「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 6-3
「航海日誌?」
期待はずれだ、とでもいいたいかのように、アクバは首をかしげた。
「ナミ殿が異民族から航海日誌を売りつけられたことはわかりましたが、それと、生きていることとどういうつながりが?」
「話は落ち着いて聞け。ページをよく見てみろ。ところどころ、というか、大半に、下線が引いてあるだろう」
アクバは目を細め、ガスの指差したところを読もうとした。
「それらしいものはありますが、暗くてよくわかりませぬな……」
ガスはいらだたしげにいった。
「だったら、その扉の影に隠れている、あんたが連れてきた衛兵ふたりのどっちかに明かりを持ってこさせればいいだろ。おれは逃げやしないから大丈夫だ」
「ばれてましたか」
「イルミール家でおれがやっていた仕事がなんだと思っているんだ。要人の警護だぞ。人の気配くらいわからないでどうする」
「これはご無礼を。おい、ウル。聞いたとおりだ、蝋燭と火口箱を持ってこい。すぐにだぞ」
「はっ!」
扉の影で大きな返事がした。棍棒を持ったバルテノーズの家士が走っていくのが、うっすらとガスにも見えた。
「おれってそこまで信用がないのか」
ガスはぼやいた。
「なにぶん、決まりでして」
アクバはどこか、ばつが悪そうに答えた。
「まあいいや。さて、その下線を引かれた部分だが、中にこういう記述がある」
ガスは本を引っ込めると、端を折ってあった頁を開いた。
「この折ってあった端は、おれが折ったんじゃないぜ。もとから、折りぐせがつけられていたんだ。古くからな」
「それは信じます。だから、早く読んでください。そっちの部屋の中の方が、まだ明るいでしょう」
「そう焦るな」
「メアにも似たようなことをいわれたんですって? 意趣返しとかしている状況じゃないでしょう」
「わかった。今読む。ええと、ここだ」
ガスは声に出して読み始めた。
「北の海で暗礁に接触。船底に傷がつく。修理に当たり、余は、現地人の助言に従い、船員たちと身体に獣脂を大量に塗りて、海に入る。獣脂の力は絶大にして、水をはじき、水中では衣服の代わりをも務め、余や船員たちの中で、凍え死ぬ者、誰一人としてなし」
「……その記述が?」
「そうだ。おれは、あの矢文を受けてナミと現場へ行った途中で、なにやら妙なにおいをかいでいる……ナミのやつは、誰かが宴会を開いているなんていっていたがな」

期待はずれだ、とでもいいたいかのように、アクバは首をかしげた。
「ナミ殿が異民族から航海日誌を売りつけられたことはわかりましたが、それと、生きていることとどういうつながりが?」
「話は落ち着いて聞け。ページをよく見てみろ。ところどころ、というか、大半に、下線が引いてあるだろう」
アクバは目を細め、ガスの指差したところを読もうとした。
「それらしいものはありますが、暗くてよくわかりませぬな……」
ガスはいらだたしげにいった。
「だったら、その扉の影に隠れている、あんたが連れてきた衛兵ふたりのどっちかに明かりを持ってこさせればいいだろ。おれは逃げやしないから大丈夫だ」
「ばれてましたか」
「イルミール家でおれがやっていた仕事がなんだと思っているんだ。要人の警護だぞ。人の気配くらいわからないでどうする」
「これはご無礼を。おい、ウル。聞いたとおりだ、蝋燭と火口箱を持ってこい。すぐにだぞ」
「はっ!」
扉の影で大きな返事がした。棍棒を持ったバルテノーズの家士が走っていくのが、うっすらとガスにも見えた。
「おれってそこまで信用がないのか」
ガスはぼやいた。
「なにぶん、決まりでして」
アクバはどこか、ばつが悪そうに答えた。
「まあいいや。さて、その下線を引かれた部分だが、中にこういう記述がある」
ガスは本を引っ込めると、端を折ってあった頁を開いた。
「この折ってあった端は、おれが折ったんじゃないぜ。もとから、折りぐせがつけられていたんだ。古くからな」
「それは信じます。だから、早く読んでください。そっちの部屋の中の方が、まだ明るいでしょう」
「そう焦るな」
「メアにも似たようなことをいわれたんですって? 意趣返しとかしている状況じゃないでしょう」
「わかった。今読む。ええと、ここだ」
ガスは声に出して読み始めた。
「北の海で暗礁に接触。船底に傷がつく。修理に当たり、余は、現地人の助言に従い、船員たちと身体に獣脂を大量に塗りて、海に入る。獣脂の力は絶大にして、水をはじき、水中では衣服の代わりをも務め、余や船員たちの中で、凍え死ぬ者、誰一人としてなし」
「……その記述が?」
「そうだ。おれは、あの矢文を受けてナミと現場へ行った途中で、なにやら妙なにおいをかいでいる……ナミのやつは、誰かが宴会を開いているなんていっていたがな」
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~ Comment ~
NoTitle
すげえ神業ですね。知識はただ知識であり、それを知恵にするのには時間がかかるともいいますけど、その場面でとっさにそれを使えるということは知恵になっているということですね。まあ、ナミみたいな人間はいろいろな手段を知ってないとダメなんでしょうけどね。いろいろ勉強になります。
どうも、LandMでした。
どうも、LandMでした。
Re: ネミエルさん
おお、勉強しておられるようでけっこうけっこう(^^)
その調子でやっていれば、志望校など……。
えー……。
あー……。
がんばってください。(おい)
その調子でやっていれば、志望校など……。
えー……。
あー……。
がんばってください。(おい)
Re: limeさん
ど~も、すいません(故・初代林家三平師匠のの口調で)
ナミはもうすぐ出てきますよ~♪
その前に、エリカちゃんがとんでもないことをしでかしますが。
ナミはもうすぐ出てきますよ~♪
その前に、エリカちゃんがとんでもないことをしでかしますが。
NoTitle
なるほど。
その手を使って・・・。
だからゴルゴ13がヒント。。。
分かるわけないでしょ・爆
ナミ、どこから出てくるんだろうな。
その手を使って・・・。
だからゴルゴ13がヒント。。。
分かるわけないでしょ・爆
ナミ、どこから出てくるんだろうな。
覚え書き
ナミが冬の海に潜るために身体に油を塗るネタは、ゴルゴ13「檻の中の眠り」における、脱獄シーンで身体にグリースを塗って海での寒さよけにするシーンと、未開民族が陸上での寒さよけに身体に油を塗る、という、かつてどこかで聞いた話をもとにしています。
試したければ自己責任で(←おい)。
試したければ自己責任で(←おい)。
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Re: LandMさん
苦労の表れというか。
「ゴルゴ13」というか。(まだいうか)
それにしても、ゴルゴって、どれだけのことに詳しいんだろう? クイズ大会に出たら優勝じゃないのかあいつ。