「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 2-4
ガスの不安は、さらに大きくなった。
「なにが書いてあるんです?」
「この終末港の運命を左右するかもしれないことです。まだ、そうなると決まったわけではないですが、そのときが来たら、終末港は今以上の地獄に変わるかもしれません」
「今以上ってことはないでしょう」
エリカはいらだたしげに指を振った。
「それについては、食事を終えた後で、あなたやアクバ、それに主だったものとの間で話しましょう。とにかく、メアを呼びなさい。わたしは食事をさせてもらいます。あなたは書状を取りなさい」
弱々しいが、有無をいわさぬ声で、エリカはガスに命じた。
ガスはうなずくしかなかった。
「お心のままに、公爵閣下」
ガスは首をひねりながら机にいき、引き出しを開けると中を探った。
薄青の封筒はすぐに見つかった。指輪を押し当てたのだろうか、バルテノーズ家の家紋で封蝋がされている。
「なんでもいいですけどね」
ガスはいった。
「粥ですが、よく噛んで食べてくださいよ」
エリカはうなずいた。
「いまのわたしなら、牛一頭でも食べられます。あなたのバター飴のせいで、おなかがすいてしかたありません。早く、メアを呼んできなさい」
「わかりました、公爵閣下」
部屋の外へ出たガスは、そばを通りがかった家士に、たぶん厨房にいるだろうメアを呼んでくるように頼んだ。
「公爵閣下がぜひともだそうだ」
とひとこと告げると、家士はすっ飛んでいった。
ガスは肩をすくめると、アクバを探した。
アクバは、いつもいる、家令の控え室にこもってなにか書き物をしていた。
「いいかい?」
ガスの声に、アクバは帳面を閉じて顔を上げた。
「閣下はお食事を?」
「これからメアを呼んで宴会だとさ」
アクバは、ほっとしたように吐息を漏らすと、ガスを見た。
「ガス殿、どんな魔術を使ったのですか?」
「常識と暴力だ。おれにできるのはそれだけさ。それよりも、公爵閣下が、おれとあんたにこれを読めと」
封筒を渡すと、アクバは眉をひそめた。
「封緘がしてある……わかりました。さっそく読みましょう」
ガスとアクバは読み始めた。半ばまで読んだとき、ふたりの顔は蒼白になった。
「なんだって……!」
ガスは叫びそうになるのを押し殺した。
「南方地域で悪疫発生の噂だと? 春の鳥の渡りとともに……悪疫はここまで来るぞ!」

「なにが書いてあるんです?」
「この終末港の運命を左右するかもしれないことです。まだ、そうなると決まったわけではないですが、そのときが来たら、終末港は今以上の地獄に変わるかもしれません」
「今以上ってことはないでしょう」
エリカはいらだたしげに指を振った。
「それについては、食事を終えた後で、あなたやアクバ、それに主だったものとの間で話しましょう。とにかく、メアを呼びなさい。わたしは食事をさせてもらいます。あなたは書状を取りなさい」
弱々しいが、有無をいわさぬ声で、エリカはガスに命じた。
ガスはうなずくしかなかった。
「お心のままに、公爵閣下」
ガスは首をひねりながら机にいき、引き出しを開けると中を探った。
薄青の封筒はすぐに見つかった。指輪を押し当てたのだろうか、バルテノーズ家の家紋で封蝋がされている。
「なんでもいいですけどね」
ガスはいった。
「粥ですが、よく噛んで食べてくださいよ」
エリカはうなずいた。
「いまのわたしなら、牛一頭でも食べられます。あなたのバター飴のせいで、おなかがすいてしかたありません。早く、メアを呼んできなさい」
「わかりました、公爵閣下」
部屋の外へ出たガスは、そばを通りがかった家士に、たぶん厨房にいるだろうメアを呼んでくるように頼んだ。
「公爵閣下がぜひともだそうだ」
とひとこと告げると、家士はすっ飛んでいった。
ガスは肩をすくめると、アクバを探した。
アクバは、いつもいる、家令の控え室にこもってなにか書き物をしていた。
「いいかい?」
ガスの声に、アクバは帳面を閉じて顔を上げた。
「閣下はお食事を?」
「これからメアを呼んで宴会だとさ」
アクバは、ほっとしたように吐息を漏らすと、ガスを見た。
「ガス殿、どんな魔術を使ったのですか?」
「常識と暴力だ。おれにできるのはそれだけさ。それよりも、公爵閣下が、おれとあんたにこれを読めと」
封筒を渡すと、アクバは眉をひそめた。
「封緘がしてある……わかりました。さっそく読みましょう」
ガスとアクバは読み始めた。半ばまで読んだとき、ふたりの顔は蒼白になった。
「なんだって……!」
ガスは叫びそうになるのを押し殺した。
「南方地域で悪疫発生の噂だと? 春の鳥の渡りとともに……悪疫はここまで来るぞ!」
- 関連記事
-
- 紅蓮の街 第三部 3-1
- 紅蓮の街 第三部 2-4
- 紅蓮の街 第三部 2-3
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作連載ファンタジー小説]
~ Comment ~
NoTitle
不作、大雪、そして疫病……まさしく呪われた一年ですね。
この街は、どうなってしまうのか。
どこまでもどこまでも登場人物たちにキビシイ物語ですね。
続も楽しみに読ませていただきます!
この街は、どうなってしまうのか。
どこまでもどこまでも登場人物たちにキビシイ物語ですね。
続も楽しみに読ませていただきます!
- #14533 椿
- URL
- 2014.11/12 13:59
- ▲EntryTop
Re: れもんさん
やばいです。
やばすぎる状況です。
でもこれで終わっていたら、小説的な盛り上がりに欠けるので……(^^)
まだまだひと波乱もふた波乱もあります。
どうぞ御期待ください。
やばすぎる状況です。
でもこれで終わっていたら、小説的な盛り上がりに欠けるので……(^^)
まだまだひと波乱もふた波乱もあります。
どうぞ御期待ください。
Re: limeさん
ここから先の数章の展開は、あまりにも悪魔じみているのでご覧に入れるのが怖い(^^;)
いえ残虐シーンとかそういうのじゃなくて(^^;)
いえ残虐シーンとかそういうのじゃなくて(^^;)
NoTitle
やっと追いつきました(;^ω^)☆
いつもコメント頂きぱなしでごめんなさい;
悪疫です…と!?
やばいじゃないですかw
続きも待ってます!
いつもコメント頂きぱなしでごめんなさい;
悪疫です…と!?
やばいじゃないですかw
続きも待ってます!
NoTitle
いや~、もう、これ以上はやめて~っていうほど、最悪な情報じゃないですか!
エリカちゃん、これを遺書にしたらいけませんよ。
一緒に戦わなきゃ!
(女性キャラに厳しい私・笑)
しかし、撃つ手はあるんですか?ガス!
エリカちゃん、これを遺書にしたらいけませんよ。
一緒に戦わなきゃ!
(女性キャラに厳しい私・笑)
しかし、撃つ手はあるんですか?ガス!
Re: あこがれや妻さん
こちらこそあまりコメントできなくてすみませんでした。
小説の感想、もらえたら嬉しいですけど、書くのが難しかったら無理なされることは(^^)
「面白かった!」
のひとことでも、
「つまらなかった!」
のひとことでも、もらったほうは嬉しいので、ほかのかたにもどんどん思ったことを書いたほうが楽しいですよブログって。
小説の感想、もらえたら嬉しいですけど、書くのが難しかったら無理なされることは(^^)
「面白かった!」
のひとことでも、
「つまらなかった!」
のひとことでも、もらったほうは嬉しいので、ほかのかたにもどんどん思ったことを書いたほうが楽しいですよブログって。
Re: ぴゆうさん
知人が沖縄で豚の丸焼きを食ったそうです。
めちゃくちゃウマかったそうです(^^)
いつか行きたいな沖縄。
飢えた人間の胃袋は常識を超える(笑)
そういや今日読んだ新聞記事。
シベリア抑留を体験した三波春夫さんと、10歳下で日本にいた永六輔さんの対談。
三波「永さんは飢えたことがありますか」
永「子供のころ、二合五勺の配給で」
三波「飢えたとは言いません」
永「いえ、ホントに腹がへって」
三波「永さん! 飢えたのと、腹がへったのは違います」
こんな小説を書いていてなんですが、恐ろしい会話だと思いました。書く前に読んでいたら、わたしの小説は違っていたかもしれません。
めちゃくちゃウマかったそうです(^^)
いつか行きたいな沖縄。
飢えた人間の胃袋は常識を超える(笑)
そういや今日読んだ新聞記事。
シベリア抑留を体験した三波春夫さんと、10歳下で日本にいた永六輔さんの対談。
三波「永さんは飢えたことがありますか」
永「子供のころ、二合五勺の配給で」
三波「飢えたとは言いません」
永「いえ、ホントに腹がへって」
三波「永さん! 飢えたのと、腹がへったのは違います」
こんな小説を書いていてなんですが、恐ろしい会話だと思いました。書く前に読んでいたら、わたしの小説は違っていたかもしれません。
NoTitle
ポールさま、これまで温かいお言葉の数々を
ありがとうございました。
これからもお邪魔しますのでどうぞよろしくお願いします。
相変わらず小説の感想を書く勇気がなくてごめんなさい。
ありがとうございました。
これからもお邪魔しますのでどうぞよろしくお願いします。
相変わらず小説の感想を書く勇気がなくてごめんなさい。
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: 椿さん
まだ二転三転するので、どうかおつきあいくださいね~♪