「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 7-4
アクバは顔を赤らめた。
「それは失礼。そういう話が大好きなので。とにかく、その抗争で終末港の主な勢力図ができあがったわけです。ガレーリョス家がやや優勢、ではあるものの、どこも決定的な覇権を握れなかった、という状況が。それには、わがバルテノーズ家の総指揮を執っていた、当時の当主であるタキウス・バルテノーズ終末港公爵閣下の戦死が大きく影響していました」
「ってことは、この斧は……」
「そのときの乱戦で、主君のそばについていながら、お護りすることができなかったことを悔やみ、葬儀の後に自死を選んだ親衛隊長の遺品です」
「だったら、おれが、その汚名を晴らしてやろうじゃないか。同じ裏切り者同士、仲良くやっていけそうな気がするぜ」
ガスは陽気にその斧の刃を撫でた。
「ところで、その死を選んだ親衛隊長の名前は、なんていうんだい?」
アクバは下を向いていた。
「……ガス」
「え?」
「ガスです。不思議な暗合ですね」
ガスは、斧をまじまじと見た。
「まあいいさ。名前や由来がどうあったって、武器は武器だ。ナミのやつならそういうだろうな。あいつは、武器なんかへの思い入れはまったくないようなやつだったからな」
「ナミ殿ですが」
アクバは話をもとに戻した。
「いつ、われわれの前に姿を見せるでしょうか?」
「わからん」
ガスは首を振った。
「あの女のことだ、この邸にいるうちにそれとなく、構造を隅から隅まで調べていたに違いない。もしかしたら、この家のものを手なずけて、情報を流させていた可能性もある。とにかく、あの女だけは油断できない。ただひとつわかっていることは」
「わかっていることは?」
ガスは乾いた唇を舌で湿らせた。
「わかっていることは、あの女は、今も虎視眈々と、この家と、その富を狙っているということだ。やつが姿を現わすとしたら、そのときは、とんでもない請求書を携えて来ることだろうな」
「請求書ですか」
アクバはつぶやいた。
「見たくもないですな、そんな請求書」
「おれもだよ」
ガスは吐き捨てるようにいった。
「サシェル・イルミール男爵から、何百枚もの金貨を口車だけで奪い取ったにも関わらず、小遣い銭としか思わなかったようなやつだぞ。いくらになるかわからんが、金貨十万枚で済んだら、公爵閣下は強運だな」
ふたりの男は押し黙った。

「それは失礼。そういう話が大好きなので。とにかく、その抗争で終末港の主な勢力図ができあがったわけです。ガレーリョス家がやや優勢、ではあるものの、どこも決定的な覇権を握れなかった、という状況が。それには、わがバルテノーズ家の総指揮を執っていた、当時の当主であるタキウス・バルテノーズ終末港公爵閣下の戦死が大きく影響していました」
「ってことは、この斧は……」
「そのときの乱戦で、主君のそばについていながら、お護りすることができなかったことを悔やみ、葬儀の後に自死を選んだ親衛隊長の遺品です」
「だったら、おれが、その汚名を晴らしてやろうじゃないか。同じ裏切り者同士、仲良くやっていけそうな気がするぜ」
ガスは陽気にその斧の刃を撫でた。
「ところで、その死を選んだ親衛隊長の名前は、なんていうんだい?」
アクバは下を向いていた。
「……ガス」
「え?」
「ガスです。不思議な暗合ですね」
ガスは、斧をまじまじと見た。
「まあいいさ。名前や由来がどうあったって、武器は武器だ。ナミのやつならそういうだろうな。あいつは、武器なんかへの思い入れはまったくないようなやつだったからな」
「ナミ殿ですが」
アクバは話をもとに戻した。
「いつ、われわれの前に姿を見せるでしょうか?」
「わからん」
ガスは首を振った。
「あの女のことだ、この邸にいるうちにそれとなく、構造を隅から隅まで調べていたに違いない。もしかしたら、この家のものを手なずけて、情報を流させていた可能性もある。とにかく、あの女だけは油断できない。ただひとつわかっていることは」
「わかっていることは?」
ガスは乾いた唇を舌で湿らせた。
「わかっていることは、あの女は、今も虎視眈々と、この家と、その富を狙っているということだ。やつが姿を現わすとしたら、そのときは、とんでもない請求書を携えて来ることだろうな」
「請求書ですか」
アクバはつぶやいた。
「見たくもないですな、そんな請求書」
「おれもだよ」
ガスは吐き捨てるようにいった。
「サシェル・イルミール男爵から、何百枚もの金貨を口車だけで奪い取ったにも関わらず、小遣い銭としか思わなかったようなやつだぞ。いくらになるかわからんが、金貨十万枚で済んだら、公爵閣下は強運だな」
ふたりの男は押し黙った。
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~ Comment ~
NoTitle
ガスには裏切りという汚名が付いて回るんだね。
可哀想だに。
ナミも相当な強者。
再登場が待ち遠しいね。
今日は寒い。
被害に遭われた方々はもっと寒いだろうに。
間違いない所に募金するのと、献血。
家では節電。
これぐらいしかできない。
可哀想だに。
ナミも相当な強者。
再登場が待ち遠しいね。
今日は寒い。
被害に遭われた方々はもっと寒いだろうに。

間違いない所に募金するのと、献血。
家では節電。
これぐらいしかできない。
- #3563 ぴゆう
- URL
- 2011.03/15 15:31
- ▲EntryTop
Re: limeさん
ほら、よくいるでしょう。
「ものすごい敢闘精神で力のかぎり戦うも、自分では状況をどうにもできないタイプ」の人って。
さて、ガスくんとナミはどうなのかな? ふっふっふっ。(^^)
「ものすごい敢闘精神で力のかぎり戦うも、自分では状況をどうにもできないタイプ」の人って。
さて、ガスくんとナミはどうなのかな? ふっふっふっ。(^^)
NoTitle
いろんなものが符合しましたね。
その斧が、ガスの力になってくれるといいんですが。
ナミ、登場はまだかな??
爽快な登場を待ちわびています。
なにか、やらかしてほしい・笑
その斧が、ガスの力になってくれるといいんですが。
ナミ、登場はまだかな??
爽快な登場を待ちわびています。
なにか、やらかしてほしい・笑
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Re: ぴゆうさん
これからも今までどおりブログを更新することであります。
わたしなんかよりも、はるかにぴゆうさんの物語を楽しみにしている人は多いと思います。
そういう人を元気づけられるのはぴゆうさんだけです。
がんばってください。