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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第二部 非情の冬

    紅蓮の街 第二部 14-4

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    「覚えておきます」

     アクバは沈痛な顔をしていた。

    「我が主である公爵閣下の望まれることは、ただひとつ、ひとりでも多くの人間がこの冬を生き延びることだけなのですが……」

    「当然のことというのがわからないやつというのはいつの世にもどこにだっているさ。災厄をもたらす原因はたいてい、そういうやつがある程度以上の権力とか財力とかを持つことにあるんだけどな」

    「まったくですな。ところで、ナミ殿はまだ……」

     ガスが答えようとしたとき、扉が開いて、これまた悲惨な姿をしたナミが姿を現した。その手には、なにやら革張りの厚い本が握られていた。

    「よお。遅かったじゃないか」

     ガスの声に、ナミはふん、と答えた。

    「雪の中をうんざりする思いで帰ってきた淑女にかける言葉がそれなの?」

    「聞いたかい」

     ガスはかぶりを振った。

    「この女、自分を指して淑女だとさ。終末港の淑女もよほど柄が悪くなったもんだ」

    「あんたにいわれる筋はないわよ」

     ナミは本を小脇に抱えて腰を下ろした。

    「どうしたんだ、その本? 結局、売りつけられたのか?」

     ナミはいささか顔を赤らめた。

    「どうでもいいでしょ」

    「売りつけられたんだな。いくらだ?」

    「いいじゃない」

     アクバは笑いをこらえていた。

    「出かける前、ナミ殿はどうしても、とおっしゃって、配給切符を使って、エリカ様のお好きだった教会謹製のバター飴ひと粒と交換していったようですからな」

    「食えなかったんだ」

     ガスの入れたちゃちゃに、ナミは苛立ったように答えた。

    「うるさいわね。交換できるものはそれしかなかったんだから仕方ないでしょ」

    「だとさ。それにしても、なんなんだ、その本? 妙にてかてかしてるが……」

    「蝋の跡ですよ。防水のためとか、保存のために、頁のところに蝋を垂らすんですな。この本は、一度蝋を垂らして固めたものを、煮立った蝋の鍋に突っ込んでさらに固めたものでしょう。読むときは、ナイフで削り落として読むんです。この外見から見るに、削り落としたのはかなり前ですな」

     アクバは博学なところを見せた。

    「ふうん、そうなの。まあいいわ。もう買っちゃったんだし。それより、飯はまだ?」

     アクバは意味ありげに笑った。

    「今日は奮発して肉料理ですよ」

     ガスもナミも、うんざりという顔になった。肉料理が意味するのは、指先ほどの大きさの干し肉がひとつふたつ入っているだけの、湯のような薄いスープのことだったからだ。



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    ~ Comment ~

    Re: ネミエルさん

    だましたのではありません。

    この小説は「ファンタジー」なのであります(^^)

    NoTitle

    だまされたーっ!?

    なんてこった

    えーい、俺もしてやるっ!

    ぴゆうさん

    いつもそうしていかれますからわたしとしては掃除がたいへんで……(笑)。

    NoTitle

    にゃんだv-16
    見事に騙されたニャ。
    いろいろと想像したりした。
    あんまり漬すとマズいだろうし、おおーー刷毛で塗るんだ。
    ・・・・・
    ニャーーーーーv-283
    v-294してやる。

    Re: レオ・ライオネルさん

    はたして、この牧歌的な光景がどう変わってくるのか、うまくいきましたらご喝采。

    とはいってもその意味がわかってくるのは第三部ですが。

    Re: ぴゆうさん、ネミエルさん

    作者は作者で平気な顔して大ウソをつくことがあります。

    うかつに小説の中身を信じないように(笑)。

    まれに蝋でページを止めるということはやっていたらしいですが、それは「本を他人から読めないようにするため」であり、防水とは関係なかった、というのがほんとうのところみたいですね。

    今回の処理は、話の都合上どうしても本を防水する必要があり、いいアイデアも浮かばなかったから適当なことを書いたものであります。

    ちなみにこれは、昔、瓶の蓋を完全密閉するのに溶かした蜜蝋を使った、ということからヒントを得ました。

    NoTitle

    本を売りつけられるナミって想像できないなぁ
    ガスじゃなくても、からかいたくなりますよね

    でも、そんな本だから中身が気になる・・・
    どんな事が書いてあるのかなぁ~
    • #3158 レオ・ライオネル 
    • URL 
    • 2011.01/30 01:18 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    昔の防水すげぇ・・・。
    そうやって読むものだったのか、本って。

    よし、実際にやってみるか。

    NoTitle

    ナミがそうまでして手に入れた稀覯本。
    最重要アイテムなのか!
    知りたい、知りたい。

    昔の防水ってそんな風にしたのか、勉強になりました。
    削るのも熟練していないと、難しいよね。

    Re: limeさん

    ナミがかわいいねえ……(^^;)
    まあそういう日もあっていいか。

    この本は実は最重要アイテムのひとつです。これについて詳述すると今後の展開がまるわかりになってしまうので説明は避けますが……。

    NoTitle

    なんだか今日のナミはちょっと可愛いです。
    バター飴、あげたい。

    この本が何か重要になってきそうですね。
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