「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 6-2
ガスはパンを取り上げると、口に入れ、猛烈な勢いで咀嚼した。アクバとメアの好意を思うと、遠慮などするガスではなかった。ここで遠慮などしたら、かえって失礼に当たるだろう。
もとよりわずかふた切れのパンと一杯の水である。ガスの胃の腑に収まるまでは、十を数えるまでもない時間しかかからなかった。咀嚼するアクバのあごに、確かに残像を見たと、メアは翌日エリカに語り、公爵閣下を大いに喜ばせた。
「食ったぜ。さあ、アクバを呼んで来い。とんでもないことがわかったんだ」
「アクバ様にはなんとお伝えしましょう?」
「ナミだ」
「ナミ様?」
「そうだ。やつは生きている。そう伝えれば、あの男は飛んでくるだろう。さあ、早くアクバの仏頂面野郎を呼んで来い」
メアは一礼し、食器を下げて、扉にかんぬきをかけた。バルテノーズ家では、ガスのように家風など知ったことかという一部の人間を除き、主人の命令は絶対なのである。
メアは食器を手にしたままでまっすぐアクバの部屋へ行き、ガスがいったことをそのまま伝えた。
アクバは飛ぶようにやってきた。扉の外から、ガスにいった。
「ガス殿、メアが申していたことは……」
「ほんとうだ。今は推測しかできないが、おれは十中八九間違いないと思う」
「戯れではないでしょうな」
「そういう形の戯れは、おれは好きじゃない。全ては、ナミが置いていったこの本に書いてあるんだが、それを見せなければ説明しづらい。ちょっとでいい、物を見せられる範囲で扉を開けてくれないか」
アクバは疑わしそうな声を出した。
「そんなこといって、開けたとたんにわたくしを打ち倒して逃げる、なんてことではないでしょうな」
ガスはうなり声を上げた。
「だから、どうしておれがそんな、なんの役にも立たんことをしなくてはならんのだ。それに、あんたもむざむざおれの不意打ちを食らうような男でもないだろう」
「わかりましたよ。バルテノーズ家では、当主の命令は絶対ですが、公爵閣下からは、囚人を尋問するな、という命令は受けておりません」
かんぬきを外す音を聞いたガスは、口笛を吹いた。
「あんたら、そういう理屈をつけながらあのお姫様とどうにかやっていたのか。ご苦労なことだな」
「頭が悪い主を持った家臣は苦労しますが、頭が悪くない主を持った家臣も苦労するもので……で、ガス殿の推測とは?」
アクバに見える形で、ガスは本を開いた。
「これだ。内容は、航海日誌になっている」

もとよりわずかふた切れのパンと一杯の水である。ガスの胃の腑に収まるまでは、十を数えるまでもない時間しかかからなかった。咀嚼するアクバのあごに、確かに残像を見たと、メアは翌日エリカに語り、公爵閣下を大いに喜ばせた。
「食ったぜ。さあ、アクバを呼んで来い。とんでもないことがわかったんだ」
「アクバ様にはなんとお伝えしましょう?」
「ナミだ」
「ナミ様?」
「そうだ。やつは生きている。そう伝えれば、あの男は飛んでくるだろう。さあ、早くアクバの仏頂面野郎を呼んで来い」
メアは一礼し、食器を下げて、扉にかんぬきをかけた。バルテノーズ家では、ガスのように家風など知ったことかという一部の人間を除き、主人の命令は絶対なのである。
メアは食器を手にしたままでまっすぐアクバの部屋へ行き、ガスがいったことをそのまま伝えた。
アクバは飛ぶようにやってきた。扉の外から、ガスにいった。
「ガス殿、メアが申していたことは……」
「ほんとうだ。今は推測しかできないが、おれは十中八九間違いないと思う」
「戯れではないでしょうな」
「そういう形の戯れは、おれは好きじゃない。全ては、ナミが置いていったこの本に書いてあるんだが、それを見せなければ説明しづらい。ちょっとでいい、物を見せられる範囲で扉を開けてくれないか」
アクバは疑わしそうな声を出した。
「そんなこといって、開けたとたんにわたくしを打ち倒して逃げる、なんてことではないでしょうな」
ガスはうなり声を上げた。
「だから、どうしておれがそんな、なんの役にも立たんことをしなくてはならんのだ。それに、あんたもむざむざおれの不意打ちを食らうような男でもないだろう」
「わかりましたよ。バルテノーズ家では、当主の命令は絶対ですが、公爵閣下からは、囚人を尋問するな、という命令は受けておりません」
かんぬきを外す音を聞いたガスは、口笛を吹いた。
「あんたら、そういう理屈をつけながらあのお姫様とどうにかやっていたのか。ご苦労なことだな」
「頭が悪い主を持った家臣は苦労しますが、頭が悪くない主を持った家臣も苦労するもので……で、ガス殿の推測とは?」
アクバに見える形で、ガスは本を開いた。
「これだ。内容は、航海日誌になっている」
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Re: 秋沙さん
なにせナミはこの話の主人公ですから。
いくら目立っても、あくまでも、ガスくんは、「助演男優」ですから(^^)
まあ助演が主役を食ってしまうことは往々にしてよくありますが……(^^;)
いくら目立っても、あくまでも、ガスくんは、「助演男優」ですから(^^)
まあ助演が主役を食ってしまうことは往々にしてよくありますが……(^^;)
NoTitle
ガスは案外手が早い。
ガスは案外手が早い。
そんなポールさんの言葉がぐるぐると・・・。
男は手が早いくらいがいいんです。据え膳食わないようなやつは・・・。なんの話ですか(ー"ー )
よ~し!ナミ復活ですね?本にはそんな筋書きも書いてあったんでしょうか。
ナミ、ガスは手が早いんでガス。ヽ(´∀`)ノ
ガスは案外手が早い。
そんなポールさんの言葉がぐるぐると・・・。
男は手が早いくらいがいいんです。据え膳食わないようなやつは・・・。なんの話ですか(ー"ー )
よ~し!ナミ復活ですね?本にはそんな筋書きも書いてあったんでしょうか。
ナミ、ガスは手が早いんでガス。ヽ(´∀`)ノ
NoTitle
わ~~~~い。
絶対にナミちゃんがあんなにあっさりと消えるわけがないと思っておりましたが、最近、とんと話題に上らないので「もしかして・・・?」とちょいと心細くなっておりましたよ(笑)
絶対にナミちゃんがあんなにあっさりと消えるわけがないと思っておりましたが、最近、とんと話題に上らないので「もしかして・・・?」とちょいと心細くなっておりましたよ(笑)
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Re: limeさん
単行本3巻分の900枚で計画を立てるんだった(爆)。
ナミが復活する方法……そのヒントは「ゴルゴ13」にあったりして。