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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第二部 非情の冬

    紅蓮の街 第二部 17-3

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    「策?」

     そういわれて、ガスはやっとその理由に思い至った。

    「なるほど。蓄えた食糧を、割り当てのぶん以上に兵どもに食わせて、元気いっぱいの状態でおれたちにぶつけるという作戦か。まったく、ろくなことを考えないもんだぜ」

    「違う……それは、トイスの第一の策だ」

    「第二があるのか?」

     ガスは驚いた。

    「トイスは、その策で伯爵閣下にいたく気に入られ、苦痛のない即座の死を与えられた。やつらしい最期だった」

     ガスは自分でも気づかないうちにツァイの口元にまで近寄っていた。

    「その第二の策により、今やガレーリョス家は食い物のことではなんの心配もしなくてすむようになった。トイス様々だな」

    「その第二の策とやらを話せ!」

    「簡単だ。ふたことでいえる。トイスはこういったのだ。『人を食え』と」

     それを聞いて、ガスは頭を鉄棒かなにかで殴られたような衝撃を覚えた。

    「なんてこった……」

    「今やガレーリョス家の前には、無数の家畜がいるというわけだ。この終末港には、三十万を超える人間がいるのだからな。雪の中に突っ込んでおくなり、塩漬けにするなりしておけば、腐ることもなく、いつでもおいしくいただけるというわけだ……」

     ガスはツァイを見た。幽鬼と思った、やせこけた腕を、足を、身体を見た。

    「あんたが水しか飲まなくなったのもわかるぜ……」

    「ささやかな抵抗というやつだが、閣下のお気にはな……。それで、お前に頼みたいことがある。ゴグ。やつを殺してやってくれ」

    「ゴグ? 『戦牛』か?」

    「そうだ。あいつもおれと同じく、人間なんか口にしようとはしなかった。代わりに、おれが自分のぶんもパンをくれてやっていたんだ。おれが食べろといったら、やつは文句はいいつつも最終的には食べるからな。だが、おれがお前に殺されたとなると、やつは怒り悲しみ、おれの仇を取るために、人肉でもなんでも食ってお前を追うに違いない」

    「おれが殺したことが、なぜあいつにわかるんだ」

    「バルテノーズ家に人間は多くても、おれを殺せるのはお前くらいだ、『彫刻屋』」

     ツァイは当然のようにいった。

    「だから、お前に頼むのだ。ゴグを殺してくれ。人肉を食ったものが長生きすると、たいていはろくなことをしないものだからな……おれと同様、バルテノーズ家でゴグを殺せるのは、お前くらいのものだろう」

    「わかった」

     ガスは答えた。

    「それでいい」

     ツァイは目を閉じかけ、また開いた。



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    ~ Comment ~

    Re: 秋沙さん

    ええ、何度も書いているように、この小説の主人公はガスくんではなく、「ナミとエリカ」であります。このところ影が薄いけど。

    ということは……。

    三日先までしか原稿できてないしストーリー変えようかな(笑)。

    NoTitle

    あうあうあう~~~(T0T)
    いやぁ、人間って恐ろしい・・・。

    高潔なエリカちゃんがこのことを知ったらどうなることやら・・・。

    あ、ナミのこと忘れてた。
    そんなに簡単に冷たい海の底に沈むような女ではないですよねぇ?

    Re: limeさん

    「飢餓」を描いた作品で忘れられないのが、楳図かずお先生の漫画、「漂流教室」です。

    この小説もあれに影響されている点がいくつかあったりします。

    寝付けなくなるくらい怖い作品でした……。そのくせ続きが読みたくてしかたなくなるという。

    傑作ではありますが二度と読みたくない(^^;)

    NoTitle

    そうきましたか。
    う~ん。
    ツァイの気持ち、わかります。

    人肉って、確か不味かったはず・・・。
    そう言う問題でもないのか。
    背に腹は代えられないのか。
    飢餓は、人を狂わせますね。
    そうまでして、生きたいと思う欲求が怖いですよねぇ。

    Re: ミズマ。さん

    ここには書いてありませんが、おそらくは事態におそれをなしてガレーリョス家を裏切ってバルテノーズ家に走ろうとした人間は皆、命を奪われてしまったものと思われます。

    終末港は狂気の街と化してしまいました。

    最終回までに救いはあるのか、これからが勝負です第三部。

    あぁ、こういう理由ですか。読者の何割かを失うってのは。

    んー、でも最初っからある種の陰湿さが漂ってる話ですからね。ポールさんが危惧するほどのことでもないかと。←フォロー?

    問題は行為よりも心情でしょう。
    やむにやまれず泣きながらやったのか、それとも…。
    まぁ、今回は冷ややかなまでに後者でしょうけれどね。

    Re: 矢端想さん

    この街を襲う地獄はさらにこんなもんじゃなくなります。

    来週の第三部では春になりますが……。

    勅使がエリカに耳打ちしたのを覚えていますか?

    いいのかなこんなの書いて(^^;)

    NoTitle

    物語はとうとうタブーの領域にまで・・・。

    トイスの最期にふさわしい、ヴェルク三世が狂喜するにふさわしい、だれも思いつかなかった衝撃的な策。
    終末港はこの世の地獄になってしまった。

    例の「臓器〇〇法」を「人を喰う行為だ」と言った識者の方がいらっしゃいますね。

    Re: ぴゆうさん

    まあそういうことですね。

    無益な争いのために人まで食う気になれなかったのでしょう。

    エリカのいうとおり食い物を節制するだけでみんな生き延びられる可能性が高いのに……というやるせない思いが、半ば自死を選ばせたのでしょうね。

    だからといってヴェルク三世を裏切ることは、ツァイの哲学が許さなかったのでしょう。

    作者のわたしがいうのもなんですが、気の毒な最期です。

    NoTitle

    そうきたか・・・
    アンデスの正餐を思い出す。
    その場の極限にいた者しか理解できないし、語るのもどうかと思う。
    だけど、こんな話がある。
    漂流したボート。
    白人達は最後の水を争い、殺し合いを始めた。
    日本人は少しづつ割り当てられた水を一気に飲んで身を投げた。
    民族でどうこうもないけど、悲惨だね。
    ツァイは人食いにはなりたくなかったんだろ。

    歴史的覚え書き

    20世紀、ソ連の一部では、「死体は完全に腐敗してから埋葬すべし」という法律が施行された。なぜなら、共産党の低能率な農業政策のため、食料が不足し、そのまま土葬すると飢えた農民が(実話らしいが以下略)

    第二次世界大戦時、ドイツ軍によって完全に包囲され、補給が途絶えて深刻な飢餓に直面したレニングラードでは、市民の一部に(実話だが以下略)

    ベトナム戦争時、劣悪な栄養環境でゲリラ戦を戦わなければならなかった北ベトナム軍は(知人のミリタリー漫画家の先生によれば、写真もあるそうだが以下略)


    確実に読者の何割かを失ったな……。
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