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    「ショートショート」
    SF

    なべなべ、そこぬけ

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    「宇宙はいい」

    「はあ」

     ぼくは、このタナミという老博士にあいづちを打った。あいづちを打つコツは、人の話をまともに聞かないところにある、という真実を、ぼくは早いうちから身にしみて理解していた。

     こんな、「超常物理学研究室」などという、大学もなんでこんな無駄金食いを残しておくんだろう、と首をひねりたくなるところに助手として配属されるのがここまで長ければ、そういう感想を抱くようにもなる。

    「だが、残念なことに」

     タナミ博士は手を広げて慨嘆した。

    「宇宙には手が届かない。ロケットを使って、脱出速度を超えなくては、人間はこの無限のフロンティアに手出しすることすらかなわないのだ」

    「そうですね」

     ぼくは、コーヒーメーカーからコーヒーをカップに注いだ。インスタントコーヒーが切れかけているので、コーヒーも必然的に薄くてまずくなる。

    「まあ、わしの天才をもってすれば、外宇宙に出ることは簡単なのじゃが……」

     そこで、ぼくは過ちを犯した。

    「えっ? そんなこと、無理ですよ。ムチャです。だいたい、アポロ計画だのスペースシャトル計画だのにいくら金がつぎ込まれていると思ってるんですか」

    「なにい」

     タナミ博士は、顔を真っ赤にした。すぐに怒って理性をなくすのが、博士の悪い癖である。

    「君は、わしのいうことを疑うのか。もっとも、わしのいう外宇宙は、君の考える外宇宙とは少しばかり様相を異にしているがな」

    「あ、疑ってません疑ってません」

     ぼくは、慌ててその場を取り繕った。

     逆効果だった。

    「よし、いいじゃろう。表に出ろ、君」

     ぼくはコーヒーを飲むのもそこそこに、博士に研究室の外へと引っ張り出された。

    「手をつなげ、君」

     ぼくはいわれたとおりに手をつないだ。

    「童謡は知ってるな」

    「え?」

    「いいからわしの歌うとおりに続けろ。なーべーなーべーそーこぬけー」

     ぼくはバカバカしいと思いながら、博士に付き従って歌った。

    「そーこがぬけたら、かえりましょ」

     といって、ぼくはくるりと背を返そうとして……。

     返っていないことに気づいた。

     かわりに、妙な圧迫感。

    「博士、これ……」

     といいかけたぼくは、事態を認識して、びっくり仰天した。

     空が大地になっていた。

     いや、ぼくは、大地からさかさま……というのも変だ、しっかり足は大地についているのだから。とにかく、童話に出てくる対蹠人のように、いや、アニメに出てくるスペースコロニーのように、球体の側面に、へばりつくようにして立っていたのだ。もっと専門的にいえば、ダイソン・スフェアのように、というか。

    「博士、これ、なんなんですか」

    「安心せえ。いつもの宇宙じゃ。それをトポロジー的にひっくり返してみた。ほれ、ジョージ・ガモフの有名な絵に、裏返った人体の中に宇宙が入っているものがあるじゃろ。あれと同じことを、わしはこの地球を使ってやってみたまでじゃ」

    「じゃ、先生、外宇宙っていうのは……」

    「この地面に穴を掘るんじゃな。掘って掘って掘り進むことによって、人間は外宇宙に進むことになる。トポロジー的には、間違っていない」

     ぼくは頭ががんがんしてくるのを感じた。

    「そんなことをいったって、先生のおっしゃる外宇宙にあるのは、無限大に広がった、地球内部のコアというやつじゃないですか! そんな夢も希望もない宇宙、願い下げです! 早く、元に戻してください!」

     博士は、なにか変なことを聞いた、とでもいいたげな表情を作った。

    「なに。じゃからいったじゃろう。トポロジー的には、元の宇宙と変わりないんじゃから、別段元に戻す必要も……」

    「大ありです!」

     ぼくは怒鳴った。博士をなんとかするには、怒鳴るに限るのだ。ちょくちょく、都合よく耳が聞こえなくなる人だからだ。

     今回は、博士の耳は正常だった。

    「わかった。わかった。いいじゃろう。じゃが、これにもテクニックがあってな。うまくいかないと……」

    「いかせるんです」

     ぼくは額に血管を浮かび上がらせて博士に詰め寄った。手をがしっとつかむ。

    「じゃ、いきますよ。なーべーなーべーそーこぬけ。そーこがぬけたら……」

     ぼくは手をひねった。

    「かえりましょ!」

     その瞬間だった。

     虚の宇宙と実の宇宙がトポロジー的に入れ替わった。



     だから君、君の宇宙で、こんなことが起こっていないとしたら、それは君たちが、ぼくたちから見て「虚の宇宙」にいるからなのだ。

     自分でもなにをいっているのかよくわからないが、博士がそういっているから本当なのだ。

     「実の宇宙」にいるぼくたちは、トポロジー的に閉じ込められている。

     助けてくれ。

     誰か……。

     誰か……。
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    ~ Comment ~

    Re: ラナフェリアさん

    虚の宇宙と実の宇宙までもうらがえってますからねえ。

    読み直してみると、むちゃくちゃな事書いているなあ、我ながら……(^^;)

    こんにちは。

    こn逆転した宇宙ではほかの天体はどうなっているのでしょうか。
    地面を掘れば外宇宙……いや、違うか。
    この場合は地殻に辿り着くのかな?

    外宇宙は結局、上方にあると考えると、宇宙の大きさは地球に内包できてしまうのか?

    ダメだ……考えても答えが出ない><

    Re: YUKAさん

    いや、昔からそういう考えの人はいたらしくて、「真の意味で宇宙に出るには、われわれは大地に穴を掘らなければならないっ!」と主張して譲らない学派の人たちがいたそうです。いわゆる「地球空洞説」からの派生形ですね。

    ほかにも、すべての惑星は「地続き」になっていて、われわれは歩いてほかの惑星に行けるのだ、と主張する(もうここまで来るとなにがなんだかわかりませんが(^^;))学派とかもあったとか(ウソではない)。

    この手のすごい地球物理学の団体でいちばん有名なのは、「地球は平らだ協会」でしょうね。今も活動しているのかどうかはわかりませんが(十年くらい前に読んだ雑誌記事では、深刻な会員減に苦しんでいるとか書いてありましたが)、一種のカウンターカルチャーとして、世界各地に支部を持つほど人気がありました。

    しかし妹さんのお考えにも道理はあり、天文学者のフリーマン・ダイソンは有名な「ダイソン・スフィア」の構想を発表しています。すなわち、地球の公転軌道レベルの大きさの殻状の球体で、太陽をすっぽりと覆うわけであります。そうすれば、太陽熱を百パーセント近く利用できる上に、人類の居住可能区域も今の数千万倍になる、というわけで。宇宙人の文明を探すのならば、このダイソン・スフィアから漏れ出てくる赤外線を探すのが有力ではないか、と唱える学派(こちらはトンデモではなく、きちんとした天文学の学派であります)もあったくらいであります。

    このダイソン・スフィアのバリエーションでいちばん有名なものは、ラリー・ニーヴンの名作「リングワールド」でしょうね。冒険SFとして一読したら忘れられないインパクトがある作品です。もう読み始めたらやめられない。わたしがSFのベストテンを作ったら、トップに入れる傑作です。続編はちょっと……ですが。

    ああもっとしゃべりたいしゃべりたい(笑)

    こんばんは♪

    面白かったですけど、なかなか難しかった。。。
    と思ったら、皆さん同じ感じの感想でちょっとホッとしてしまった私(笑)

    そう言えば昔。。。
    うちの妹は、空は円の中心にあって(地球は丸いから)
    その円の内側に地面があって、人が立っていると思っていたようです(当時、中学生)

    何で人は上から落ちてこないの?と聞かれ続け
    何を言っているのかわかりませんでした^^;
    (この説明で通じているのかも、わからないですが^^;;;)

    とりとめもなく、そんなことを思い出しました。

    Re: 蘭さん

    どうしよう、時間もアイデアもないけど原稿真っ白で、このままだったら今日の更新はあきらめるしかないぞ! っていうときに無理やりひねり出したショートショートですので、理解できなくて当然かと。

    書いたわたしも理解できてないし(笑)。

    ハードSFファンから見れば噴飯ものでしょうね。

    こんばんは^^

    う~~ん、面白いんだけど、私の頭では上手く理解出来ません^^;

    「な~べ~な~べ~そ~こぬけ~」っていう気の抜ける童謡からは考え辛いこの内容。
    でも童謡って、どこか刹那的で辛辣で・・・ぞっとする事があります。
    このラストには、ピッタリなのかも・・・i-202

    Re: ぴゆうさん

    ちょうどあんな感じです。

    筒井康隆先生に「腸はどこへ行った」というものすごい作品がありますが、ああいう感じをイメージしました(するなよおい……)

    自分でも1000を超えたことが信じられません。

    ここでがんばって維持すべきなのでしょうが、どうやらこのブログのあたりで「伝染性連載小説の続きがいまいち書けないよ」病が発生したらしく……(^^;)

    Re: ミズマ。さん

    マッドサイエンティストと気の毒な助手、というのは永遠のパターンです。

    好評だったらこいつらもシリーズにしようかな(^^)

    NoTitle

    クラインの壷みたいな世界かな?
    難しくてよくわからなかった。

    FC2ランキング1000ポイント越え、おめでとう~~
    なんかすごく嬉しい。
    ポールの努力が実っているね。
    がんばってな!
    v-410

    NoTitle

    とりあえず、「博士がチャーミング」ということだけは理解しました。
    「遠くから見ている分には」という条件つきですが。
    助手くんが不憫でなりません。

    Re: ネミエルさん

    大丈夫です。

    わたしも自分で書いていてわけがわからなくなりましたから。

    ハードSFファンに見られたら焚書ものだろうなあ、と思います(^^;)

    NoTitle

    えっと、つまり

    入れ替わったけど戻れなくなった。

    ということでよろしいのでしょうか。
    トポロジー的に考えておかしい考え方かも知れませんが
    すいません。

    もう一回読みます。
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