紅蓮の街 第二部 10-1

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　サシェルのやつめ、なかなかやるではないか。そう思いながらヴェルク三世は評議員席で事態の成り行きを見ていた。

　バルテノーズ家内部に潜入させた間者から、エリカが考えている食料配給計画案を聞き出したヴェルク三世はトイスとツァイの二人の軍師と相談を重ね、エリカを悪役にするための謀略を練ったのである。

　どうせエリカは自分の嫁にするのだから、それが少々早まるか遅くなるかの違いくらいだろう、というのがヴェルク三世の考えだった。

　そのためには、サシェル・イルミールに熱弁をふるわせるだけでは足りない。もっとも、サシェルがしゃべることになる原稿も、トイスが筆にものをいわせて書いたものであったが。

　あと一押し。それには、民衆の圧力がどうしても必要だった。

　民衆の圧力を得るためには、ガレーリョス家とイルミール家の支持者たちを集めて隠密裏のうちに秘密の集会を開き、そこで先ほどの間者よりもたらされた情報をもとに煽動を行なえばよかった。計略は今のところ順調すぎるほど順調に進んでいる。それが証拠に、煽動者たちの弁に動かされた愚民どもは、こうして我先にと公邸へ集まってきたではないか。

　どれだけエリカ・バルテノーズという女が肝が太くできていても、しょせんは小娘。公邸前の広場を埋め尽くす、万を数える敵意に満ちた群衆の前では、なにごともできるわけがない。

　結果として、エリカは民衆に酷政を強いる悪意に満ちた独裁者として映ることになろう。そこへ登場するのが……。

　このおれだ。

　ヴェルク三世は、こみ上げてくる笑みをかみ殺しながら思った。

　サシェルにはしゃべるだけしゃべらせておいてやろう。どうせ奴には、そう遠からぬ将来、死んでもらうことになるのだからな。民衆の畏敬の念と共に死ぬのだ、お前のこれまでしてきたことにしてみれば、身に余る光栄であろうよ。

　この雪については……ヴェルク三世は悲観はしていなかった。単なる一時的な異常気象にすぎぬ。雪は十日もせぬうちにやむはずだ。もしやまなかったとしても、そのときには終末港は自分の手の内にあるのだ、息のかかった私兵を中心に食料を配分していれば、自分の政治基盤は安泰である。

　それには、サシェルの次の生贄が必要だが、無尽蔵にあるといっても過言ではない。バルテノーズ派の主だった輩を、雪がやむまで誅し続ければよいのだから。石を投げるべき首を放ってやれば、民衆は喜ぶ。

　さて、サシェルめ、うまくやれるかな？