FC2ブログ

    ささげもの

    ミズマ。さんお返しショートショート!

     ←ミズマ。さん範子文子小説! →れもんさんお返しショートショート!
    黒髪の少年と金髪の少女の昔話

     その老婆がこの荒れ地に、いつのころから住み着いているのか、誰も知らなかった。気にするものもなかった。荒れ地は複雑に入り組んでおり、草一本とて生えておらず、誰一人として入ろうとするものはいなかったのだ。入ろうと試みるものも、途中で気を変え、引き返してしまうのが常だった。それでも人はその奥地に老婆が住んでいることを確信していた。なぜだかわからない。学のあるものは、それにはたぶん高度な魔法がかかわっているのだろう、というのみだった。魔女の老婆。人々が好んで近づきたがるはずもない。

     その日も、老婆は、自らの住む岩屋の家に明かりを灯した。すでに日が暮れかかっていたのである。

     老婆は、いずこからともなく取り出した粗末な燕麦の粥の鍋をテーブルに置くと、ふたつの皿にそれぞれ取り分けた。

     皿が粥で満たされたちょうどそのとき、十歳くらいの少年が、岩屋に入ってきた。

    「お祖母さん、ただいま!」

    「遅かったね。粥が冷めてしまうよ」

     この孫だかひ孫だか玄孫(やしゃご)だかわからぬ少年に、このようにいうのが、老婆のいつもの日常だった。

     黒い髪の少年は、苦笑いすると、テーブルに着いた。

     老婆は、ちらりと少年を見、舌打ちをした。

    「口元が茶色いよ。なにをつけているんだい。土を食べるなんて馬鹿なことは、三つのときにおなかを壊してからやめたはずじゃなかったのかい」

     少年は、ふいに身をこわばらせると、口元をぬぐおうとした。

     その動きが、途中で止まった。老婆が、指先でなにかのしぐさをしたのと同時だった。

    「その色、土じゃないね。わたしの知らないなにかだ」

     老婆は少年のもとまで歩いてくると、その口元を指でぬぐい、なめた。

    「甘い……」

     老婆は少年を厳しい目で見据えた。

    「これは、なにかの菓子だね。いったい、どこで手に入れたんだい。もしかして、お前、この土地を出て行ったのかい。いや。出て行けるわけがないね。この土地には、わたしの魔法がかけてあるからね」

    「ごめんなさい」

     少年は、弱々しくいった。

    「子供が……」

    「子供?」

     老婆の目が見開かれた。

    「うん、そうだよ。金色の髪を長く伸ばして、輝くような青い目をして、お月様みたいな白い肌をして、ひらひらの着物を着た、ぼくくらいの歳の子供が、茶色いかたまりをくれたんだ」

     老婆は身体を硬直させていた。

    「食べてみて、っていうから、食べてみたら、とっても甘くて、ちょっぴり苦くて、食べたこともないようなおいしい味がしたんだ。ねえ、お祖母さん。『しんでん』って、なあに? 『みこ』って、なあに? その子、『みこ』になるのが嫌で、お菓子を持って『しんでん』を抜け出して、あてもなく歩いて、ここへたどりついたんだって。ぼく、その子と、いっぱいお話したよ。お祖母さんのこととか、いろいろ。でも、その子のほうが、とってもたくさんのことを知っていてね。また、いつか来るっていって帰っていって……」

    「……天乱れ大地再び破れんとせしとき、斃れし勇者の血を引くもののもとへ、力ある眼を持ちし黄金の巫女来たりてともに魔王を討たんと説くべし。その力ある眼の前には、いかなるものも遮ることあたわざるものなり……」

    「お祖母さん、どうしたの?」

     老婆は、少年が旅立ちのときを迎えたことを悟っていた。

    「さ、口をふいたら、お粥をおあがり。それから、お前に、昔話をしてあげよう」

     老婆は、昔を思い出していた。

    「この荒れ地がまだ生き物たちに満ちた深い森だったころ、黒い髪の女の子が金髪の若者と恋をするところから始まる、長い長いお話を……」

     岩屋の近くに立ち並ぶ、ときが来るまでともにこの荒れ地に隠棲することを決断した仲間たちの、古いものから新しいものに及ぶ数多の墓標もまた、老婆の昔話を懐かしげに聞いているかのようだった。

    ※ ※ ※ ※ ※

    ミズマ。さんへのお返しショートショートです。むちゃくちゃ暗くなってしまった。

    元小説は、「魔物の王と剣の勇者。」です。そちらもぜひご一読を。
    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    もくじ  3kaku_s_L.png X氏の日常
    もくじ  3kaku_s_L.png 読書日記
    【ミズマ。さん範子文子小説!】へ  【れもんさんお返しショートショート!】へ

    ~ Comment ~

    Re: ミズマ。さん

    こんなものでよかったら、どうぞもらってやってください(^^)

    というか、『数世代後の話』とはいえ、ミズマ。さんの登場人物を殺してしまったことを深くお詫びいたします(^^;)

    書いてから、怒られたらどうしようかとそればっかり……(^^;)

    書いていて思ったのですが、コンピュータRPGの導入部みたい

    NoTitle

    ※注:最初に読ませていただいたのは、会社で仕事中でしたので、
    「うおおおおおおおおッ!?」と滾りながらもコメントが書けませんでした。だって、間違いなくニヤニヤしちゃうし。仕事中にニヤニヤするのはヤバイです。間違いなくヤバイです。
    と、いうわけで自宅に帰り、ご飯も食べてゆっくりしてからコメントさせていただいております。ニヤニヤしてますよ、当然。

    うおおおおおおおおおおおッ!キャ━━━━(#゚ロ゚#)━━━━!!!!!!!!!!!!
    そ、壮大なロマンが始まる! 冒険が始まる予感しかしない!
    wktkが止まりませんッ!
    うおおおおおおおおおおおッ!!
    バレンタインも微妙にからめるなんて、なんて粋な!
    こ、これは「この続きを書いてね☆」というポールさんからの壮大な前フリ挑戦なのかッ!?

    よし、受けて立とうッ!!!←

    老婆は元魔王ですね! そして少年は勇者との間の子孫ですね! 断定しますよ! というか当然そうですね!
    ……うわー、滾るわぁ( *´艸`)
    素晴らしい前フリという名の宿題かも知れないをいただきまして、ありがとうございました!
    貰っていいですよね、ねッ!?

    そして少年、土、食べたことあるのか…www
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【ミズマ。さん範子文子小説!】へ
    • 【れもんさんお返しショートショート!】へ