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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第二部 非情の冬

    紅蓮の街 第二部 13-2

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     主人の言葉に、バルは硬直した。『あの男』といわれただけで、誰を意味しているのかを悟れなければ、貴族の家の家令など勤まらない。

     しかし、その命令だけは聞きたくなかった。あの男には、バルはもう少し長生きしていてほしかったからだ。

     だが、バルにとって主人の命令は絶対である。バルは頭をひとつ床に打ち付けると立ち上がり、扉を開けて衛兵に伝えた。

    「『いかさま賽』のトイスを連れて参れ」

     ヴェルク三世はそれを聞いてうなずき、再び椅子に腰かけた。バルは、主人の前に出ると平伏した。

    「すぐにお望みの通りに」

    「うむ」

     ヴェルク三世はなにごとかを考えているらしかった。それが自分とは関係ないものであることをバルは願った。

    「あの男は失敗した……失敗したものは償わねばならぬ。そうだな、バル?」

    「御意……」

    「もうひとりの男も呼べ。そちらのほうがいい話もできよう」

    「御意」

     バルはほっとした。あの男がいてくれれば、この主人もいくらかは自制の念を働かせてくれるだろう。

     今はこの雪害対策で、ガレーリョス家の陣頭指揮を執っているはずだが、主人の命とあればやってくるに違いない。

     バルは頭を床に打ちつけると立ち上がり、衛兵にいった。

    「ツァイ殿をお呼びしろ」

     衛兵が一礼し、伝令が走るのと同時に、三人の人間が扉に現れた。

     衛兵ふたりに担がれるようにして連れてこられたトイスだった。

    「伯爵閣下、しばらくぶりでございます」

     トイスは、三十日も牢に入れられていた人間とは思えぬ、力強い声で答えた。

    「頭はすっきりしたかな、トイス? お前の策と声が聞きたくなってな」

     ヴェルク三世はなんら罪の意識を感じていないようだった。バルにはそれが不思議だった。

     それにしても……。

     バルは、この、かつて洒落者で鳴らした男の今の姿を見て、憐憫の情と、それにも増して心が慄然とするのを覚えた。

     トイスはやせこけていた。地下牢にいること三十日、エリカ・バルテノーズの決めた配給量よりもわずかな食料でもって、この男は生かされてきたのだ。餓死はさせぬ、いや、より深い苦痛を与えるために餓死などさせてなるものか、という意図で、食料は計算されていたに相違なかった。

     そして凍りつくような地下牢。トイスの身体には、歴然たる凍傷の痕があった。

     それでも、トイスはトイスだった。



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    ~ Comment ~

    Re: 秋沙さん

    先にも書いたとおり、ヴァリアーナ夫人は書きづらい人ですのでなかなか動いてくれません。

    ガレーリョス家にはもちろん破滅していただく予定ですが、もしかしたら生き残っちまうかもしれないなあヴァリアーナ夫人。

    Re: ぴゆうさん

    ヴァリアーナ夫人は、なかなか書きづらいキャラクターなんですよね。「陽性にあくどい(なんだそれは)」ナミは自分から動いてくれるので書きやすいですが、「宮廷文学ふうにあくどい」タイプの悪女であるヴァリアーナ夫人は、なかなか自分からは動こうとしないので実に書きづらい。

    息子はヒステリックな専制君主タイプだから書きやすいんですけどねえ。

    よく考えたら宮廷文学ほとんど読んだことないやわたし(爆)。

    今年のカゼはしつこくてしぶといですからね。ネットを休んでその時間は寝ていたほうがいいでありますよ。

    Re: 西幻響子さん

    トイスとゴグとツァイの3人は、腕にも胆力にも秀でた英雄的人物として描き、それを悪知恵の働くナミやガスがどうやって倒すのか、という展開になるはずだったのですが、ヴェルク三世の性格設定にしくじってしまったのか、ここでトイスを責め殺さねばウソだ、ということになってしまったので、トイスくんはただの悲劇的人物になってしまいました。武器を振るって戦うシーンが描けなかったのは残念であります。

    この13章ではトイスくんの最後の意地を噛み締めてください。

    NoTitle

    は~や~く~~~
    このバカ母子がひどいめにあわないかな~~~~。
    楽しみだなぁ~~~。

    でも、この母子が破滅する時には、なんらかの形でガス君がからむんじゃないかという一抹の不安が・・・。

    NoTitle

    失敗の責任って・・・
    その策を選んだのは自分じゃないか。
    あくまでも誰かになすりつける性格。
    そういえばv-37悪魔婆が出てこないな。
    ヴェルクのママだよん。
    v-389

    風邪でダメダメだわ。
    なんか回るのもやっとこさでござるよ。

    NoTitle

    うわっ、ヴェルク三世、残酷ですね。
    餓死ぎりぎりの飢餓と、極寒の中での凍傷。

    それでも、トイスはトイス?
    そんな衰弱した体ででも、トイスはすごい策をくりだすんでしょうか?
    なかなか性根のすわった男みたいですね。

    Re: limeさん

    ツァイさんは……どうなるかふふふ(サディスティックな含み笑い)

    ヴェルク三世は、まあ、「そういう人」ですから。部下の失策は許さぬ、というタイプですね。

    サシェルを使っての終末港乗っ取り計画はトイスの立案したものですから、ヴェルク三世の人柄からすればこれもあり得るかと。

    というか、この天候と思わしくない状況の進展に、ヴェルク三世、自分を見失ってますな。専制君主が暴君に変わるもっともありがちなパターン?

    NoTitle

    ツァイ、久しぶりです。
    彼はどうされちゃうの???

    トイスはヴェルクのお気に入りだったはずなのに。
    かわいそうに。
    温情なんてまるでない奴。。。
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