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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 5-7

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    第五章 ユニオン・ジャッカー(承前)


    『夢魔が……! 本当ですか、桐野さん』
     是蔵忠道は電話口でそういった。
    「ええ。それもかなり強力なやつです。わたし一人では、手も足も出ない」
     正直に伝える。
    『どんな夢魔だったんです』
     わたしは、森村探偵事務所との契約などといった、当然伏せて置くべきところは伏せ、ゆうべ(今朝か)の顚末を語った。
     朝六時。眠い目をこすりつつ、わたしは是蔵忠道に電話をかけた。夜討ち朝駆けといわれてもしかたがないが、ほかの時間ではあの男がつかまらないのではないかと思ったからだ。大学教授というのも、そうヒマばかりしているわけでもないだろう。
     幸運にも、是蔵忠道をつかまえることができた。やつは学生時代にボクシングなんかやっていたおかげで、低血圧とは無縁な男であった。その点は、神に感謝すべきである。
     しかし。
    『それで、速水鈴音さんに連絡を取ってほしいと』
    「その通りです。戦力は、多いほうがいい」
    『ちょっと、それは無茶というものですよ、桐野さん』
    「え?」
    『鈴音さんの歳を考えてください。いくつだと思ってるんですか。まだ高校生ですよ』
    「しまった……」
     うかつだった。つい、自分に引き寄せて考えてしまっていた。
     確かに、佐竹一が寝ている時間帯といえば、高校生が出歩く時間帯ではない。しかも、中年男に連れられて、車で遠出などといったら、どう考えても非行か援交に走った以外のなにものでもないではないか。
    「だめですか」
    『だめです』
     だが、速水鈴音の助力抜きで勝てる相手とも思えない。わたしは、ねばった。
    「なんとか鈴音さんを引っ張り出せる知恵をひねりだすことはできませんか?」
    『手品師じゃないんですから……』
     是蔵忠道は困惑したような声で答えた。
     結局、なにか手立てを考えるということで電話は切られた。
     わたしはぼんやりと手の中の受話器を見つめていたが、かぶりを振るとフックに戻した。
     今、なにをやるべきか。
     わたしは布団をかぶって目を閉じた。
     八時間のあいだ、夢も見ずに寝るのがベストの選択だろう。
     わたしは本当に夢も見ずに眠った。

     栄養をつけるために、久しぶりに定食屋でスタミナレバニラ定食大盛りというやつを頼んだ。ここ数日は自分でもびっくりするほどの贅沢な食生活である。バランスはメチャクチャであるが、必須栄養素の補給はできているのではないか。ビタミンと鉄分が欠けていたのか、ニラももやしもレバーも非常にうまかった。
     食べ終わった後、よく考えたら、自分は客商売ではないかと気付いて、銭湯に行って湯に入り、歯を磨いた。最近はずっとシャワーだけで過ごしていたので、熱い湯に肩まで浸かるのは気持ちよかった。
     つくづくダメ人間だ。銭湯を出てビートルに乗ると、そういう思いがこみ上げて来た。
     医者に戻るか。
     わたしはぎゅっとハンドルを握る手に力を込めた。
     ヒポクラテスの誓いを破った男がなにを考えているのだ。
     わたしはナイトメア・ハンターとして生きてナイトメア・ハンターとして死ぬのだ。
     たとえ三流の不完全なナイトメア・ハンターだったとしても。
    『あなたは運がよかった』
     いや、教授、どうやら運は尽きたようだ。
     診療所に着いてみると、すでに四時だった。
     誰も来なかったことを祈りつつ、扉を開けて中に入ると、電話がけたたましく鳴っていた。
     後ろめたい気持ちで受話器を取る。
    「はい、『桐……』」
    『なにやっていたんですか!』
     耳をつんざく怒鳴り声。是蔵忠道だった。思わず、受話器を耳から離した。
    「ええ、あの、その、睡眠を取らないと精神の疲れが元に戻らないもので」
    『それにしても……いえ、もういいです』
    「はあ……それで、なんの……」
     そこで切れかけていた頭の回線がつながった。
    「速水鈴音さんですか!」
    『他の誰の用で電話なんかかけます』
     是蔵忠道はそうとう苛立っているようだった。その気持ちは痛いほどわかった。すまない。
    「大丈夫なんですか」
    『なんとか大丈夫にします』
    「いいアイデアが?」
    『人をだますようで心苦しいんですがね、佐竹一氏の住んでいる選挙事務所ですが、あれは隣の市のR町にあるやつでいいんですよね? あのディスカウントショップの近くにあるやつ』
     わたしは頭の中で地図を調べた。
    「ええ、確かそうです」
    『だったらよかった。実は、あそこの近くで見事なクリスマスのイルミネーションをやっている区画があるんです』
    「イルミネーション?」
    『知る人ぞ知る、けっこうな名所になっているそうですよ』
    「それで」
     是蔵忠道の作戦は、かなり強引なものだった。
     今夜、なんとか理由をつけて速水親子をイルミネーション見物に引っ張り出す。そのとき、早いうちだったら車が混むなどという方向に話を持って行き、それならばついでに桐野とかいう男(わたしのことだ)も誘おう、という結論に誘導する。わたしが診療所を閉めるのは十時以降なのは計算済みである。
     わたしが是蔵忠道の家に着くまでの間、速水夫妻(来るならばだが)と是蔵忠道は軽く酒を飲む。意識ははっきりしているが運転はちょっと不安がある、というくらいがちょうどいい。当然、運転するのはわたし、ということになる。是蔵忠道の家で合流してから、イルミネーションを見終わるころには(たぶん道路は渋滞するだろうから)十二時近くになっているはずだ。
     帰るころになって、わたしは眠気を訴える。わたしと速水鈴音以外はみんな酒を飲んでいるため、他に誰も運転できる人間はいないため、当然、少しの間車を停めて仮眠する、ということになる。そこがちょうど佐竹一の事務所の前、という寸法だ。わたしと速水鈴音が夢に入っても、傍からは居眠りしているようにしか見えまい。
     夢の中で可及的速やかに事態を収拾した後、現実世界に戻ってきて撤収。
    「うまく行きますかね」
    『うまく行かせるんです。この手段が使えるのは、この一回だけですよ。失敗はできません』
    「わかりました。佐竹一の写真が用意できればいいのですが、そうも行かなそうです。わたしと一緒でないと入るのは難しいでしょう。鈴音さんにはその点を伝えておいてください」
     わたしは電話を切った。
     今夜、決戦だ。体力をつけておく必要がありそうだ。
     レバニラ定食のエネルギーがもってくれたらいいのだが。
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    おお、タイミングぴったり(^^)

    クリスマスは最高の舞台装置ですから、ふさわしく派手に仕上がっていたらごかっさい(^^)

    おおお!!まさに今日はクリスマス!!

    しかし、こんな緊迫したクリスマス物語は初めてかも…!まさにスリルとサスペンス!!
    シビレます^^
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