ささげもの
祭歌さんお返しショートショート!
昨日、範子ちゃんと文子ちゃんのラブリーな絵を描いてくださった「イースターエッグの夜」の祭歌さんへお返しのショートショートです。
元にした小説は、「ご主人様の受難」。
どうぞお楽しみください。
× × × × ×
かくて受難は……
どたどたどた、と部屋に駆け込んできたのは、執事のアクラガスだった。
「ご主人様! ううう、生まれました! お生まれになりました!」
「ご主人様」は書いては破り、書いては破りしていた書きつけとペンを取り落とすと、安堵と興奮が入り混じった、なんとも間の抜けた顔つきになって立ち上がった。
「おお! そ、それで、男か、女か? そして……妻は無事か?」
アクラガスは息を整えながらしゃべろうとした。
「はあ、はあ、ええ、はあ、その、はあ、はあ」
「息を整えるかしゃべるかどちらかにせよ、アクラガス」
「は、はい、すうはあ、すうはあ、はっ」
アクラガスは姿勢を正した。
「玉のような男の子であります。母子ともに健康そのものだと、医者も申しております」
「よかった……」
「ご主人様」は、張り詰めていた神経が一気にゆるんだ、とでもいうように椅子にもたれた。
「泣いておられるのですか、ご主人様?」
「泣いてなどおらんっ」
照れ隠しか、真っ赤になって「ご主人様」は怒鳴った。
「医者は、もう立ち入りを許してくれるのか?」
「はい。奥様の胸で、びいびい泣いております。健康の証でございます」
「よし。それでは、顔を見に行くとするか」
そのとき、扉にドアノッカーの音がした。
「誰でしょうか? こんなときに……」
不審そうな顔をするアクラガスに、「ご主人様」はいった。
「待て待て。話によれば、歴史に名を刻むような人物が生まれたときは、その家に異形のものが訪れ、予言をすると伝えられる。もしかしたらそれかもしれん。わしがじきじきに行ってみよう」
アクラガスは半信半疑で主人の後についていった。
入り口で、アクラガスは叫んだ。
「当家執事のアクラガスである! この夜更けに、当家にいかなる用か?」
外からは、しわがれた声がした。
「ただの旅の婆あじゃよ。この屋敷の空を見たら、たった今、子供が生まれたという気が漂っておったからの。これはごあいさつをせねばならぬと思ったまでじゃ」
アクラガスは主人の顔を見た。
「本物でしょうか?」
「偽物の、ただの物乞いの老婆でも、当家に祝いにいち早く駆けつけてくれたのは事実。入れてやろう。なにかあっても、銀貨を一枚くれてやれば退散するだろう」
執事は扉を開けた。
そこには、ぼろぼろの衣服に身を包んでいるものの、目にただならぬ光を宿した老婆が杖を支えに立っていた。
ふたりは、その眼光にひるむのを覚えた。
「ご主人様ですな。赤子を見せてはくれまいかの?」
「かまわぬ」
思わずうなずくふたりを尻目に、老婆はまるでこの屋敷で生まれたかのように、案内もなく迷路のような廊下を歩いて産室にたどりついた。
アクラガスが扉を開ける。
三人は、赤子を見た。真っ赤な小さな、それでも生きている塊が、泣き声を張り上げて、自分は生きている、ということを精一杯主張していた。主人とアクラガスは、どこか感動するものを覚えていた。
「この子は……この子の相は……」
老婆はまじまじと赤子の顔を見た。
「どうだといわれるのですか?」
「間違いない。百万人にひとりの異相をしておる」
「百万人にひとり!」
その場にいた人間たちは、皆、踊りだしたくなる気持ちだった。
「大将軍になれるのですか? それとも大学者? いや、大商人に?」
主人は熱を込めていった。
老婆は首を振った。
「そのどれでもない。いうとしたら」
「したら?」
老婆はひとこといった。
「百万人にひとりの、良縁に恵まれ、女房の尻に敷かれ、家内安全、かかあ天下になる相が出ておる」
主人は、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、なんとも間抜けな表情で息子の顔を見た。
キース誕生の瞬間だった。
元にした小説は、「ご主人様の受難」。
どうぞお楽しみください。
× × × × ×
かくて受難は……
どたどたどた、と部屋に駆け込んできたのは、執事のアクラガスだった。
「ご主人様! ううう、生まれました! お生まれになりました!」
「ご主人様」は書いては破り、書いては破りしていた書きつけとペンを取り落とすと、安堵と興奮が入り混じった、なんとも間の抜けた顔つきになって立ち上がった。
「おお! そ、それで、男か、女か? そして……妻は無事か?」
アクラガスは息を整えながらしゃべろうとした。
「はあ、はあ、ええ、はあ、その、はあ、はあ」
「息を整えるかしゃべるかどちらかにせよ、アクラガス」
「は、はい、すうはあ、すうはあ、はっ」
アクラガスは姿勢を正した。
「玉のような男の子であります。母子ともに健康そのものだと、医者も申しております」
「よかった……」
「ご主人様」は、張り詰めていた神経が一気にゆるんだ、とでもいうように椅子にもたれた。
「泣いておられるのですか、ご主人様?」
「泣いてなどおらんっ」
照れ隠しか、真っ赤になって「ご主人様」は怒鳴った。
「医者は、もう立ち入りを許してくれるのか?」
「はい。奥様の胸で、びいびい泣いております。健康の証でございます」
「よし。それでは、顔を見に行くとするか」
そのとき、扉にドアノッカーの音がした。
「誰でしょうか? こんなときに……」
不審そうな顔をするアクラガスに、「ご主人様」はいった。
「待て待て。話によれば、歴史に名を刻むような人物が生まれたときは、その家に異形のものが訪れ、予言をすると伝えられる。もしかしたらそれかもしれん。わしがじきじきに行ってみよう」
アクラガスは半信半疑で主人の後についていった。
入り口で、アクラガスは叫んだ。
「当家執事のアクラガスである! この夜更けに、当家にいかなる用か?」
外からは、しわがれた声がした。
「ただの旅の婆あじゃよ。この屋敷の空を見たら、たった今、子供が生まれたという気が漂っておったからの。これはごあいさつをせねばならぬと思ったまでじゃ」
アクラガスは主人の顔を見た。
「本物でしょうか?」
「偽物の、ただの物乞いの老婆でも、当家に祝いにいち早く駆けつけてくれたのは事実。入れてやろう。なにかあっても、銀貨を一枚くれてやれば退散するだろう」
執事は扉を開けた。
そこには、ぼろぼろの衣服に身を包んでいるものの、目にただならぬ光を宿した老婆が杖を支えに立っていた。
ふたりは、その眼光にひるむのを覚えた。
「ご主人様ですな。赤子を見せてはくれまいかの?」
「かまわぬ」
思わずうなずくふたりを尻目に、老婆はまるでこの屋敷で生まれたかのように、案内もなく迷路のような廊下を歩いて産室にたどりついた。
アクラガスが扉を開ける。
三人は、赤子を見た。真っ赤な小さな、それでも生きている塊が、泣き声を張り上げて、自分は生きている、ということを精一杯主張していた。主人とアクラガスは、どこか感動するものを覚えていた。
「この子は……この子の相は……」
老婆はまじまじと赤子の顔を見た。
「どうだといわれるのですか?」
「間違いない。百万人にひとりの異相をしておる」
「百万人にひとり!」
その場にいた人間たちは、皆、踊りだしたくなる気持ちだった。
「大将軍になれるのですか? それとも大学者? いや、大商人に?」
主人は熱を込めていった。
老婆は首を振った。
「そのどれでもない。いうとしたら」
「したら?」
老婆はひとこといった。
「百万人にひとりの、良縁に恵まれ、女房の尻に敷かれ、家内安全、かかあ天下になる相が出ておる」
主人は、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、なんとも間抜けな表情で息子の顔を見た。
キース誕生の瞬間だった。
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すごい! お婆さんすごいです!(爆笑)
てっきり何滞りなくおめでたくなったかと思えば、彼の誕生だったとは……っ!
ミミズでタイを釣った気分です! わわわわわ、本当に本当にありがとうございます……!
もしよろしければ、うちのブログに飾らせていただいてもよろしいでしょうか? ずうずうしく……すみません;;
もちろんお嫌でしたらこそこそにまにま楽しみますので!
てっきり何滞りなくおめでたくなったかと思えば、彼の誕生だったとは……っ!
ミミズでタイを釣った気分です! わわわわわ、本当に本当にありがとうございます……!
もしよろしければ、うちのブログに飾らせていただいてもよろしいでしょうか? ずうずうしく……すみません;;
もちろんお嫌でしたらこそこそにまにま楽しみますので!
- #3392 歌
- URL
- 2011.02/27 18:19
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Re: 歌さん
というかもらっていただけたら満足の極みで(^^)
ミミズだなんてご謙遜が過ぎますよ(^^) こちらこそこんなものですみません(^^;)