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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 6-4

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    第六章 燃えろ……(承前)


     「せらえの」は空いていた。わたしたちのほかに客はといえば、隅っこの席でチョコパフェをむさぼるように食っている、でっぷりと太った赤毛の外国人ビジネスマンひとりが、後から入ってきただけだった。
     わたしと坂元開次、是蔵忠道、速水鈴音の四人は、それぞれ運ばれてきたチキンのステーキとライスの皿を前に、顔を見合わせていた。食事が来るまでの三十分というもの、おとなしい世間話に終始していたのだが、相手を量るような張りつめた空気さえ漂っていなければ、もっとよかったのにと思えた。
     胸に銀色のペンダントを光らせた、速水鈴音が口を開いた。
    「本当に、代金は桐野さんがもっていただけるんですか?」
    「わたしの快気祝いを兼ねてますからね」
     わたしも含め、にこりとする奴は誰もいなかった。
    「とりあえず食おうぜ」
     坂元開次のことばに、誰からともなく賛同の言葉がもれ、手がナイフとフォークにかかった。
     一口食べてみる。うまい。
    「是蔵さんのいったとおりだ。この店のチキンは絶妙だ」
    「でしょう」
     つけあわせのポテトフライをフォークに突き刺したところで、坂元開次がいった。
    「それで、超能力とやらを本当に見せてくれるんだろうな」
    「見えるかどうかはわかりません。食べ終わって一息ついたら実演してお見せするつもりですが、すべては見るものの能力しだいです。坂元さんが夢の力を持っていたら、力の発動する瞬間を見られますし、持っていなかったらなにもわからないでしょう。もっとも、あたしの力はダウジングですから、結果は明瞭な形で顕れます。それを見て、嘘かどうかを判断なさってください」
    「ダウジングか。便利な能力だ。砂漠で遭難しても、井戸が掘れる」
    「面白くないぞ」
    「ジョークは好きじゃねえんだ」
     なにいってやがる。
    「それよりも、桐野さん、クリスについて教えていただけるということでしたが」
     忘れていたわけではない。
    「わたしが直接したことではありません。探偵事務所が調べたことです。それを割り引いて聞いていただきたい」
     わたしは森村探偵事務所とわたしが佐竹一を調べることになった経緯を、伏せるところだけは伏せて説明した。
    「……依頼人については詳しくは明かせませんが、とある市民団体だという話でした。話では、これまでどこも突き止めることができなかった、消えた大量の資金の行き先の解明の糸口をつかんだことを非常に感謝して、報酬に多額のイロをつけて支払ってくれた、ということで、探偵事務所はホクホクしてましたね」
    「どこまで信じてるんだよ、桐野」
    「それはどっちの意味だ? 依頼人がいて、それが探偵事務所に調査をさせた、ということについては信じている。だが、その依頼人の出自についてはまったく信じていない。特に、このわたしに情報をわざとリークしたとあってはなおさらだ」
    「リーク?」
    「考えてもみてください、是蔵さん。探偵事務所にとって、わたしにクリスの情報を伝えることによるメリットはなにもありません。それでも伝える気になったのは、裏に依頼人の思惑があったからでしょう。思うらくにそれは」
    「ユニオン」
     速水鈴音がぽつりといった。坂元開次がつまらなそうに答える。
    「陰謀論は好きになれねえ。それはちいと横に置いておいて、クリスの正体についてしゃべってくれねえか」
    「今話すところだ。クリスだが、やつによく似た人間が、佐竹一の近辺で目撃されている。名前はニコラス・チャーチ。グラス貿易の日本支社で部長職を勤めている」
    「どこがクリスなんだ?」
    「教会で祀るものはなんだ?」
    「……ジーザス・クライスト。なるほどな。わかった、続けてくれ」
    「ああ。それで、グラス貿易は、港区にある中堅の貿易会社です。年商が……どうでもいいですね。それよりも、クリスの写真ももらってきました。これです」
     わたしはナイフとフォークを横に置くと、胸ポケットから、モノクロの、証明写真のコピーを取り出して、皆に見せた。
     速水鈴音が、ほっと息を吐き出した。
    「少し違う……。けど、よく似てる」
     わたしは写真をしまった。ふたたびチキンにとりかかる。
    「この男で間違いはないはずです」
    「どうしてそれが?」
    「なぜなら、依頼主は探偵事務所に金を払い、調査を終わらせているからです。そこから一部を報酬としてもらっていなければ、この、年中ぴいぴいしているわたしがみんなにチキンステーキなどおごれるわけもないでしょう」
    「それもそうだな」
     三人ともうなずきやがった。
    「そのニコラス・チャーチという男は?」
     わたしは首を振った。
    「詳しいことはあまりわかりません。裏活動を主にやっているらしいですが、だいたいは会社にいるらしいです。仕事人の元締めみたいなものでしょうかね」
    「部長がそんな風で、誰が会社の業務をやってるんです?」
    「支社長が自らあっちこっち飛び回っているそうですよ。どうやら、グラス貿易という会社は、なにも知らない取締役クラスの数人を除いては、根っこの部分まで完全に『ユニオン・ジャッカー』によって支配されているらしいですね」
    「やな会社だな」
    「まったくだ」
     わたしはライスの最後のひとすくいと、チキンの最後の一切れを腹に収め、口をぬぐった。
    「さてと、料理を食べて腹がくちくなったところで、見せてもらいたいですね、速水さん」
    「落ち着けよ桐野。皿を見ろ。まだだいぶ残っているだろう。食い終わっているのは、おれとお前くらいのものだぞ」
     坂元開次にいわれてテーブルを見た。そのとおりだった。
    「桐野、お前はコーヒーでも飲んでろ」
     わたしは全員ぶんのコーヒーを追加注文し、ブラックですすった。
     舌も苦味に慣れてきたころに、残りの二人も食べ終わった。わたしはウェイトレスを呼び、コーヒーカップを残して、ライスとチキンの皿を下げてもらった。
    「そろそろいいでしょう。ここはチキンはたしかにうまいがコーヒーはそれほどでもない」
     おかわりはタダだが。
    「地図は……」
    「おれが持ってる」
     坂元開次はポケットから、小さく畳まれた、使い込まれてしわと折り目と書き込みだらけの東京都の地図を取り出した。
    「インチキされると困るんでな」
    「わかりました」
     速水鈴音は緊張した面持ちでそう答えた。
    「探ってもらいたいことは、おれと桐野からそれぞれひとつずつ出す」
     おい聞いてないぞ。
    「先におれのほうから質問を出そう。いいかな?」
    「はい」
    「ちょっと待ってください。速水さん、それって、どのくらいの時間がかかるものなのですか?」
    「終わるときはすぐに終わります。長ければ……そう、三十分も精神を集中させたらあたしも倒れちゃいますね」
    「桐野さん、超能力を使用するのは非常にハードな行為なんです。それをわかってあげてください」
     是蔵忠道の言葉に、坂元開次はつまらなそうにいった。
    「くそ、じゃ、おれの依頼はパスしてくれていいぜ。あんたを試すのが目的のものだったからな」
    「なにを探してもらおうとしたんだよ」
    「よく使い込まれたビクトリノックスのスイス・アーミーナイフ。写真はこれだ」
     ポケットから、古ぼけた十徳ナイフの写った、くしゃくしゃの写真が取り出された。
    「で、どこにあるんだ」
    「桐野さん。坂本さんの上着のポケットが、妙にふくらんでいるように、あたしには見えるんですけど」
    「観察力も鋭いんだな。ますますやらなくてよかったぜ。そのとおり、ほら、これだ」
     坂元開次はポケットをごそごそやって、おんぼろの十徳ナイフを取り出した。
    「ひどい奴だな坂元」
    「うるせえな。じゃ、お前の番だ。なにか気のきいたものを頼む」
    「気のきいたものか。地下鉱脈なんか見つけてもしかたないし」
     わたしは、しばし頭をひねった。
    「まだかよ」
    「考えているところだ。……そうだな、今、捜さなければならないやつにしよう。速水さん、クリスの居場所はわかりますか?」
    「おい、桐野、なにを考えているんだ。やつは港区の会社にいるはずだろう?」
    「いたら、それでいいんだ。いなかった場合でも、やつの行動を知る手がかりになるかもしれん」
    「信じてるのか?」
    「わたしの商売は、患者のいったことを信じることから始まるんだぞ、坂元。さて、速水さん、やってくれますか?」
    「やります」
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