「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 4-3
「妙な噂?」
ヴェルク三世は、面白がっているようだった。小者に蜜酒を注がせると、ジェスをせっついた。
「妙な噂とは面白い。聞かせよ」
「はっ」
余計なことをしゃべったと思ったのか、ジェスはためらっていたようだが、やがて言葉を続けた。
「閣下は、予言者というものをお信じになりますか」
ヴェルク三世はくすくす笑った。
「予言者か。わたしは良いことだけを信じるようにしておる。あの手の輩は、そのようにしてつきあうに限る」
「はっ。閣下がさようなお考えで安心いたしました。実は……」
ジェスはまだ少しためらっているようだった。
「閣下と当家にとって凶兆とも呼べる予言をしたものがいる、ということなのです」
ヴェルク三世は、いささか気分を害したのかもしれない。盃を一気に干したのか、小者に酒を注ぐよう命じたのだ。
「わたしと当家に仇なすような偽予言者は、われらの手でいずれ捕らえて成敗せねばなるまい。それで、その偽予言者めはなんといっておったのだ?」
「はっ。それが」
ジェスは声を潜めた。
「人間を殺してその肉を喰らうという、ガレーリョス家とその一党の人倫を破り人の道を踏み外した行いを怒り、法と秩序の支配者、神々の王ザースが罰として、この街に悪疫を降らすと……」
「馬鹿な!」
ヴェルク三世は怒鳴った。盃を投げつけたらしく、金属が床に当たる甲高い音と、液体のこぼれる、ばしゃりという音が部屋中に響いた。
「わたしと当家を侮辱するもはなはだしいことだ。だいたいにおいて、そもそもの原因はなんらの理由もなしに、われらの手から豊かな実りを取り上げ、さらには長い雪でわれらを苦しめた、天の王宮の神々にあることは明白だ!」
ジェスは、まくしたてるヴェルク三世に、いったいなんと答えていいかわからないようだった。
バルはひたすら頭を下げ続け、主人から嵐が去ってくることを祈った。
ジェスは言葉の奔流を黙って浴びていたが、やがて消え入りそうな声で続けた。
「それだけではないのです」
「なに?」
ジェスはどうやら話し始めたことを後悔しているようだった。
「各所の教会で、坊主どもが説教しているようです。人肉を食らった者のもとへは、天が罰として悪疫を降らすと……」

ヴェルク三世は、面白がっているようだった。小者に蜜酒を注がせると、ジェスをせっついた。
「妙な噂とは面白い。聞かせよ」
「はっ」
余計なことをしゃべったと思ったのか、ジェスはためらっていたようだが、やがて言葉を続けた。
「閣下は、予言者というものをお信じになりますか」
ヴェルク三世はくすくす笑った。
「予言者か。わたしは良いことだけを信じるようにしておる。あの手の輩は、そのようにしてつきあうに限る」
「はっ。閣下がさようなお考えで安心いたしました。実は……」
ジェスはまだ少しためらっているようだった。
「閣下と当家にとって凶兆とも呼べる予言をしたものがいる、ということなのです」
ヴェルク三世は、いささか気分を害したのかもしれない。盃を一気に干したのか、小者に酒を注ぐよう命じたのだ。
「わたしと当家に仇なすような偽予言者は、われらの手でいずれ捕らえて成敗せねばなるまい。それで、その偽予言者めはなんといっておったのだ?」
「はっ。それが」
ジェスは声を潜めた。
「人間を殺してその肉を喰らうという、ガレーリョス家とその一党の人倫を破り人の道を踏み外した行いを怒り、法と秩序の支配者、神々の王ザースが罰として、この街に悪疫を降らすと……」
「馬鹿な!」
ヴェルク三世は怒鳴った。盃を投げつけたらしく、金属が床に当たる甲高い音と、液体のこぼれる、ばしゃりという音が部屋中に響いた。
「わたしと当家を侮辱するもはなはだしいことだ。だいたいにおいて、そもそもの原因はなんらの理由もなしに、われらの手から豊かな実りを取り上げ、さらには長い雪でわれらを苦しめた、天の王宮の神々にあることは明白だ!」
ジェスは、まくしたてるヴェルク三世に、いったいなんと答えていいかわからないようだった。
バルはひたすら頭を下げ続け、主人から嵐が去ってくることを祈った。
ジェスは言葉の奔流を黙って浴びていたが、やがて消え入りそうな声で続けた。
「それだけではないのです」
「なに?」
ジェスはどうやら話し始めたことを後悔しているようだった。
「各所の教会で、坊主どもが説教しているようです。人肉を食らった者のもとへは、天が罰として悪疫を降らすと……」
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NoTitle
そりゃあ、やっぱり、天罰が降りなきゃいけないでしょう。
どうか、ガレーリョス家にだけ、悪疫が降り注ぎますように・・・。
どうか、ガレーリョス家にだけ、悪疫が降り注ぎますように・・・。
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Re: limeさん
今のガスくん冷酷非情です。