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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:6 わたしを食べて!

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    わたしを食べて!



     エドさんの探偵事務所で、その老人は、苦虫を噛み潰したような顔をしていました。

    「確かに、あのワインセラーは、高級ワインを安物で水増ししていました」

    「そうじゃろう。わしの舌が、見抜いた通りじゃったろう。けしからん話じゃ。この調査結果は、わしがじきじきにあの社長に叩きつけてやるわい。あこぎな商売をするようでは、長年のつきあいも終わりにするとな」

     老人は、書類を受け取ると小脇に抱えました。エドさんは、額の汗をぬぐいました。この老人は、お金持ちの食通としても有名でしたが、怒るとなにをするかわからないことでも有名だったからです。万一、事務所を潰されてしまったらたまったものではありません。

    「腹が減ったな」

     ふと、老人がいいました。

    「お口に合うものなんかありませんよ」

     エドさんは答えましたが、その目が、一点に釘付けになりました。何事かと、そちらに目をやった老人も、驚いて座り直しました。

     そこには、いつの間にか、小さな手足を生やした、一個の缶詰がいたからです。

    「『フォアグラ・パテ』……?」

     エドさんは、缶の文字を読みました。

    「そうですとも」

     缶詰は、耳障りなきんきん声でいいました。

    「わたしは、由緒正しいフォアグラ・パテです。さあ、早くわたしを食べなさい」

    「な、なに……なんですって!」

    「食べなさい、といったのです。さあ、早く、さあ!」

     エドさんは、フォアグラなど、見たこともありませんでした。フォアグラとは、手間ひまをかけて作るガチョウのレバーのことで、私立探偵などには手が出せないくらい高価な食材なのです。

    「誰が食うものか」老人がいいました。「缶詰のフォアグラなど、フォアグラではないわ。まったく、この缶詰は物を知らんから困る」

     エドさんは、いやな予感がして、横目で老人を見ました。予感は当たりました。老人の目に、食欲じみたものが浮かんでいたのです。

    「わたしも食べないほうがいいと思います」

     エドさんは、思わず口を挟みました。

    「わかっとるわい」

     老人は答えましたが、そこに、押しかぶせるように、缶詰がいいました。

    「なんと、物を知らないのはあなたがたのほうですよ。わたしは、新開発の、高周波圧縮充填法によって作られた、これまでの缶詰とは、まったく違うレベルの缶詰なんです」

    「高周波? 探偵、聞いたことがあるか」

     エドさんは、黙って首を横に振りました。

     缶詰のきんきん声は、自信たっぷりな物に変わりました。

    「なに、聞いたことがないと。よくもまあそれで食通だなどといってられたものですね」

    「わしを知っとるのか」

    「もちろんですとも。この国の食べ物で、あなたの名前を知らなかったら、もぐりです」

     缶詰は、どこかから缶切りを取り出すと、自分の蓋を、ごりごりと切り開け始めました。エドさんたちは、あっけに取られてそれを見ていました。見る間に蓋は開き、中のパテがあらわになりました。

    「さあ、食べて――食べて――食べて!」

     まるで催眠術でもかけるかのごとき声に対し、エドさんは必死でこらえましたが、老人は、魅入られたように手を伸ばしていました。

     指でひとすくい取った老人は、口へ持って行きました。

    「うまい!」

     もう止まりませんでした。

    「うまい。これはうまい」

     老人はそういいながら、一口も残さず全部食べ、上機嫌で帰って行きました。エドさんには、かけらも食べさせてくれませんでした。

     数日が経ちました。エドさんは、テレビのインタビュー番組を見ていました。

     画面が変わって、あの食通の老人が姿を現しました。いろいろな質問がなされ、老人はひとつひとつ答えました。それを聞くうちに、エドさんの顔色は青ざめていきました。

    「……それで、先生、理想の大往生というものがありましたらお教えください」

    「そうじゃな。できれば、遺体は海に流してほしい。様々な魚のえさになって、自然の中に還るのじゃ。素晴らしいと思わんかね」

     間違いありませんでした。その声は、忘れようもない、あのきんきん声だったのです。

     インタビューは続きましたが、エドさんにはとても聞いていられませんでした。

     エドさんはテレビを切って、呟きました。

    「あの爺さん、缶詰に食われやがった」

     それからというもの、エドさんは、缶詰を見ると、手足がついていないか調べるようになったのでした。

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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    これも投稿の締め切りに間に合わせようと書いていたときの作品です。

    自分がなんでもいける、書けるというのを審査員に見せつけようという下心があったんでしょうが……。

    我ながら作戦ミスでした(^_^;)

    前にも書きましたが、ディックの某作品でも、食べられることで増えていく生物が出てきます。

    水木しげる先生にも同じパターンのマンガがありますね。

    怖いですよ~(^_^)

    NoTitle

    コワ……コワイ……Σ(-。-;)
    完全に意表を突かれました。
    身構えてない時にこういうの、マジ来ます;;

    乗っ取られる系はやはり恐ろしい。
    姿は同じなのに、中身が入れ替わっているというのには恐怖をかき立てられます。

    Re: 神田夏美さん

    前にテレビでフランス料理の番組を見ていて、

    さばきたてのまるまるとでっかいフォアグラを分厚くスライスしてどかどか使って料理しているのにはたまげました。

    わたしは缶詰を一度食べたことがあるきりです。

    鶏レバーでも煮て食べよう。とほほ(^^;)

    NoTitle

    「わたしを食べて!」というフレーズで不思議の国のアリスを思い出し、またメルヘンなお話なんだろうなあとわくわくしながら読んだので、ホラーっぽい結末で驚かされました~。ほのぼのしたお話の中にときどきこういうお話があると、スパイスのようでいいですね^^

    缶詰に食べられたくはありませんが、フォアグラは食べてみたいです(笑)

    Re: 涼音さん

    あの作品を書いたときにはまさかあそこまで話が続くとは思わなかった(笑)

    こちらの缶詰めの作品については、古くからあるストーリーです。最初にやったのはフィリップ・K・ディックの「ウーブ身重く横たわる」という恐怖SFだと思うのですが。それ以来定番になっており、水木しげる先生なんかがこのアイデアを使っておられますね。

    ホラーを一編入れてみたくなり、書いてみました。原形はもっと違っていたのですが、わかりにくいとかいろいろありまして……。

    今日は^^

    先日は有り難うございました^^ お言葉、とても嬉しかったです^^

    いつもコメント残したいと思いはいたのですが、連休で留守中、全く書けなかったのでストック激減で中々目途が付くまでコメント残せませんでした^^;(まだまだもぅ一踏ん張りなんですが、流石にもぅ私が限界で^^;)

    このお話はある意味少し怖いお話ですね。
    タイトル見て「えっ!?」と、一瞬スルーしたくなりました。(実はかなりの怖がりです(笑))
    読んでみれば、ブラックユーモア作品だったんですね。

    缶ものに手足があったら、美女と野獣並のメルヘンちっくなら大丈夫ですがこう言うのはおそらく怖くて近寄れないかも^^;

    前のお話は、続きがあるのかな?と、感じる作品でした。
    違うのかな? 期待のしすぎでしょうか?
    題材的には美術関係も好きなので、楽しく読ませて頂きました^^

    Re: 十二月一日 晩冬さん

    よく考えたら水木しげる先生も使っていたなこのネタ……。

    マタンゴもそうかな?

    どもども

    掌編ならでは―テンポのいいシニカルさ、ですね
    食うものと食われるもの・・・まさに弱肉強食wwまた来ます
    • #8371 十二月一日 晩冬 
    • URL 
    • 2012.06/19 20:50 
    •  ▲EntryTop 

    Re: YUKAさん

    なんといっても準レギュラーメンバーですからねえ(^^)

    エドさんひとりだと間が持たなくて(^^)

    こんばんは♪

    ブラックでしたけど、面白かったです^^
    エドさんが缶詰を毎回確認しちゃう気持ちもわかりますけど^^;

    あ、全作品返コメのエドさんと女性のその後……楽しみにします♪

    Re: fateさん

    そのかたは存じませんでした。

    さっそくぐぐって飛んでみようと思います(^^)

    わたしもいろいろなかたから刺激を受けてきましたが、中でもいちばん「インパクト」があったのは、「珍獣ゲルポボ」というブログをやっておられるかたです。

    劇団を率いておられるそうですが、一読してよくわからない。よくわからないけれど爆笑している。とにかくすごい作品ばかり書くかたでありました。

    最近はブログを更新されていないのですが、いつか戻って来られることをわたしは信じております。

    ミイラ取りがミイラになる…

    とは、違いますが。
    食べ物に食われる。
    なるほど、相応の罰かも知れませんね。
    食品を敬わずに、血肉には出来ない…とか。そういう感じ。

    ところで、「よくわからんけどすごい! よくわからないがとにかくインパクトのあるものだ!」
    これ、ショートショートを主に書いているTome館長作品にいつも感じる思いです。
    彼の作は、すごい。
    不気味だったり不思議だったり、心があったかくなったりするのに、よく分からない。
    不思議な方です。


    Re: 有村司さん

    このネタはかつていろいろな人が料理してきましたからねえ。

    P・K・ディック先生のデビュー作がこのネタだったかな。

    原点はもっとさかのぼれるのかな?

    くどくどすみません…。

    まさに黒い笑い(笑)

    怖かったです。
    子供の頃ニュースで観た「芽殖孤虫が混入した缶詰」の話を思い出しました。
    エドさんシリーズ懐深い…。

    Re: ぴゆうさん

    実はこの作品、自信がなかったであります(^^;)

    ウケたことは嬉しいけどちと意外(^^;)

    NoTitle

    シュールでおもろかった。
    食べられる側が食べちゃう。
    なんかそら恐ろしいブラックな笑い。
    こういうの好き好き。

    爺のお味は?
    美味しかったかな?
    ひゃーーーー
    v-12
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