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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第三部 殺戮の春

    紅蓮の街 第三部 1-1

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       ……クイルトス、君は信じないだろうが、本当の話なのだ。まあ聞いてくれ。ぼくが北方の野蛮地帯をさまよっていたとき、ある蛮族の村に厄介になったのだ。そこでは、遠い昔から、ひとつの儀式が行なわれていたのだ。暦が春を告げたその第一日目に限り、その蛮族の男たちは、自らの部族とその客人や家畜以外の、目についた全ての生き物を狩り、殺さねばならんのだ。それが、彼らが狩りの神に捧げる供物となるのだ。彼らは、それを『殺戮の春』と呼んでいた。それを聞いたとき、ぼくは彼らの信ずる神の厳格さに、ある種の畏敬のようなものを覚えたのだ……

         ベイウルコス著 対話編「蛮族について」より抜粋



    第三部 殺戮の春







     雪は、あの秋の海戦の日から百三日の間、毎日降り続いたかと思うと、唐突にやんだ。人々は歓喜して太陽を迎えたが、しかしその喜びも、それでどうなることもない、ということに気づくまでの間だけだった。

    「春が来た。春が来たよな。それでいったいどうなるってんだ」

     ガスは、痛みのはげしいバルテノーズ家の邸で、アクバに向かってまくし立てた。顔には栄養失調から来る、疲労の色がまざまざと現れていた。

    「怒鳴らなくたってわかっております、ガス殿」

     アクバも、ガスに負けず劣らず疲労の色の濃い顔で答えた。

    「海が平穏に戻ったので、バルテノーズの船団が、食料を買い付けるため各所に船出しました。それだけでも一歩前進ではありませんか、ガス殿」

    「だったら聞くがね、船はいつ帰ってくるんだ。アグリコルス博士が生きているうちに帰ってくるのか。種芋はまだ食うわけにはいかん以上、おれたちは、五日分の食糧で十五日を生きなくてはいけないんだぞ」

    「だから怒鳴らなくても聞こえるといっているでしょう、ガス殿!」

     ふたりは激しくにらみ合った。そこまでけんか腰になる必要もない話だ、と、ふたりとも心の底ではわかっていたが、空腹がふたりの神経をこれ以上ないほどささくれ立たせていたのだ。いや、五日分の食糧で十五日を生きなくてはならないこれからのことを考えると、ささくれはまだまだ軽いほうかもしれなかった。

    「アグリコルス博士の病状は確かに悪いですが、それは空腹と過労が原因です。ただでさえあのご老体なのに、雪の中をクワルス芋の栽培の陣頭指揮を執られて、すっかり身体を壊されてしまった」

     アクバは下を向いていった。



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    ~ Comment ~

    Re: fateさん

    今明かしても支障はないかと思いますが、

    ナミは作者のわたしにもつかみきれないものを持った底知れない女でありました……。

    第三部を最後まで読めばこの意味もわかるかと思います。(^^)

    「ええと、何度もいいますが、この物語の主人公はナミとエリカです。ガスくんは最重要登場人物ですが、主人公ではありません。」

    ↑はい、ご心配なく。
    さすがにおバカなfateにも分かっております。
    だからこそ、未だよく分かっていないナミに関して最後にfateがどんな印象で終わるのかが楽しみなんです(^^)

    他の人物についてはだいたい固まってきました。
    きっとナミが自らを語ることが少ないので、まだfateはガス目線なんです。

    ちょっとここで整理しながら再度進ませていただきます~

    Re: ぴゆうさん

    まあ全員死んでしまうと話が止まってしまうので、何人かは生き残りますが。

    話の最後までにはけっこう死にます(^^;)

    NoTitle

    どよ~~ん。
    殺戮の春って・・・
    そして誰も居なくなったみたいなのは、イヤじゃのう。
    v-12

    Re: 矢端想さん

    本格的に人が死ぬのはこれからです。

    雪が解ければ……まあ深刻な食糧難が変わらない(早植えのクワルス芋ができればだいぶ改善されますが)のはおわかりでしょうが、鬼のような作者はここで「あれ」を。

    さしものエリカちゃんの顔を蒼白にさせた、勅使殿の情報とはなんであるかお楽しみください。

    もちろん、災厄はそれだけではないんですよね。ふっふっふっ。

    NoTitle

    「殺戮の春」 ・・・!

    「歓喜の春」とか「再会の春」とか「北国の春」とか、最後は希望を感じさせるなにか美しいタイトルで締められることを予想していただけに、大変な衝撃を受けました。
    「本当の地獄はこれからだ」と言わんばかりに。
    私は人間がとことん甘いようだ。ああ。恐ろしい・・・。

    Re: ミズマ。さん

    高校のころ、大雪が降った次の日、わたしは泥が固まって汚れきったスニーカーを履いて(それしかなかったのだ(笑))、学校へ向かいました。
    雪はくるぶしどころか下手をするとすね辺りまで埋まってしまうほどです。
    苦労して学校までたどりついて、ふと足元を見ると……。

    スニーカーがきれいになっていた(笑)。

    雪の摩擦と水分が、靴の洗濯をしたみたいな効果を生んでいたんですなあ。

    実話です(^^)

    これからどう伏線を回収しよう(^^;)
    ほとんど原稿真っ白だ(^^;)
    現実逃避(笑)

    NoTitle

    春は殺戮ですか! 血みどろ展開で殺伐としそうですねぇ。

    ガスくんの口喧嘩の相手がアクバさんということは、ナミ嬢はいまだ戦線復帰していないようですねぇ。
    彼女は戦線復帰するんでしようか?←愚問です。
    そのときには、どんな肩書きで、どこに属して現れるのか・・・楽しみですねぇ。いっそナミ嬢を中心とした新しい勢力として現れたりして。

    ちなみに大雪の次の日に自転車ですっころんだ経験があります。
    あれは・・・高校時代の、テストの日の朝だったなぁ(遠い目)。

    Re: limeさん

    あれはそれほどからんできません。

    単にタイトルをつけるのに、なにか由来が欲しかっただけです。

    そこがわたしの小説の残念なところで……(^^;)

    NoTitle

    冒頭の抜粋が気になりますね。
    この話に絡んでくるんでしょうが、ますます血が流れそうな・・・。
    (もう、ずいぶん慣れましたから、何でも来いです)

    早く春が来ないかな。
    現実世界でも。
    (昨日の大雪で死にそうになりました。あんな日に自転車出してはいけません)
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