて機械群が動き出した。どこからともなく現れた黒い影のような人間たちが、要所につき、ゆっくりとした、しかし休みない動きで機械を操作していく。
     騒音が辺り一帯を包んでいる中、わたしは、その行動の無駄のなさに、数瞬、見惚れてしまった。
     騒音? いや、これは。
     耳になにかが残った。怨嗟を帯びた声?
     事態を確認しに外に向かった。
     ぐるりを見渡す。
     全身の毛が総毛だった。
     そこでわたしが見たのは、工場の反対側の端からあふれ出す異様な怪物たちの群れ、そのものだった。熊かサイほどの大きさの無数の不定形の機械群。パイプが、フレームが、ハンマーが、正気とも思えない形に組み合わされ、煙と油を盛大にばらまきながら……。
     こちらのほうに進んでくる!
     わたしは、泡を食って逃げ出した。
     そいつらは偽足(?)をハンマーのように振り下ろしつつ迫ってきた。油をしたたらせる、鉄と機械の塊。
     反撃しよう、などという発想はどこからも湧いてこなかった。わたしは医者だ。相手が生物ならまだしも、機械ではなにもできない。
     できることは逃げることだけだった。
    「お困りのようですね」
     突如、天から、二度と忘れようもない声が降ってきた。
     頭を上げた。
    「てめえ……」
     金髪のやせこけた男。その右目にはいやみったらしい片眼鏡。そいつが、メリー・ポピンズみたいに、こうもり傘を片手に空中をふわふわと浮いていた。手には、余裕たっぷりに、子犬なんか抱いている。
    「クリス!」
    「覚えていていただけましたか」
     忘れるもんか。
     わたしは宙に手を伸ばし、やつに摑みかかろうとした。
     しかし、クリスの身体は、ふわり、と浮き上がり、わたしの手をするりとかわした。
    「降りてこい、このクソ野郎!」
     クリスは憫笑した。
    「いいのですか、ドクター? 後ろを振り返らなくても?」
     はっとして後ろを振り返った。
     工場の怪物が、指呼の間に迫っていた。
     わたしは急いで逃げ出した。
     クリスは、そんなわたしの一歩先を、ふわふわと飛びながら進んでいた。
    「クリス、貴様、なにしに来やがった」
    「なにしに来た……と?」
     やつはとぼけた声で答えた。
    「それは、ドクターをお救いするために決まっているでしょう」
    「わたしを?」
    「このままでは、ドクター、あの怪物に潰されて死にますよ」
     それはそうかもしれなかった。しかし。
    「お前なんかに助けられたくはないね」
    「息が上がってますな」
     いつまでも虚勢を張っていられそうもない。
     わたしは立ち止まって精神を集中した。
    「お得意の銃ですか?」
     うるさい。だいいち、銃など出したところで……。
     この全地を埋め尽くすような怪物の集団をどうできるというんだ!
     そうだった。すでにそこは、工場の敷地などではなく、果てしなく広がる平原に変わっていた。わたしを追いかけてくる機械の化け物は、一個大隊くらいの数にまで膨れ上がったのではないかと思われた。
     やれることはただひとつ。
     わたしは。
     逃げた……!

     汗びっしょりになって気がついた。
     北村が心配そうに見下ろしていた。
    「何時間くらい経った?」
    「なにをいっているんですか。まだ十分くらいしか経っていませんよ」
    「死ぬかと思った」
     わたしは頭をぶるんと一振りした。
    「それで、桐野さん。佐竹一が現金を授受していた相手は?」
     運転席で高居がアクセルを踏んで、カローラは走り出した。
    「無駄じゃないですか、主任。駄目ですよ、きっと」
    「口が過ぎるぞ、高居。で、桐野さん?」
    「高居さんが正しい」
     わたしはのろのろといった。
    「あの写真ファイルにあった人物の姿は、わたしは一人も見なかった」
    「そうですか……」
     北村の声に落胆が混じった。
    「申し訳ない」
     しばらく北村は黙り込んでいたが、ふいに、話しかけてきた。
    「桐野さん、夢の中でなにも見なかったわけじゃないでしょう? 見たものを、教えてはいただけませんか?」
     もう守秘義務もなにもあったもんじゃない。
     わたしはかいつまんで話した。
    「クリス?」
    「前にしめさばを買ってきた、上里詩穂の事件があっただろう。あのとき、裏で糸を引いていた張本人だ。イヤミなやつだった」
    「どんな人でした?」
    「やせこけた金髪の男だ。値の張るスーツを着込んで、右目に片眼鏡をはめている。一度見たら忘れやしない」
     北村は厳しい顔をしていた。
    「似顔絵を描かせてもらっていいですか?」
    「それはかまわないが」
     考えがまとまるまでしばらくかかった。
    「ちょっと、北村さん。考えていることはわかるが、その可能性は薄いんじゃないか? だいいち、相手は、自分から夢の世界へ入ってこられるやつだ。夢の中での姿を、現実世界でも取っているとは限らないぞ」
    「桐野さん、探偵というのは、入ってくる情報はどんなものだろうとバカにしてはいけないんです」
     それはそうかもしれないが。
     わたしは、密かに息をついた。
     結局、クリスの似顔絵を描いてもらうまでの時間を拘束された。
     アパートに帰って寝床についたときにはすでに三時を回っていた。
     よく寝る日である。
    関連記事
    スポンサーサイト






     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【ナイトメア・ハンターの掟 5-5】へ  【ナイトメア・ハンターの掟 5-7】へ

    ~ Comment ~

    Re: ミドリノマッキーさん

    そうハッパをかけられてはやるしかありません。

    「死霊術師の瞳」、連載再開です。がんばるど!

    NoTitle

    ごぶさたいたしております。
    予想通りなかなか進みませんが、ようやく5-6までたどり着きました。
    それでも「ナイトメアハンター」なるものが分かり、物語は見えるようになってきました。
    あと少しですので早いうちに読み切り、「死霊術師の瞳」に帰ります。
    それまでに続きの再開をお願いします。

    Re: 有村司さん

    メリークリスマス!

    ふっふっふっ桐野くんの死闘はまだまだこれからですぜ(^^)

    うわー…この「機械油を滴らせた機械の群れの描写」これは怖かったです…!

    しかも、あのクリスは出て来るし…まだまだ事件の謎が解明されるのはこれから…ですね。

    んでもってメリークリスマス!!
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【ナイトメア・ハンターの掟 5-5】へ
    • 【ナイトメア・ハンターの掟 5-7】へ