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    「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
    範子と文子の三十分的日常(ギャグ掌編小説・完結)

    範子と文子の三十分的日常/三月・お彼岸

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     ……とにかく。

     文子は頭をフル回転させようとした。

     英語で、なにかいわなくては。とにかく、今のこの状態を好転させるなにかを。

     昨日聞いたはずなのに……。

     五分ほど悩んだ文子は、どうしても開いてくれない記憶の蓋をこじ開けて、この場にふさわしい言葉をひねり出した。

    "……いただきます"

     それを聞いて、食卓をともにしていたミス・バカロレア、大上淳子先生は首を振った。

    "下川さん。……には気をつけてください。……は大切ですから。それと、わからなくなったら、もっと……"

    "せんせい"

     文子はいった。

    "もっとゆっくりわかりやすくはなしてください"

     大上先生はうなずいた。

    "それでいいのです、下川さん"

     文子は相手にわからないように、頭の中でため息をついた。

     日本語を一切使ってはダメ、というのは、平凡な高校生にはきつすぎるよ……。



     二〇一一年三月十一日、日本を突如として襲ったマグニチュード9.0の東北関東大震災とそれに付随する一連の地震は、紅恵高校のあるこの県にも影響を与えた。ライフラインなどは正常だったものの、かねてより建てつけの悪かった文子の家は大きく歪み、この際だから建て替えようということになった。

     その間、どこに住むかということになったが、宇奈月財閥が、そうした被災者に対して門戸を開き、住む場所と当座の食糧その他を用意してくれると聞いて、持つべきものは金持ちを友人にしている娘だ、となった下川家一同は、文子を通じて範子とその家族に動いてもらうことにした。

    「わたしが友達を見捨てるわけないでしょう」

     と範子は即座にOKしてくれたが、その交換条件として、文子を……このミス・バカロレアと異名を取る丸々と太った元教師の老婦人の家に下宿させろ、ということをいい出した。

     背に腹は換えられないし、あの、いつ崩れるかわからない自分の家にしがみついて今度は直撃がきたらたまらないし、と、文子はその条件を呑んだ。

     かくして下宿生活が始まったわけだが。

     その第一日目。

    「お嬢様から、話は全部うかがっております」

    「はあ」

    「海外留学を考えていらっしゃるのですね」

    「……はい。できればですけれど」

    「海外留学もいいですが、そこで必要なものはなんだかわかりますか?」

    「え? ……語学力、かなあ」

    「それだけでは半分です。正確には、論文を読んでそれに対する論文を書けるようになるまでの読解力と作文力。そして、かたことでもいいから、英語で相手にぶつかっていけるだけの会話力と何事も恐れない度胸です。おわかりですね?」

    「はい」

    「それでは、今からこの家に下宿している間中、日本語は一切使ってはいけません」

    「え……ええ?」

    "わからなかったら英語で問い返しなさい、下川さん"

    "せんせい"

     文子はこれまでの中学校からはじまる五年間の英語教育で覚えた単語を総動員して、なんとか文章を作り上げた。

    "どうこたえればいいんですか?"



     かくしてテレビで見るものといえば衛星放送のCNNニュースや、録画もののテレタビーズやセサミストリート、聴く音楽はすべて洋楽、読む本は英英辞典を片手に海外の子供向け絵本など、それに加えて毎日のように続く英会話の授業と、どっさりと出される英作文の宿題という、文子にとって戦慄すべき「英語漬け」の日々が始まった。

     一日でも早く春休みと建て替えが終わって新学期にならないか、と願う文子であった。



     下川文子の明日はどっちだ。



    ※作者注:""でくくられた文字列は今回以降、この小説シリーズでは英語による会話を指すものとする。


    × × × × ×


     今回は悩んだ。震災を物語にからめるか否かで。

     不謹慎と呼ばれるかもしれないが、からめないとウソだ、と思ってやることにした。

     阪神大震災の被災経験があり、こんなときに誰にでも必要なのはのんびりとした日常のひとコマだ、と決意しておられる(のであろう)いしいひさいち先生の描く「ののちゃん」のような平常心もまたひとつの理想の境地なのだが……。

     まだ自分の判断に自信が持てない。

     作中における、短期間でアホを英語で議論ができるように促成栽培するための英語学習プログラムについては国際基督教大学出身の友人から助言を受けました。
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    ~ Comment ~

    Re: ネミエルさん

    "トイレはどこですか?"と英語で聞かなければトイレにも行けない生活です。

    そりゃわたしだって、ある意味夢を込めたうらやましい環境ではありますが、けっこうやってみるとつらいと思います(^^)

    まあ大上先生の教育方針が、「コミュニケーション能力重視」なため、文法の間違いとかには比較的寛容なのが救いでしょうか……(^^)

    いいなぁ、その環境

    おれと変わってくれないかなぁ…

    Re: 矢端想さん

    範子と文子が、齢を取らない、「永遠の17歳」だったら、そういった天災や現在進行形の歴史的事件とは無縁なまま話を進めることもできるんですが。

    範子と文子は、齢を取り、将来的には大学に進むかどうか、という人生の選択をせねばなりません。そこで話が終わるかどうかは別として。

    「震災」は作中に取り込まざるを得ませんでした。

    問題は、これで小説の進む目的地を変更するかどうか、というところであります。

    これを毎日続けていたら長編青春小説になるところでしたが、そんな小説を書く才能はなく。うーむ、惜しい(爆)。

    NoTitle

    おお、現実の事件とフィクションが共存している。
    さすがですねえ。早くも今回の震災を「歴史的事実」の前提として据えているところは。

    いかなフィクションでも舞台が現代日本というノンフィクションに依存している限り、「太平洋戦争」も「関東大震災」も「伊勢湾台風」(ローカル?)も「阪神大震災」も、なかったことにはできないのです。現在進行中の震災でさえもすでに「なかったことにできない歴史の一部」になっているものと思います。
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