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    ささげもの

    11111ヒット:飛翔掘削さんに捧ぐ

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    記念すべき11111ヒットのキリ番を踏んでくださった飛翔掘削さんのリクエストで、「怪獣もの」のショートショートです。

    飛翔掘削さんは、「怪獣の溜息」というブログで、アニメや特撮番組に対する、鋭い意見を述べられているかたであります。ぜひ一度読んでみてください。

    それでは、「怪獣もの」をどーん。

    ※ ※ ※ ※ ※


    パンドラの箱


    「『C』はどこまで成長した?」

     数多のスクリーンが並んだ司令部で、統合幕僚長は部下の城之内二佐に訊ねた。

    「はっ」

     城之内二佐は、オペレーターに二言三言命じた。とたんに、画面が切り替わり、現場……千葉県千葉市だったところが写った。

    「スケールで見ると、現在約半径五十メートルの半球形を保っております」

    「犠牲者は?」

     すでにわかっていることだろう、と、城之内二佐は思ったが、それでも上官の問いに答えた。

    「千葉市中心部を完全に無人化してしまったものと考えられますから、犠牲者数は少なく見積もっても三十万人……」

    「もういい」

     幕僚長は額の汗をぬぐった。

     その発端がいつになるのか、誰も知らなかった。だが、最初の『C』の出現は、午前五時より前になることは正しいらしかった。

     千葉県千葉市の中心部で発生したことから、『C』と呼ばれるようになったそれは。

     映画の中でしか見られないような、『怪獣』だった……。

     カメラからの映像では、灰色をした巨大な半球形のプリンのようなかたまりにしか見えないが、それが恐るべき貪欲さをもって生物という生物を食らってしまうゼリー状物質であることは、これまでの十五時間がいやというほどわからせていた。

    「ヘリが二十四時間体制で監視しておりますが、『C』が確認された範囲において、生物の存在はなにひとつ確認されておりません」

    「すべて、やつが食らったのか」

     幕僚長はペットボトルの烏龍茶に口をつけ、喉を鳴らして飲んだ。その冷たさと苦さが、幕僚長をこの現実世界にとどめているかのようだった。

    「そうとしか考えられません。応援を頼んだ、東京大学の研究チームが現場に向かいましたが、『C』は一種の群体を形成する生物であるらしい、と報告した直後、さらに接近したチームは連絡を絶ちました。おそらくは『C』を構成するものに不用意に触れ、飲み込まれたものと思われます。現在、彼らが採取に成功したサンプルは、各大学、および研究所に配布して、分析を急がせておりますが」

    「陸上自衛隊の展開状況は?」

    「十五キロの懸隔をおき、『C』を取り囲むようにして展開しております。命令があれば、いつでも『C』にたいして第二波の攻撃を行なうことができます……」

     第二波。

     それは、陸上および航空自衛隊の無力を示すもの以外のなにものでもなかった。

     第一波攻撃における、在日米軍も加わっての猛烈な火力展開は、ゼリーをわずかにたわませ、千葉市の建物群のほとんどを破壊しつくしたが、『C』に対して有効な打撃を与えているようには見えなかった。それどころか、『C』はアメーバのように鎌首を持ち上げ、巨大な生物(?)にしては驚くべきほどの速さで焼け野原と化した千葉市をらせん状に動き、その進路上にあった在日米軍と陸上自衛隊の精鋭をことごとく飲み込んだのである。

     今は不気味な沈黙を保っているが、いつ再び洪水のように動いてくるかはわからなかった。

    「やつは知能があって人間や生物を食らっていると思うか」

     城之内二佐は首を振った。

    「それに対しては、否定的なデータが出ています。『C』は、外界からの刺激に対して、機械的な反応を示すだけであり、知能はあったとしてもアメーバか原生動物程度でしょう。少なくとも、学者はそういっております」

     城之内二佐は先ほどの問いを繰り返した。

    「第二波の攻撃命令はまだでしょうか?」

     幕僚長は首を振った。在日米軍はすでに撤退していた。彼らの空からの援護がなければ、いや、あったとしても、今の自衛隊の戦力からすれば先ほどの茶番を繰り返すだけであることは疑う余地がなかった。

     画面が急に切り替わった。

    「どうした!」

    「報告します……」

     オペレーターは顔色を蒼白にしていた。

    「札幌、金沢、和歌山、松山、北九州で『C』確認……」

     十分後には、司令室は次々と入ってくる情報の波に飲まれそうになっていた。

    「キエフから『C』の情報が……」

    「ヨハネスブルグより……」

    「リマ……」

    「デンバー……」

    「延安……」

    「メルボルン……」

     幕僚長は、鳴り出した電話を取った。総理大臣からだった。

    「諸君……」

     しばらく大臣の言葉を聞いていた幕僚長は、電話を切ると死人のような声でいった。

    「アメリカが、三時間後に、わが国の『C』発生都市に対して一斉核攻撃をすることを通告してきた……猶予はない。わが国を焼け野原にすることから避けるため、総理から、一時間後に、『C』に対する全面的攻撃を行なえとの命令が来た……」

     その場にいた誰もが、息を飲み、無言になった。

    「入ってもいいかな?」

     あまり上質とはいえない服を着た、蓬髪の初老の男が、通行用のIDカードを右手でかざしながら司令室に入ってきた。

    「原沢教授……」

     幕僚長は、張り詰めていた空気が緩むのを覚えた。

    「なにかわかったんですか!」

     原沢教授は、『C』の生理学的分析を任されていた研究チームのリーダーだった。

    「わかったことはわかったが……それが君たちの気に入ることかはわからん」

    「なんでもいいから教えてください! 今は情報が最大の武器です!」

    「それなんだが……君たちは、『粘菌』というものについて聞いたことはあるかな?」

     急に場違いな話をしだした教授に、幕僚長は苛立った。

    「やつは粘菌なんですか?」

    「そう急かさずに聞いてくれ。粘菌は変形菌ともいってな。蒔かれた胞子が、寄り集まってアメーバ状の変形体を作り、そして植物のような子実体を作って胞子をばらまく、というサイクルを繰り返して成長する生物だ」

    「なにがおっしゃりたいんですか」

     原沢教授は、含み笑いをした。異様な含み笑いに、幕僚長は不安を覚えた。

    「いってしまおう。『C』は、地球の生物すべての、変形体とでもいうようなものだ」

    「なんですって!」

    「サンプルの分析の結果がそれを示している。複雑に融合しているが、サンプルから得られたDNAは全て既存の地球のものだ……」

     原沢教授はヒステリックに笑い出した。

    「われわれが、生物のシステムについて、なにを知っていたというのかね? 始生代の二十五億年前から、現代に至るまでの長い生物の歴史は、単に、今の、あの巨大なアメーバのような変形体の一部となって、さらに巨大な子実体を作り、宇宙にわれわれ生物の胞子をばらまくためにあった、というわけだ。いわば、あれは、人類、いや、生命のあるべき当然の姿なのだ。スピノザなら、あれを『神』のモデルと呼んだかもしれないな」

    「『神』……なら、それを統べる意思はどこにあるのです。コンタクトを取るには、あまりに高度すぎて、われわれには理解できないのですか」

    「スピノザの神、といっただろう。あれには意志もなければ知性もない。ただ自分に与えられた刺激に対し、必然的にふるまうだけだ。いわばあれは、無限の情報のプールみたいなものだな。情報は、ただ、そこにあるだけだ。われわれ人類がおこがましくも『知性』と呼んでいるものは、その一部を切り取って不確実で不正確な運動をさせているにすぎない。それよりは、プールの一滴と化したほうがまだ合理的ではないかね?」

    「われわれ人類は、あれに、あの化け物に飲み込まれるべきだと、博士はおっしゃるんですか!」

    「全てを丸く収めるには、ほかにどういう選択肢があるというのだ? われわれの知識や遺伝情報は、すべて胞子となって宇宙へ飛び出していくのだ。わしらの情報だけが、洩れてしまっていたら、生物として恥ずかしいとはおもわんのかね、君!」

     原沢教授は、咳き込みながら、けたたましく笑い続けた。

    「連れていってくれ」

     城之内二佐は、疲れきった口ぶりで部下に命じた。屈強な自衛隊員が、うつろに笑い続ける原沢教授の両肩を押さえ、司令部から運び出した。

    「それでも……」

     幕僚長はつぶやいた。

    「それでもおれは、人類と生物の、これまでの生活を守らなければいかん」

    「レーダーに反応……!」

     オペレーターが叫んだ。

    「多数のICBMと思われます……」



     × × × × ×



     全てが終わり、地球上に、『C』と呼ばれていたものに取り込まれていない生物はバクテリア一匹いなくなっていた。

     一面の荒れ野と化した大地で、かつて人類が作り出した巨大な鉄塔をはるかに凌駕するほどの大きさにまで膨れ上がった『C』の子実体は、蓄えたエネルギーを一気に吐き出すと、宇宙空間に大量の、遺伝情報と、人間が作り出した、「文明」と呼びうるものの情報とを刻み込んだ胞子をばらまいた。

     順調に行けば、それら胞子は、長い長い旅路の末に、どこかの星にたどりついて、そこで再び発芽し、よりよい形で、「生命」というドラマを、また一から始めることになるだろうと思われた。

     だが……。

     それら胞子に刻み込まれた情報は、地上に無差別に打ち込まれた核兵器の放射能により、傷つき、劣化し、もとのデータを損なっていた。

     宇宙に、おびただしい「不幸」と「罪悪」がばらまかれつつあった……。

     パンドラの箱のように。
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    ~ Comment ~

    Re: 飛翔掘削さん

    書いていて、これはもっとふくらませたほうがいいんじゃないかと思いましたが、2日では体力が(^^;)

    自衛隊や在日米軍のディテールや、粘菌についてももっと調べて、本格SFにしたいですね。

    喜んでくださってありがとうございました!

    NoTitle

    素晴らしい作品を有難う御座います!

    粘菌、そして放射能による遺伝子損傷でありますか…。
    変化球的怪獣かと思ったら見事なSFでした(笑)。
    本当に有難う御座います!

    Re: ミズマ。さん

    うちのブログに上げてあるショートショートの大半は、

    「後でなんとかして中篇ないし長編にしよう」

    と考えているものばかりであります。

    いわば習作というよりはアイデアノートの束みたいなもので……(^^)

    最初は「御殿場」か「五反田」で「G」と呼ぶつもりでしたが、それじゃああまりにも典型的だと思いまして千葉に(^^)

    千葉県○倉市在住の私はソッコーでやられてしまうじゃないですか!←
    ま、まあ、話の舞台がご近所だったのでテンションあがったのは事実ですけど。

    中編に練り直すのですか! 更に面白くなるんだろーなぁ。

    Re: 矢端想さん

    今回のネタは後で中篇にして新人賞に応募してやろうかなどと考えております。

    どう見てもこの小説、自衛隊とか在日米軍とか、もっとディテールを書き込むべきだと思うので(^^)

    その場合は、さらになにかもうひとひねりのアイデアをぶちこむべきでしょうけれど……。

    NoTitle

    素晴らしい!

    最後は「イデオンかっ」と思ったらもうひとひねり、「パンドラの箱」とは!

    > 粘菌
    知性云々の話が出たとこでそうかと思いましたよ。
    粘菌わりと好きです。平凡社「日本変形菌類図鑑」も持ってます。

    ともあれ今回は大傑作と思いました。もう「才能の無駄遣い」なんて言いませんよ。
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