「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 7-2
アクバのぼやきに、ガスは腹を抱えて笑った。
メアを帰した後、アクバは部屋の隅から古ぼけた小さな椅子を引っ張り出して、そこに座った。ガスはベッドに腰掛けていた。
「それで、これを聞いて、公爵閣下は?」
「ほっとなさったご様子でした。まだ半信半疑だったようですが」
「おれだって、まだどこか信じられない、という思いがあるもんな。当然だ」
「しかし……すると、ナミ殿は、なにを考えて?」
「あの女の頭にあるのは銭のことだけさ」
とガスはいったが、その後で、声を潜めて続けた。
「……と、いえるのならばまだいいんだが」
「あれですね。ナミ殿が、前に公爵閣下の御前でいった言葉」
「そうだ。……ある集団の男たちを、海の男として鍛えろ、というやつ」
「ええ」
アクバは厳しい顔でうなずいた。
「ナミ殿は、いったい誰を鍛えろ、といっていると思いますか、ガス殿は」
ガスは指を一本立てた。
「ひとつ面白い事実がある。イルミール家にいたとき、ナミのやつは口を滑らせて、自分には手下がいる、といったんだ」
「そうでしょうな」
「情報を継ぎ合わせると、こういう結果がでてくるだろう。たぶんあんたも同意してくれると思うが」
ガスは指を振りながら、ひとことひとこといった。
「ナミが海の男として鍛えろといっているのは、あの異民族の集団で、手下たちとは、そいつらのことだ」
「まず間違いないでしょうな」
「同意見か」
「ほかにどう考えればいいというんです」
「ナミは、舌先三寸で異民族をたぶらかし、おおかたありもしない海の向こうの新天地の話でもしたんだろうが、それによって手足のごとく働く忠実な手下を得た」
「噂では、異民族は、いずれも個人個人の武力では、われら『帝国』の兵士をしのぐとか聞いております」
「そういうことだ。にもかかわらず『帝国』が守られているのは、おれたちの軍隊が、精妙な戦略や戦術を行なえるよう訓練され組織されているからだ。おれはそのことを、ハシャク様から聞かされた」
「もしもナミ殿が」
アクバは、「もし」という単語に力を込めて発音した。
「もしもナミ殿が、彼らを組織、統率できるだけの才覚を有していたら……」
ガスはうなずいた。
「あの女は、そうとうな、とは行かないが、敵にすると厄介な兵力を持つことになる」

メアを帰した後、アクバは部屋の隅から古ぼけた小さな椅子を引っ張り出して、そこに座った。ガスはベッドに腰掛けていた。
「それで、これを聞いて、公爵閣下は?」
「ほっとなさったご様子でした。まだ半信半疑だったようですが」
「おれだって、まだどこか信じられない、という思いがあるもんな。当然だ」
「しかし……すると、ナミ殿は、なにを考えて?」
「あの女の頭にあるのは銭のことだけさ」
とガスはいったが、その後で、声を潜めて続けた。
「……と、いえるのならばまだいいんだが」
「あれですね。ナミ殿が、前に公爵閣下の御前でいった言葉」
「そうだ。……ある集団の男たちを、海の男として鍛えろ、というやつ」
「ええ」
アクバは厳しい顔でうなずいた。
「ナミ殿は、いったい誰を鍛えろ、といっていると思いますか、ガス殿は」
ガスは指を一本立てた。
「ひとつ面白い事実がある。イルミール家にいたとき、ナミのやつは口を滑らせて、自分には手下がいる、といったんだ」
「そうでしょうな」
「情報を継ぎ合わせると、こういう結果がでてくるだろう。たぶんあんたも同意してくれると思うが」
ガスは指を振りながら、ひとことひとこといった。
「ナミが海の男として鍛えろといっているのは、あの異民族の集団で、手下たちとは、そいつらのことだ」
「まず間違いないでしょうな」
「同意見か」
「ほかにどう考えればいいというんです」
「ナミは、舌先三寸で異民族をたぶらかし、おおかたありもしない海の向こうの新天地の話でもしたんだろうが、それによって手足のごとく働く忠実な手下を得た」
「噂では、異民族は、いずれも個人個人の武力では、われら『帝国』の兵士をしのぐとか聞いております」
「そういうことだ。にもかかわらず『帝国』が守られているのは、おれたちの軍隊が、精妙な戦略や戦術を行なえるよう訓練され組織されているからだ。おれはそのことを、ハシャク様から聞かされた」
「もしもナミ殿が」
アクバは、「もし」という単語に力を込めて発音した。
「もしもナミ殿が、彼らを組織、統率できるだけの才覚を有していたら……」
ガスはうなずいた。
「あの女は、そうとうな、とは行かないが、敵にすると厄介な兵力を持つことになる」
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