「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 13-3
「いや、なんでもない」
アクバはガスの慌てぶりを、さして気にも留めていないようだった。
「ですから、馬鹿な真似はなさらないようにお願いいたします」
「馬鹿な真似?」
アクバは毒物学の本から顔を上げた。
「決まっているでしょう、今回の婚姻話は、ガレーリョス家の財産を乗っ取って、差し押さえぶんを払ったのちに、残ったぶんを競売にかけて金を手に入れ、ナミ殿に取られた荘園を買い戻すのが目的なんですよ。血気にはやって二人を殺したりしたら困ります」
「そうだったな」
ガスは額を押さえた。
「おれも焼きが回ったみたいだな」
「忘れないでくださいよ。ナミ殿ほどではありませんが、世の中、命より大事なものはいくらでもありますが、その中でも上から二番目は金です」
「一番目は?」
「矜持。高貴さといい換えてもいいでしょう。まあ、ナミ殿が納得するような議論ではないでしょうけどね」
アクバは毒物学の本の頁を繰った。
「そうだよな」
ガスの、どこか諦めを含んだような返答に、アクバは毒物学の本を伏せて、その顔をしげしげと見た。
「その後、メアとはどうなっています?」
ガスはたじろいだ。
「どうしてここにメアが出てくるんだよ」
「わたくしは真面目です。メアとはどうなっています?」
「どうなったも、こうなったも……」
ガスは頭をかいた。
「まあ、中年なりかけの独身男と、若い娘だぜ。なるときはなるし、ならないときはならない。世の中そういうもんだろう?」
「そんな哲学者の詭弁をわたくしは聞いているわけではありません」
アクバは、稲妻が出るようなきつい目でガスをにらみつけた。
「そういう関係になったんですか、ならなかったんですか!」
「あとひと押しというところだ……」
ガスは、小さな声で答えた。
「よろしい」
アクバは、厳しい目を変えずに、さらに言葉を続けた。
「それで、ガス殿、例の『約束』はしたんですか!」
「約束?」
「身を固める気があるのかないのかを聞いているんです」
ガスのしどろもどろぶりはどこか滑稽だった。誰も見ていないのは幸いだった。
「女とはこれまでも何度も遊んできたが、堅気の女とはあの娘が初めてだ。正直、どうするのがいいのか、おれにもわからん……」

アクバはガスの慌てぶりを、さして気にも留めていないようだった。
「ですから、馬鹿な真似はなさらないようにお願いいたします」
「馬鹿な真似?」
アクバは毒物学の本から顔を上げた。
「決まっているでしょう、今回の婚姻話は、ガレーリョス家の財産を乗っ取って、差し押さえぶんを払ったのちに、残ったぶんを競売にかけて金を手に入れ、ナミ殿に取られた荘園を買い戻すのが目的なんですよ。血気にはやって二人を殺したりしたら困ります」
「そうだったな」
ガスは額を押さえた。
「おれも焼きが回ったみたいだな」
「忘れないでくださいよ。ナミ殿ほどではありませんが、世の中、命より大事なものはいくらでもありますが、その中でも上から二番目は金です」
「一番目は?」
「矜持。高貴さといい換えてもいいでしょう。まあ、ナミ殿が納得するような議論ではないでしょうけどね」
アクバは毒物学の本の頁を繰った。
「そうだよな」
ガスの、どこか諦めを含んだような返答に、アクバは毒物学の本を伏せて、その顔をしげしげと見た。
「その後、メアとはどうなっています?」
ガスはたじろいだ。
「どうしてここにメアが出てくるんだよ」
「わたくしは真面目です。メアとはどうなっています?」
「どうなったも、こうなったも……」
ガスは頭をかいた。
「まあ、中年なりかけの独身男と、若い娘だぜ。なるときはなるし、ならないときはならない。世の中そういうもんだろう?」
「そんな哲学者の詭弁をわたくしは聞いているわけではありません」
アクバは、稲妻が出るようなきつい目でガスをにらみつけた。
「そういう関係になったんですか、ならなかったんですか!」
「あとひと押しというところだ……」
ガスは、小さな声で答えた。
「よろしい」
アクバは、厳しい目を変えずに、さらに言葉を続けた。
「それで、ガス殿、例の『約束』はしたんですか!」
「約束?」
「身を固める気があるのかないのかを聞いているんです」
ガスのしどろもどろぶりはどこか滑稽だった。誰も見ていないのは幸いだった。
「女とはこれまでも何度も遊んできたが、堅気の女とはあの娘が初めてだ。正直、どうするのがいいのか、おれにもわからん……」
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Re: ぴゆうさん
幕間喜劇みたいなつもりで書いたので、ある意味脳内お花畑、というのも間違っていないかもしれません(^^;)
いつもいつも緊迫した話ばかり書いていてもなんですので……(^^)
いつもいつも緊迫した話ばかり書いていてもなんですので……(^^)
NoTitle
緊迫した話から、一変して、ガスの浮いた話題。
アクバにとっても、この現状にとっても、それは何か重要なことだったのかな??
関係ないにしても、そういう話を二人がするのは、読んでて楽しいです^^
へ~、ガスも、いっぱい遊んで来たんですね^^
アクバにとっても、この現状にとっても、それは何か重要なことだったのかな??
関係ないにしても、そういう話を二人がするのは、読んでて楽しいです^^
へ~、ガスも、いっぱい遊んで来たんですね^^
NoTitle
わっ臭~~
高校生みたいなセリフを
ガスに言わせるのね。
おいおいだわ。
どうしちまった?ポール&ガス。
脳内お花畑になっているのかーー

高校生みたいなセリフを
ガスに言わせるのね。
おいおいだわ。
どうしちまった?ポール&ガス。
脳内お花畑になっているのかーー

- #3786 ぴゆう
- URL
- 2011.04/09 06:25
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Re: limeさん
この街のことですから、そういう商売は充実してますし。
ガスくんもガスくんでいろいろと(笑)。
でもこれはこれでいろいろとあったりして(^^;)