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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 6-1

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     その後、家族は、土地を売り払うと、引っ越して、姿を消した。火災についても、関わり合いになった人間のほとんどが、すぐに忘れてしまった。平凡な毎日に瑣事は多く、誰もかれもが生活というものを営んでいるのだ。
     火事について、最後に発言をしたのは、救出された息子から話を聞いた、巡査だった。彼は、三年後の飲み会で、熱燗を数本空けたあと、隣にいた婦人警官に、右手を左回りに回転させながら、「ぐるぐる、ぼうぼう、ぐるぐる!」と叫んだのである。同じく酔っ払った同僚に、それはなにかと尋ねられたが、彼はそれに答えることができなかったということだ。

    とある元警察官の手記「K町警察署備忘録」より

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    第六章 燃えろ……

     男たちは、余目のようにスマートではなかった。体格がではない。やりかたがだ。
     佐竹一の夢に入ってみじめな結果となってから一週間後、人々が年末のご馳走を食べているさなか、わたしは『桐野メンタルヘルス』の受付で激辛のカップ麺を食べていた。なんという名前なのかはわからない。わたしはハングルを読めないからだ。
     森村探偵事務所でクリスの似顔絵描きを行った後、わたしはつとめて佐竹一のことには関わらないようにしていた。自分の不手際だけがいやになるほど意識されるからだ。
     しかし、そんなわたしの考えも無駄になることになる。
     汁の最後の一滴を飲み干したとき、いきなり扉がバタンと開いた。
     入って来たのは二人組の男だった。両方とも長身で、目出し帽をかぶっている。ダークグリーンのコートを着ており、手にはなにか白くて大きなものを持っていた。なんだろう。
     それが、ばかでかい袋だということに気づいたときは遅かった。わたしは頭から袋を抵抗する間もなくかぶせられ、頭になにかの一撃を食らった。
     今から思えば、あれはブラックジャックだっただろうか。
     効果的な打撃だったことは認めなくてはなるまい。痛みの中、意識がどこかへ持っていかれ、なにもわからなくなった。

     氷のように冷たいなにかの刺激で気がついた。ぞくぞくっという寒気を全身に感じ、大きくくしゃみをした。その衝撃で鈍痛がした。わたしは上半身を裸にされて、しっかりと柱かなにかに縛り付けられていたのだ。刺激は大量の水だったらしい。全身が濡れて不快だった。まだ自由になる頭を振って、もう一度大きくくしゃみをした。
     周囲は暗闇に包まれていた。その中で、そこだけぎらぎらと太陽のように輝く、熱いなにかがわたしの目の前にあった。それが、傘のついた強力な白熱電球であることに気づくまでにそう時間はかからなかった。
    「気がついたか……」
     低い声が、闇の中から聞こえてきた。
    「日活映画のような真似をするんだな」
     わたしは精一杯の虚勢を張った。なにかしゃべりたかった。しゃべっていないと不安だった。だが、そんな自由も長くは続かなかった。
     視界の外から、なにかがわたしを殴りつけた。熱さと錯覚するような激しい痛みとともに、視界がぐらりと揺れた。
     ゴム製の棍棒だ。じんじんと響く痛みの中、そう悟った。だが、問題は、悟ったからといって事態がなにも好転するわけではないということである。
    「言葉に気をつけろ」
    「なにを答えてもどうせ殴られるわけだろう」
    「そうでもないぞ。お前がおれたちの聞くことに素直に答えれば、殴られることもない」
     わたしは痛みに耐えてにやりと笑って見せた。
    「なにがおかしい」
    「お前たちの目的は、わたしからものを聞きだすことじゃないだろう。そうだとしてもそれは付随的なものだ。お前たちは、最初からわたしを痛めつけることを考えて、あそこから拉致したのさ」
    「なるほど、頭は悪くない」
     世間話でもするかのようなトーンだったが、それとは裏腹に、棍棒の二撃目が振ってきた。そして三撃、四撃。
     殴られた数を七まで勘定したところで、考えるのをやめた。気が遠くなりかけたところに、声が降ってくるのを、他人事のように聞いていた。
    「だが、バカだ」
     わたしもそう思う。
     殴られ、水をかけられ、また殴られ、また水をかけられ、そしてそれが何度も繰り返された。
     殴られ続けるうちに、理性などほぼ飛んでいた。
     どれだけ時間が経ったのかもわからない。
     質問がいくつかされたような気がする。
    「先生の事務所の前でなにをやっていた?」
    「佐竹さんになにをした?」
     など。
     なにを答えたのかは覚えていない。

     何度目、いや何十度目か、に気がついたとき、わたしは薄暗い床に倒れ伏していた。このひんやりとした感覚はコンクリートだ、と思った。縛られてはいなかった。だが、全身が激しく痛み、熱をもっていて、それでいてひどい寒気がした。
     咳き込んだ。
     痛みが身体中を走り抜け、涙がこぼれた。
     立ち上がろうと思った。
     立ち上がれなかった。
     耳に、なにかが聞こえた。鳥の声だった。
     朝なのか。それでなぜこんなに暗い。
     まぶたが膨れ上がって目をふさいでいるから、ということに思い至るまでしばらくかかった。
     思い切り目を開いた。
     わずかな視界の隙間から、細い光の四角形が見えた。扉だろうか。
     咳き込んだ。激痛。
     それを押して、わたしは光のほうへにじり寄ろうとした。
     熱い。身体が熱い。同じくらいに寒い。
     わずかに進んだだけで、痛覚神経が悲鳴を上げた。
     骨が折れているのか……?
     特に痛みがひどいのは、左脚と右腕、それに胸だった。
     考えるまでもない。
     わたしは動くことをあきらめた。この身体では、扉にたどりつく前に、腕と脚がどうにかなってしまう。
     それよりも、誰かが来るまで、体力を温存しておいたほうが利口だ。
     決断したものの、これはこれで、けっこう精神力が要る話だった。
     噂に聞く、SMの暗闇放置プレイというやつはこんな気分なのだろうか。だとしたら、そんなところから快感を引き出せるのは、よほどの変態である。
     冷たさと熱さが、同時にわたしを責めさいなんでいた。地獄とは、熱いところなのではない。冷たいところなのでもない。きっと、その狭間の、こういう感覚の場所なのだろう。
     何度も、何度も、咳き込み、そのたびに脳天まで衝撃が走った。
     どれくらい時間が経ったろうか……?
     ゆっくりと、光の線がその輝度を増していった。
     線が太線になり、やがて矩形となった。そして矩形の中央には人体と思われるシルエットが……。
     声を上げようとした。だが、喉から絞り出されたのは蚊の鳴くようなかすれた音だけだった。
     相手にはそれで充分だったらしい。
    「桐野!」
    「坂元……」
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    それについては……うむむしゃべれん(^^;)

    坂元さんキター!!!

    それにしても「ぐるぐるぼうぐるぐる」が気になって仕方ないのです…。

    >佐槻勇斗さん

    北村さんは「静」の人ですから(^^)
    それに、大怪我した桐野くんを応急手当できるほどの実地訓練を積んでいるのは坂元さんのほうでしょうね。体力もありますし。

    問題はミラで山道を行ったことですが……桐野くんよく生きていたものです(^^;) こういう状況に陥ったら、救急車を呼ぶか救急ヘリを呼んでください(爆)

    ヒーロー坂元。
    個人的にそこは北村さんがよかったナ……(^ω^;)
    あ、彼はそういうタイプではないかしら;;

    ようやく6章までやって来ることが出来ました。
    まったく読むの遅くてごめんなさい><、

    >神田夏美さん

    もう目が回るような中だとは思いますが、読みに来ていただいてありがとうございます♪

    最後のピースがはまるのは、エピローグにあたる「終章」ですけど、事実上この第六章がクライマックスですね。

    「備忘録」がうまく機能しているかについてはご感想を待ちたいと思いますです。

    こんばんは。忙しさの合間を縫って読みに来ました~♪
    六章、何やら最初から衝撃的な展開ですね。さすが最終章(最終章……で、いいんですよね?まだ2もあるようですが、1としては)
    いつも本ストーリーの前にあるK町警察署備忘録が以前から気になっていたのですが、6章のタイトルから、この章で色々明かされるのかなーと楽しみです。
    今日はここまでですみません、ちまちまと読み進めさせてもらいますっ><
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