「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 9-2
ふたりの男は、息をのんだ。
「わが主よ! お考え直しを!」
「正気か、姫様!」
エリカはしっかりとした視線でふたりを見た。
「わたしはじゅうぶんに正気です。終末港を覆うこの陰惨な争いは、なんとしてでも止めるのがこの公爵家の当主としての義務であり責務です」
「しかしそれにしても」
アクバがさらに反論しようとするところに、エリカは声をかぶせた。
「アクバ。あなたは、なにか勘違いをしているようですね」
「え?」
「どう勘違いしろというんだ」
ガスはうなった。
「あんな狂犬のようなやつらのところにいくなんて、何度だっていうが正気の沙汰じゃない」
「よく考えてみることです」
エリカはいった。
「これは、血を見ずしてガレーリョス家の息の根を止める最大の機会なのです」
アクバは目をむいた。
「ガレーリョス家に?」
「そうです」
エリカは淡々といった。
「婚姻によって、ガレーリョス家を乗っ取り、わがバルテノーズ家の勢力下に組み込むのです」
ガスもアクバも、茫然としながらエリカの言葉を聞いていた。
エリカは続けた。
「今、終末港の市民たちは、街に悪疫をもたらしたガレーリョス家に対し、深い憤りを覚えています。もし、それに対して、わたしたちバルテノーズ家が、救いの手を差し伸べたら、あなたたちもこれからこの街で生きていっていいのだというお墨つきを与えたら、どうなりますか? ガレーリョス家は、当家に対して想像もできないほどの借り、負い目を持つことになります」
「……………………」
ふたりの男は声も出なかった。
「そしてその混乱に乗じて、無血で、あなたたちが指揮したバルテノーズ家の家士たちでもって、ガレーリョス家の主要なところをすべて乗っ取っておしまいなさい」
しばしの沈黙の後で、口を開いたのはガスだった。
「そりゃ、理屈ではそうかもしれませんけどね、あんなところに嫁ぐなんて……そもそも、ヴェルク三世はどうするんですか。おれとしちゃ、あんな男など……」
エリカは冷然といった。
「ヴェルク三世については、わたしがこの声を使って、これ以上の蛮行を止めてみせます。命を奪っては、あの男と同じです。わたしはあの男のようになりたくないのです」

「わが主よ! お考え直しを!」
「正気か、姫様!」
エリカはしっかりとした視線でふたりを見た。
「わたしはじゅうぶんに正気です。終末港を覆うこの陰惨な争いは、なんとしてでも止めるのがこの公爵家の当主としての義務であり責務です」
「しかしそれにしても」
アクバがさらに反論しようとするところに、エリカは声をかぶせた。
「アクバ。あなたは、なにか勘違いをしているようですね」
「え?」
「どう勘違いしろというんだ」
ガスはうなった。
「あんな狂犬のようなやつらのところにいくなんて、何度だっていうが正気の沙汰じゃない」
「よく考えてみることです」
エリカはいった。
「これは、血を見ずしてガレーリョス家の息の根を止める最大の機会なのです」
アクバは目をむいた。
「ガレーリョス家に?」
「そうです」
エリカは淡々といった。
「婚姻によって、ガレーリョス家を乗っ取り、わがバルテノーズ家の勢力下に組み込むのです」
ガスもアクバも、茫然としながらエリカの言葉を聞いていた。
エリカは続けた。
「今、終末港の市民たちは、街に悪疫をもたらしたガレーリョス家に対し、深い憤りを覚えています。もし、それに対して、わたしたちバルテノーズ家が、救いの手を差し伸べたら、あなたたちもこれからこの街で生きていっていいのだというお墨つきを与えたら、どうなりますか? ガレーリョス家は、当家に対して想像もできないほどの借り、負い目を持つことになります」
「……………………」
ふたりの男は声も出なかった。
「そしてその混乱に乗じて、無血で、あなたたちが指揮したバルテノーズ家の家士たちでもって、ガレーリョス家の主要なところをすべて乗っ取っておしまいなさい」
しばしの沈黙の後で、口を開いたのはガスだった。
「そりゃ、理屈ではそうかもしれませんけどね、あんなところに嫁ぐなんて……そもそも、ヴェルク三世はどうするんですか。おれとしちゃ、あんな男など……」
エリカは冷然といった。
「ヴェルク三世については、わたしがこの声を使って、これ以上の蛮行を止めてみせます。命を奪っては、あの男と同じです。わたしはあの男のようになりたくないのです」
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Re: limeさん
あとは第17章までに話がうまく終わるよう伏線を閉じまくるだけなのですが、いろいろとたいへんで……(^^)
小説理論もなにもなく、ただ「野性のカン」だけで書いているから、ドラマチックに終わってくれるかどうかもわからん(汗)。
うまく終わってくれるといいんですがねえ。
小説理論もなにもなく、ただ「野性のカン」だけで書いているから、ドラマチックに終わってくれるかどうかもわからん(汗)。
うまく終わってくれるといいんですがねえ。
NoTitle
これからまだ更にえらいことが??
エリカちゃん、大丈夫でしょうか。
ガレーリョス家で、上手く立ち回る自由があれば、エリカちゃんの考えも不可能じゃないかもしれませんね。
あの輩たちが、素直に感謝してくれるかがちょっと心配ですが。
とにかく、エリカちゃん、ご無事で・・・。
エリカちゃん、大丈夫でしょうか。
ガレーリョス家で、上手く立ち回る自由があれば、エリカちゃんの考えも不可能じゃないかもしれませんね。
あの輩たちが、素直に感謝してくれるかがちょっと心配ですが。
とにかく、エリカちゃん、ご無事で・・・。
Re: ぴゆうさん
まあエリカちゃんにもエリカちゃんでいろいろと理由がありまして。
今後、これにからんでえらいことが明らかになります。
えらいことだらけだけれど、終幕が近いから伏線を回収するのだけで精一杯なのであります(^_^;)
今後、これにからんでえらいことが明らかになります。
えらいことだらけだけれど、終幕が近いから伏線を回収するのだけで精一杯なのであります(^_^;)
NoTitle
うまくいけばいいけど・・・
声って、それしか武器はないのでしょう。
命は守れるだろうけど、操はよ。
どー考えてもイヤだわ。

声って、それしか武器はないのでしょう。
命は守れるだろうけど、操はよ。
どー考えてもイヤだわ。

- #3636 ぴゆう
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- 2011.03/22 08:15
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