「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 3-2
「なるほど」
ガムロス大司教は重々しくうなずいた。
「そういうことだったら、いくらでも協力しよう。ただでさえ、この飢饉で、街は地獄のような有様をしているのに、これ以上混乱しては、ほんとうに無政府状態になる」
「無政府状態は、法と秩序の神ザースの教えにも反しますし」
「さよう」
ガムロスは、わが意を得たりとでもいう調子でアクバに答えた。
「法と秩序。それこそが、天の王宮にいます主神にして、星辰を動かす神々の王ザースの教えなのだ……それをあのガレーリョスの輩は。まことに嘆かわしい」
「嘆かわしく思われるのも結構ですが、今は、われわれにいったいなにがやれるのかを考えるべきです」
アクバはあくまでも冷静だった。
ガスはどこか上の空で宙を見ていた。
ケルナー頭取は、弱々しくいった。
「わたしには、事実上、なにもできないも同然だ……」
ケルナーの手が、ぐっと握り締められた。
「わたしの銀行の富も財産も、皆、今の終末港ではなんの力にもならない。いくら金銀宝石を持っていたとしても、そんなもの石ころ同然だ……」
ケルナーの嘆きを、この場の男たちは当然のこととして聞いていた。
『金銀宝石は食えないからな』
と、めいめいの顔には書いてあるも同然だった。
「しかしそれでも」
アクバはいった。
「この状況下で、頭取の持つ財力を無視することはできません。イルミール家やガレーリョス家の負債の抵当権の大部分を、頭取が握っているという事実、これはわれわれにとって残された数少ない武器のひとつです」
ケルナーは首を振った。
「踏み倒されて終わりだ。銀行家が、いくら貴族たちを金銭で縛っているように見えても、政治の転変ひとつで、やつらは書き損じの神を破るかのように、証文を破って踏み倒しにかかってくる……」
ケルナーは下を向いた。
「それに備えて、数多くの副業を、いわば逃げ道として経営するのがわれわれのやりかたなのだが、この雪でそれらはほとんど壊滅状態だ。資金と人手が回らなければ、涸れ川の水車のように、押しても引いても回らなくなる……」
ケルナーはなんとか顔を上げた。
「船出したバクソス船長に食料買い出しの資金として融通した財貨、あれでわたしの金庫はほとんど空っぽなのだ」
「それだけでも大きな助けですよ、頭取。復興時に倍にして取り返すくらいの気概でいてください」

ガムロス大司教は重々しくうなずいた。
「そういうことだったら、いくらでも協力しよう。ただでさえ、この飢饉で、街は地獄のような有様をしているのに、これ以上混乱しては、ほんとうに無政府状態になる」
「無政府状態は、法と秩序の神ザースの教えにも反しますし」
「さよう」
ガムロスは、わが意を得たりとでもいう調子でアクバに答えた。
「法と秩序。それこそが、天の王宮にいます主神にして、星辰を動かす神々の王ザースの教えなのだ……それをあのガレーリョスの輩は。まことに嘆かわしい」
「嘆かわしく思われるのも結構ですが、今は、われわれにいったいなにがやれるのかを考えるべきです」
アクバはあくまでも冷静だった。
ガスはどこか上の空で宙を見ていた。
ケルナー頭取は、弱々しくいった。
「わたしには、事実上、なにもできないも同然だ……」
ケルナーの手が、ぐっと握り締められた。
「わたしの銀行の富も財産も、皆、今の終末港ではなんの力にもならない。いくら金銀宝石を持っていたとしても、そんなもの石ころ同然だ……」
ケルナーの嘆きを、この場の男たちは当然のこととして聞いていた。
『金銀宝石は食えないからな』
と、めいめいの顔には書いてあるも同然だった。
「しかしそれでも」
アクバはいった。
「この状況下で、頭取の持つ財力を無視することはできません。イルミール家やガレーリョス家の負債の抵当権の大部分を、頭取が握っているという事実、これはわれわれにとって残された数少ない武器のひとつです」
ケルナーは首を振った。
「踏み倒されて終わりだ。銀行家が、いくら貴族たちを金銭で縛っているように見えても、政治の転変ひとつで、やつらは書き損じの神を破るかのように、証文を破って踏み倒しにかかってくる……」
ケルナーは下を向いた。
「それに備えて、数多くの副業を、いわば逃げ道として経営するのがわれわれのやりかたなのだが、この雪でそれらはほとんど壊滅状態だ。資金と人手が回らなければ、涸れ川の水車のように、押しても引いても回らなくなる……」
ケルナーはなんとか顔を上げた。
「船出したバクソス船長に食料買い出しの資金として融通した財貨、あれでわたしの金庫はほとんど空っぽなのだ」
「それだけでも大きな助けですよ、頭取。復興時に倍にして取り返すくらいの気概でいてください」
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~ Comment ~
NoTitle
平和というのは時には重いものですね。
そして世界でもっとも強いのは農業だということも
終末港では変わらないようです。
金は食べれませんからねぇ・・・。
そして世界でもっとも強いのは農業だということも
終末港では変わらないようです。
金は食べれませんからねぇ・・・。
- #3379 ねみ
- URL
- 2011.02/24 22:51
- ▲EntryTop
Re: ぴゆうさん
日本でも、悪名高い「徳政令」とかばんばん出しましたしねえ。
銀行家はたまったものではないですな。
しかし、本章の目玉はそういうところにはなく(これ以上語ると筋がばれるので以下略)
銀行家はたまったものではないですな。
しかし、本章の目玉はそういうところにはなく(これ以上語ると筋がばれるので以下略)
NoTitle
枯れ川の水車。
うまいことを言うなぁ~~
平和だからこそ債権も力を持つ。
死ぬか生きるかになれば力づくで反古にする。
スゴい輩だよね。
うまいことを言うなぁ~~
平和だからこそ債権も力を持つ。
死ぬか生きるかになれば力づくで反古にする。
スゴい輩だよね。
- #3377 ぴゆう
- URL
- 2011.02/24 07:20
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Re: ネミエルさん
「変質もしないし安定していて安全だと思ったのですが。あれ、われわれの排泄物です」
という小松左京先生のショートショートを読んで笑ったなあ。
金を食べるのは、ウルトラマンに出てきた黄金怪獣ゴルドンくらいですな(古い)