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    地震体験ルポ

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     わたしは11日のそのとき、通院しているとある病院のリハビリ施設の自由時間で、友人数名と「デッキビルドガンダム」なるカードゲームをプレイしていた。わたしの使っていたシャアがその猛威を振るいだし、コロニーを次々と沈め、完全な独走態勢で、勝利は目前だった。

     地面が揺れたとき、最初は普通の地震かと思った。茨城県は伝統的に地震が多い。軽い地震なら、それこそ日常茶飯事的に起こる。しかしそれは、次第にその本性を現しつつあった。わたしがかつて体験したことのないほど長く、しかも激しい揺れになってきたのである。ちょうど、荒波に揺られる船のような感覚であった。

     非常口が開かれ、いちばん近いところにいたわたしは一目散に外へ出た。率先して逃げるのは、被災者としての義務である。

     今にも倒れそうなブロック塀の脇の細い道をたどって、いくらか安全そうな駐車場に出た。このブロック塀の細い道は、病院の地震対策のもろさを現わしているかのようだった。見ているうちに塀が傾いてくるのだからどうしようもない。

     とりあえず、駐車場には、そのときリハビリ施設にいた人間のすべてがそろっていた。全員、脱出に成功したのである。ここまではよかった。問題は、これからどうするか、というところである。

     病院側がほとんどなにも、避難訓練は行なっていたにせよほとんどなにも、こうした非常時に対する備えを怠っていたらしいことはすぐに明らかとなった。病院の本館はパニック状態になったらしく、「誰が最高責任者としてその場の指揮を執るのか」すら明白ではなかったようであった。

     カーラジオで、震度6弱の地震、などという情報が入ったときにはすでにみんな我を忘れていたようだった。とにかく、最初の揺れは五分以上続くし、その後も余震が次々と起こるときている。それも普通の地震どころではないレベルだった。

     そのうちに、その場をなんとか収めようと、三人の人間が出てきた。これは集団にとって大きなマイナスだった。三人が三人とも、バラバラな行動をし始めたのである。ひとりはこの駐車場に残るのが得策と考えてそう動き、ひとりは上からの指示を求めて本館に走り、もうひとりは、この駐車場にいるのは危険と判断して一刻も早いここからの脱出をさせようとしたのである。

     それぞれの人間は、自分が「冷静かつ理性的な最良の判断」を下していると思っていたらしい。それが証拠に、二人の病院のスタッフは、「冷静な対応をしてください!」「わたしは冷静です!」とこの状況下で口論を始めたのである。

     傍観者の視点から今思い返せば、どっちもどっちだった。延々と続く余震の中、わたしはアフォリズムをふたつ思いついた。「人間は、非常時になると、自分が他人より理性的で冷静な判断ができると思い込む習性のある動物である」「非常時には、たとえその出す命令が愚昧なものであろうとも、『ひとりの牧者と無数の羊』状態になったほうが生き残る可能性が高い。さもなくば、船は山に登ることになる」その場をなんとかしようとしていた人間が三人にとどまっていたのは奇跡だったろう。四人だったら、手がつけられないほどばらばらのパニック状態になって行方不明者が出ていたかもしれない。

     わたしもパニックに陥ったのか、「なにかやってもダメなときはダメなのだから、ここで座って飴でもなめて動かないことにしよう」と座り込んで、末期の味になるかもしれない飴をなめ始めた。のど飴が一粒ポケットにあったのである。

     その間も、「シミュレーションゲームによく出てくる指揮系統の混乱」、というのはこういうことを指すものなのか、と妙なところに感心していた。その場のひとりひとりがなにをしたらいいかわからず、ただただ右往左往するか立ち尽くすかだったのだ。こんなところを敵に襲われたら、なにもできずにばらばらになって我先に逃げるしかあるまい。

     右往左往してその場にとどまっていたのがよかったのか、そのうちに(とはいっても一時間近く断続的に揺れていたのだが)、名前チェックの後で帰る許可が出た。病院に払う金が月曜以降に持ち越されたのはそれはそれでいいものの、バスと電車でこの病院まで来ている人間まで帰してしまったのはどうかと、今になって思う。バスはいいとして(駅まで歩くのも不可能な距離ではないので)、唯一の動脈である常磐線は、そのときは止まっていたのではないか。

     わたしは病院から簡単に歩いて帰れる程度の距離に済んでいたので気がつかなかったが、率先して帰ってしまったのは失敗だったかと思う。ほかの人間がどうなってしまったかについては、わたしはまったくわからない。

     とにかく、わたしは可能な限り大きな通りをたどって家に帰ることにした。細い道や裏通りだと、地震による建物の倒壊などで、進めなくなるのを恐れたのである。同時に、火災も怖かったことはいうまでもない。

     火災も倒壊もなかったが、かわりにわたしは、とんでもない恐怖に襲われることになった。

     交差点の信号が、一部を除いて全て切れていたのである。

     茨城は車社会である。車なしでは移動できない、といっても過言ではない。

     だからといって、信号が動かない状態で車なんかに乗るな、とわたしは恐怖のあまり叫びそうになった。特に、かなり大きな交差点を渡ったときには、車がどんどん通っていることもあり、生きた心地がしなかった。

     その間も思い出したように地面は揺れた。

     家になんとかたどり着いたときには、心底ほっとした。

     しかしその部屋では、部屋中に積まれたオタクグッズが大崩壊を起こし、わたしの部屋は、ガラクタを片付けなければ寝るスペースすらない、という見るも無残な状況に陥っていたのであった。

     なんとかガラクタを寄せ集めて寝るスペースを作り(とはいったもののもし再びぐらりときたらその山が崩れてわたしの頭部を直撃することは明白だった)、布団を敷き終わったころには陽が暮れかけていた。

     当然ながら電気は切れ水道は断水だときている。そしてうちの家はオール電化。IHクッキングヒーターにしたことをここまで後悔することになろうとは。原子炉と発電機を怪獣に壊されて兵器が動かずウルトラ警備隊が大ピンチになるという話がウルトラセブンにあったが、そういう感じである。コンロもレンジも動かないのだ。

     真っ暗な部屋で、ろうそくの明かりのもと、残りご飯を使い、ボンベには残り少ないガスしかなかったが、携帯用ガスコンロで作った雑炊のうまかったことといったらなかった。

     その晩は、なにもできなかったので(夜目がきいても真っ暗ではねえ)、わたしは食べ終わった6時には床に就いた。

     ちなみにわたしは普通6時間睡眠である。おかげで1時には目が覚めてしまった。

     朝寝ないし夜寝だ、と開き直って見たものの、うとうとっ、としてはぐらっ、うとうとっ、としてはぐらっ、と余震が狙い済ましたようなタイミングで襲ってきた。これでは寝られるわけもない。寝ようとするとぐらっ、だから、これがほんとの「ねぐら」だな、と思った。わたしは落語の台本でも書いていたほうがよかったのかもしれない。

     朝までまんじりともできずに夜を過ごす。

     明るくなったので起きて、風呂の残り水(流している最中に地震が来たのでほとんど残っていなかった)でちょっと顔を洗った。

     朝食は、「赤いきつね」。携帯コンロでお湯を沸かすだけでできるし、なにより暖かい。

     あげさんがここまでうまく感じるとは。

     12日一日を費やして、わたしが行なうこととなった、涙を飲んでのスターリンばりのオタクグッズ大粛清については……語るときがあればまた今度……。


    ※ 計画停電前にUP。
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    ~ Comment ~

    Re: 秋沙さん

    冷静どころかパニックのど真ん中でした。

    「事態を他人事みたいに眺める」

    というのが、パニックの最初の表れみたいなもんでして……。

    これで震度6強だったらわたし死んでいたかもしれません。

    NoTitle

    本当に無事でよかったです、ポールさん。

    いやぁそれにしても、飴をなめて座り込むポールさん、素晴らしいです。

    きっと、糖分を摂取することは最良の選択だったと思いますよ。エリカちゃんのようにね(^_-)
    たぶん、その駐車場にいた方達の中で、一番冷静だったことでしょう。

    いやぁ・・・震度6・・・恐ろしい。
    震度5強の場所にいた私でもあんなに怖かったんですから・・・。

    Re: トゥデイさん

    テレビ番組のヒーローたちが、被災地の子供たちに向けてツィートを行っているようですね。

    知人のところでゴセイナイトのそれを見ましたが、一読して涙が出てくるような、子供たちに勇気を与えてくれる文章でした。

    それだけで許す! ゴセイジャーがどんな作品だったとしても許す!(T_T)

    個人的にはプリキュアのツィートが読みたい……。

    円谷の原子力関連施設は、ウルトラセブンのガンダーの回くらいしか記憶にないですねえ。いろいろとタブーだったんじゃないかな。時代的に。

    友人のウルトラシリーズにやたらとくわしいかたに聞けばもっとよくわかると思うのですが。うむむ。

    私も学校の横で火災があった時色々叫んでたなあ。一応そういうのには備えてたはずなのに。神戸市民として。

    しかしどんな場面でもドラマやアニメを連想してしまうのは日本人の性ですかね。
    関東に電気を送る「ヤシマ作戦」しかり、
    「仮面ライダー達が被害を最小限に留めるよう戦っている」というツイートしかり。
    昨年末の伊達直人もそうか。
    あと原子力発電所って円谷特撮に頻繁に出てきたイメージがありますが、実際どうでしたっけ。

    Re: レオ・ライオネルさん

    冷静というか、口が悪いだけですが(^^;)

    とにかく、恐ろしい体験でした。

    火災が起きていたらわたしこの世にいなかったかもしれません。

    こうしてネット更新ができるだけでもありがたいです。

    Re: レバニラさん

    秋田在住でおられたのですか!

    日本海がわとはいえ、それはたいへんな目に……。

    ちなみにわたしが思ったことは、

    「スイートプリキュアが!」

    でした。結局放送されませんでしたけど。

    Re: 蘭さん

    こんな恵まれた状況でいっぱしの被災者面をするのはかなり後ろめたいであります。

    今は、生き残ったことに感謝して、よりよき生を生きたいと思いました。

    ひとつ今回の災害でプラスになったところがあったとしたら、

    「こんなことで死んでたまるか!」

    という強い思いが中からわきあがってきたことであります。

    とにかく、自分にできることからやりたいであります……。

    NoTitle

    大変な思いをされたようですね
    その中で、冷静に物事を把握していたポールさんに拍手です。
    辛い日々が続くかもしれませんが、無理をなさらずご安全に
    助かった命を大切に・・・
    • #3551 レオ・ライオネル 
    • URL 
    • 2011.03/15 01:13 
    •  ▲EntryTop 

    アホ親子

    ポールさんもご無事でなによりでした。

    いやぁ、地震があんまり広範囲で、自分の住む秋田県も太平洋と東北と関東の境と日本海、
    三つの震源に何度も揺らされて、親父が思わず「小松左京の言ってた事は本当だったんだ!」って口走ってましたよ。
    かくいう自分も暗闇の中で何が一番心配だったかと言えば
    「やべぇ!このまま電気が復旧しなきゃBS11のプリキュア5録画出来ねぇ!!」
    ・・・でした(^^;

    こんばんは。

    大変な思いをされたのですね・・・・・。

    ポールさんが茨城だったと思い出し、慌ててメール・コメントしたものの、なかなか返事が来ない・更新がされない状態に、本当に心配で堪りませんでした。

    命あってこそです。
    生きてて本当に良かった。

    Re: ネミエルさん

    天災は忘れたころにやってくるものですから、ネミエルさんも日ごろの用心を怠らないようになさってください。

    「いつかは来ると知ってはいたが、今日来るとは知らなかった!」(昔の映画「大地震」のコピー)

    そういえば停電でしたね

    大変ですが、頑張ってください

    パチンコは電気消して営業停止しろよ

    Re: ぴゆうさん

    グループ5の中に入っている可能性があったので、念のためPCその他を切って待機しておりましたが、結局うちのところは停電しませんでした。

    それが、「グループ5ではなかった」のか、「グループ5でも対象から外されたのか」わからんのがつらいところであります。

    東電ももうちょっとはっきりしてほしかったですね。

    断水は、復旧のめどがつきました。水圧さえ上がれば、明日には風呂も夢じゃありません(^^)

    あとは物流ですね……スーパーで普通に買い物ができるようになれば、米も味噌も醤油も家にある程度備蓄があるしどんとこいなのですが。

    こんな恵まれた状況で、被災者を名乗るもおこがましいですけど(汗)。

    Re: ぴゆうさん

    ホラーよりも北斗の拳の世界。

    一面瓦礫(同人誌だの本だのビデオテープだの)の山(^^)

    計画停電の前に切ります。

    NoTitle

    ポールから生きてるぞーメールを貰った時はホッとしました。
    なるほど、それはキツかったですね。
    地震って怖い。津波も怖い。
    自然に抗うなんて鼻から無理な話なのですね。
    まざまざと思い知らされました。
    ポールのお宅部屋。
    それだけできっとホラーの世界でしょう。
    v-12
    少しは片付いたのでしょうか。
    訊くのも憚れるような。
    なんにしても命があった事が大事。
    良かったぁ~~
    v-410

    Re: Ksbcさん

    こちらもところどころで大渋滞が起きていますが、それは、

    「ガソリンを入れるためにスタンドに並ぶ」車が、スタンドからあふれ出したせいだったようです。

    スタンドはほとんどが休業状態となり、一部のスタンドでしか入れられなくなっては、動脈硬化みたいに道路が詰まるのもわかりますね。

    震度6弱でさえこうなのですから、津波に襲われた被災地や、直下型のうえ大火災に巻き込まれた阪神大震災の被災地を思うと、黙祷するしかできません……。

    非常用品では、「携帯用カセットコンロ」か、それに類したマウンテンストーブは必需品です。寒い夜に、「お湯が飲める」だけでもその価値ははかりしれないものがあります。

    「じゃりン子チエ」のオバァはんもいっていますが、不幸は「寒い、ひもじい、もお死にたい」の順で襲ってくるので、とにかく寒さとひもじさだけはある程度解消しないといかん、というのが教訓でした。

    なんの変わりもない雑炊とカップうどんのうまかったことといったらもう……(^^)

    Re: limeさん

    12日のそのとき、わたしは身も心もスターリンと化して(笑)片端からオタクグッズをゴミ袋に放り込んでおりました。こういう非常時になると、リミッターみたいなのが外れて暴走してしまうらしいですわたし(^^;)

    常に笑いというか、少なくとも自分を笑える精神は持っていたいですね。くそう「秘められた掟」……(爆)

    ご無事でなによりです

    ポール・ブリッツさん、ご無事で何よりです。
    こちらは、停電もなく信号も動作してましたが、異常な数の車で道路は溢れてました。
    鉄道が運休した以外、大きな損害がなかっただけに気軽に車で迎えに…という人たちが多かったのでしょう。
    でも、帰宅者の選択肢はそれなりにあったと思うので、良識というか、冷静な判断というかが求められますよね。

    東京直下型地震のことも考えると、その際の行動に役立てられればと思ってます。
    さっそく、非常持ち出し品の再確認をし、増強をしました。

    NoTitle

    いやあ、ポールさんのたくましさに乾杯。
    不謹慎にも、にんまりしてしまいました。
    冷めた・・・いや、沈着冷静なポールさんの目から見たレポで、
    すごくリアルに状況が伝わってきました。
    まだ部屋はオタグッズが散乱してるのでしょうか。
    泣く泣くかたずけられたのでしょうか。
    なんだか気になります。
    早く元通りの日常に戻ったらいいですね。
    とにかく、無事でなにより。
    レポ、ありがとうございました~。

    私も悩んだ結果、通常運転することにしました。
    今はとにかく、前へ進むパワーがいる時ですよね。
    被災者の無事を祈りつつ、早く日本中に笑顔が戻ってほしいなと思います。
    (あ、私の小説は、悲しいのが多かった(゚□゚;)
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