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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第二部 非情の冬

    紅蓮の街 第二部 14-1

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    14



    「戻ったぜ」

     ガスは雪を身体から払い落とした。バルテノーズ家の女中のひとりが、ガスの身体をタオルで拭おうとした。

    「けっこうだ。自分でやる。……名前は?」

    「え?」

    「名前はなんだと聞いてるんだ」

    「メアです」

     女中は顔をこわばらせて答えた。

    「そうか」

    「……なにか、粗相をいたしましたか? ガス様」

    「いや」

     ガスは無理して微笑みを作ろうとした。

    「ただの好奇心だ。裏切り者の大王みたいなこのおれの身体を、やせこけた手で拭ってくれようとする女なんてそうはいないからな。覚えておきたくもなるだろう?」

    「え……ええ」

    「アクバに取り次いでくれ。おれはもうちょっと雪を落とす」

     顔を伏せたまま邸の奥へ駆け込んでいく女中の姿を見て、ガスは首筋をこきりと鳴らした。

    「まさかな」

     ガスがようやく身体中の雪を叩き落し終えたころ、アクバがやってきた。

    「どうでした、ガス殿?」

    「ひどいもんだが、希望がないわけじゃない。さっき倉庫番から聞いてきたが、穀物の備蓄量は、事態がこのまま推移すれば七十日はもつそうだ。ぎりぎりだが、クワルス芋が普通に育つくらいに天候が回復する春までにはなんとかなるだろう。冬が本当に非情で、これから百二十日も雪が降り続けたらおれたちみんなで首を吊るようだがな」

    「ナミ殿は?」

    「ナミか」

     ガスは笑いをこらえていた。

    「あの女、意外と押しに弱いのかもしれん。異民族の男に、なにかを売りつけられそうになっていた」

    「異民族?」

    「ああ」

     もの問いたげなアクバに、ガスはうなずいてみせた。

    「あれは西方の出じゃないのかな。刺青が見えたからな。なにか、本を売りつけられそうになっていたよ。言葉はわからなかったけど、あのまくしたては真剣だったな」

    「ナミ殿が、本をねえ」

    「あの異民族、本の価値なんかさっぱりわからないんだろうよ。とにかく、盗んだかなにかしたものを、なんとしてでも金か食い物に換えようっていうんだろうな」

     ガスはため息をついた。

    「気の毒な話さ。こんな世界のどん詰まり、東の果てまで流れて来てこれだからな」



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    Re: ぴゆうさん

    ナミは冷酷なリアリストですが、実は一面、救いがたいロマンチストでもあることが、読んでいるうちにわかってくると思います。

    なにせ小説の主人公ですからそのくらいの裏の顔は。

    本については……実はこの小説の本筋と密接にかかわってきます。あっいっちゃった。

    NoTitle

    ナミの何かがわかるのかな。
    バックボーンが知りたいなぁ。
    産まれた時からナミだった訳じゃないだろうし。

    本も売る、何でも売れるものは売りたくなるよね。
    戦後の日本もそうだったのだろうなぁ。

    今日はわりと良くなりました。
    ご心配かけました。
    いつもありがとう。

    Re: 矢端想さん

    そこまで深く考えて名前をつけていなかったりします(爆)。

    その前に毎日更新を守らなければと……(^^;)

    もちろんこの娘はまた出てきます。当然でしょう(笑)。

    Re: ネミエルさん

    まあそこらへんはいろいろと(^^)

    そこを詳述したら先の展開がわかってしまうので許してつかあさい。

    NoTitle

    ネミエルさん。

    「メア」って、「牝馬」ですよ。

    じゃじゃ馬。あばれ馬?

    僕は期待します。彼女の再登場。

    NoTitle

    メアさんですか・・・。
    ナイトメアで悪夢ですからメアってだけで・・・。
    なんか悪いイメージが、多分偏見です、ごめんなさい。

    そんなに秩序が乱れてしまったのですか?
    本すらをかねに変えようなんて・・・。
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