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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第三部 殺戮の春

    紅蓮の街 第三部 11-1

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    11



     その場の空気が凍りつくようだった。

     貴人に対する無礼にもほどがあった。

     だが、ナミは、さっと身を離すと、ガスとアクバを目で制しながら、叫んだ。

    「さあ! 終末港公爵エリカ・バルテノーズ、いいなさい、このふたりを殺せ、生きてここから出すなと! それができなければ、書類に署名をし、あたしたちふたりの命を保証しなさい!」

     エリカの唇が動いた。

    「……あなたたちの命を、バルテノーズ家当主の名において保証します。書類を渡しなさい」

     ガスには、その言葉が信じられなかった。

     アクバもそのようだった。

    「公爵閣下!」

     アクバは悲鳴を上げるように叫んだ。

    「……ここまで、この公爵閣下と暮らしていて、まだ気づかなかったの?」

     ナミは、数学の講釈でもするかのようにいった。

    「この哀れな公爵閣下はね、自分の話した相手から殺されたり傷つけられたりしない能力の代償として、自分から誰かを殺したり、死を命じたり、傷つけたりすることがどうやってもできないのよ」

     ガスは呆然とするだけだった。

     エリカは、目に憎悪と涙を浮かべながら、それでもペンを取った。

    「考えてもごらんなさい」

     ナミは含み笑いをした。

    「どうして、ガレーリョス家に対して、自分から配下に攻撃の命令を出さなかったのか。どうして、すべての終末港の民を救うことにあれだけ固執したのか……答えは簡単。自分から人の死を命じることは、したくてもできなかったのよ」

    「ナミ、お前は忘れているぞ。イルミール家とガレーリョス家をペテンにかけて、クワルス芋とその利権を奪い取ったあの海戦はどうなるんだ」

     ナミは声を出して笑った。

    「覚えていると思ったんだけど。あのときは、公爵閣下には黙っていたうえで、あたしとアクバでほとんどの策を進めたのよ。公爵閣下はすべてが終わるまでなにも知らされていなかったわ」

     ガスは黙るしかなかった。

    「この考えは、今日立ち聞きした、ガレーリョス家に輿入れするという話で、より確信が強まった。公爵閣下、あなたは、何度となく言葉を交わしたヴェルク三世が、どうしても殺せなかったのね。部下を殺され、人肉食を広めた、殺したいほど憎い相手でも」

     エリカはナミを憎悪のこもった目で見ながら、署名を終えた。

    「……これでいいですね、ナミ。代わりに、あなたのほんとうの目的を教えなさい」



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    ~ Comment ~

    Re: ネミエルさん

    命令されてもできません。

    それが、ある意味エリカちゃんにかけられた「呪い」のようなものなのです。

    ふたつの命のどちらを選ぶか、と二者択一を迫られたら思考が停止してなにもできないでしょう。

    政治家にとっては致命的であります。

    NoTitle

    エリカさん闇深すぎじゃないですか
    自分から出来ないって
    独立できてないってことですか?

    人から命令されないと出来ない・・・っ?

    Re: limeさん

    敵のリーダーが、自分たちに死を命じることはできない、ということに気づいたら、相手方は速攻襲い掛かってきますよ。

    エリカちゃんを死に追いやれなくても軟禁なり幽閉なりしてしまえば目論見は達成できるわけですから。

    そんな危険な情報、側近にだって漏らせるわけがありません。

    ナミがしゃべってしまったのは、ガスくんもアクバさんもエリカちゃんに危害を加えることはしないだろう、ということを読んでいるからでありますな。同時に、ふたりをこの情報で圧倒し、この場を有利に支配しよう、という考えもあります。

    ナーヴァやブラッドンの、友情を超えた関係にはある種の共感や理解を覚えますが、ナーヴァのように「直接的な描写」が入ると「ご遠慮させていただきます」みたいな気に……。

    だから女性にとってのBL小説と、男性にとっての百合小説は、それぞれその奥底にファンタジーを抱えているんですってば(笑)。

    Re: ぴゆうさん

    貴族を侮辱する意味でやったに決まっているではないですか。

    ……もう半分はわたしの趣味です(笑)

    NoTitle

    私もチューする意味が・・・・・・(≧∇≦)
    いやいや、あんなハプニング好き♪
    あ、怒らせようとしたんでしょうか。(キスにこだわる・笑)

    そうかあ、私はてっきり、エリカちゃんは人をコロス命令なんてできない、優しいボスなんだとばかり・・・。
    でも、終末港では、それは命取り・・・。
    敵に知られたらヤバイんですね?

    もう、あれですね、人類みな、エリカちゃんみたいになればいいのに・・・・。

    そっか・・・やっぱりポールさんは、ナーヴァの展開には萌えないのか・・・・(^.^)
    じゃあ、じゃあ、ツァラプキンとキングの友情は???
    (わくわく)

    NoTitle

    v-415チューする意味が分からん。
    ポールの趣味か?
    なら仕方ない。
    一番納得できる。
    ププ
    v-389

    覚え書き

    はい。出ました。エリカちゃん最大の弱点であります(^^)

    個人としてはある意味美点ではありますが、この街を治める政治家としては、まさに致命的な欠点といっていいでしょう。

    兵士を率いての反乱なんか起こせるわけがありません。

    びっくりしてくれたら嬉しいですな。ふっふっふっ(イヤらしい笑い)。
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