「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 4-4
「いまいましい坊主どもめ」
ヴェルク三世は舌打ちをした。
小者が、その手に別な盃を握らせなおしているらしく、足音が平伏しているバルの耳に聞こえた。
「バル」
「はっ」
平伏したまま、バルは答えた。
「すぐに布令を出せ。教会に対する食糧の配給を停止すると」
それはあまりにも不敬の極みだ、とバルは思った。わが主人は、神の怒りを恐れてはいないのか。
そのような果断なところが昔はヴェルク三世の長所だったが、これでは最悪の暴君となんら変わることがない。
しかし。
「御意」
バルは、こう答えるより他になかった。
「あの坊主どもは、これまで甘く扱いすぎてきた……」
ヴェルク三世は憎らしげにそういった。
「聞けば、大司教のガムロスとかいうやつはバルテノーズ家とゆかりがあるそうではないか」
だから教会を交渉の窓口にしたのではないのか、とバルは思ったが、口に出すのは控えた。ここで余計な口を挟んで、首と胴が生き別れになった人間を、バルは何人も見てきた。そのひとりになる気はなかった。
「飯を三日も食わなければ、やつらも反省して態度を改めるだろう。その間に件の偽予言者を捕らえ、わたしがじきじきに成敗してその肉を喰らってやる。そうすれば、よい見せしめとなり、わたしに刃向かう者への薬となるだろう」
「……御意」
バルは全身に冷や汗をかきながら、なんとか答えた。
「ジェス」
「はっ」
ジェスの声が、緊張に震えているのをバルは感じ取った。
「もっと、心が浮き立つようなことはないか。バルテノーズ家のやつらが、両手を挙げて降伏したとか」
「それでありますが……」
ジェスが答えようとしたときだった。
ひとりの家士が、室内に駆け込んできた。
「申し上げます!」
ヴェルク三世はいたく機嫌を悪くしたようだった。
「……なんだ。騒々しい。わたしの邪魔をするなとあれほど……」
「申し訳ありません。火急のことでございます」
「火急の?」
「はっ」
家士はひざまずき、頭を下げた。
「市中で悪疫が発生いたしました!」

ヴェルク三世は舌打ちをした。
小者が、その手に別な盃を握らせなおしているらしく、足音が平伏しているバルの耳に聞こえた。
「バル」
「はっ」
平伏したまま、バルは答えた。
「すぐに布令を出せ。教会に対する食糧の配給を停止すると」
それはあまりにも不敬の極みだ、とバルは思った。わが主人は、神の怒りを恐れてはいないのか。
そのような果断なところが昔はヴェルク三世の長所だったが、これでは最悪の暴君となんら変わることがない。
しかし。
「御意」
バルは、こう答えるより他になかった。
「あの坊主どもは、これまで甘く扱いすぎてきた……」
ヴェルク三世は憎らしげにそういった。
「聞けば、大司教のガムロスとかいうやつはバルテノーズ家とゆかりがあるそうではないか」
だから教会を交渉の窓口にしたのではないのか、とバルは思ったが、口に出すのは控えた。ここで余計な口を挟んで、首と胴が生き別れになった人間を、バルは何人も見てきた。そのひとりになる気はなかった。
「飯を三日も食わなければ、やつらも反省して態度を改めるだろう。その間に件の偽予言者を捕らえ、わたしがじきじきに成敗してその肉を喰らってやる。そうすれば、よい見せしめとなり、わたしに刃向かう者への薬となるだろう」
「……御意」
バルは全身に冷や汗をかきながら、なんとか答えた。
「ジェス」
「はっ」
ジェスの声が、緊張に震えているのをバルは感じ取った。
「もっと、心が浮き立つようなことはないか。バルテノーズ家のやつらが、両手を挙げて降伏したとか」
「それでありますが……」
ジェスが答えようとしたときだった。
ひとりの家士が、室内に駆け込んできた。
「申し上げます!」
ヴェルク三世はいたく機嫌を悪くしたようだった。
「……なんだ。騒々しい。わたしの邪魔をするなとあれほど……」
「申し訳ありません。火急のことでございます」
「火急の?」
「はっ」
家士はひざまずき、頭を下げた。
「市中で悪疫が発生いたしました!」
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~ Comment ~
NoTitle
ついに悪疫が出ましたか。
ガスさんの企てはどういう意図なのか?
しかし、ここまで来ると一部の「沈黙の秋」がまだのどかだった……と思えてしまうからスゴイ。
あの時点でも、十分非常事態だったのに。
ガスさんの企てはどういう意図なのか?
しかし、ここまで来ると一部の「沈黙の秋」がまだのどかだった……と思えてしまうからスゴイ。
あの時点でも、十分非常事態だったのに。
- #14546 椿
- URL
- 2014.11/13 16:42
- ▲EntryTop
Re: ぴゆうさん
桃太郎侍に斬られてしまうことは、ガスくんも同様で……(^^;)
というか、この小説、桃太郎侍に斬られない人間なんて出てきたっけ(笑)
というか、この小説、桃太郎侍に斬られない人間なんて出てきたっけ(笑)
NoTitle
絵に描いたような残酷な奴。
まったく。
成敗してやる。
カモーーーーン桃太郎侍
違うか!
悪疫が市中に出たとなると・・・
生きるか死ぬかに益々追いつめられる。
こわいよ~~

まったく。
成敗してやる。
カモーーーーン桃太郎侍
違うか!
悪疫が市中に出たとなると・・・
生きるか死ぬかに益々追いつめられる。
こわいよ~~

- #3416 ぴゆう
- URL
- 2011.03/02 20:30
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Re: 椿さん
それを考えれば答えは自ずから(^_^)
非情で冷酷な策ですがね……。