「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 13-4
「荒くれという連中はまったくこれだから。家中の秩序を保たねばならないこっちの苦労も考えてください」
「はあ……す、すまん」
ガスは頭を下げた。なんで自分がアクバに頭を下げなければならないのか、混乱したガスの頭ではもうなにがなんだかよくわからなくなっていた。
「とにかく、今後もわがバルテノーズ家ではガス殿を必要としているのですから、それなりの家中での位置を占めてくれなければ困ります。どんな役につくにせよ、いつまでも居候みたいにされていては、わたくしが示しがつきません」
「じゃ、どうすればいいんだ」
「簡単です」
アクバは断固とした口調でいった。
「この公爵閣下の婚礼と、それにまつわるごたごたが全て終わったら、ガス殿、あなたメアを娶りなさい。この終末港とバルテノーズ邸には、夫婦者が暮らす部屋くらいいくらでもあります」
「おれが家庭を?」
「その通り。それから、公爵閣下に忠誠を誓う儀式を経て、正式なバルテノーズ家の家士のひとりになる。できますよね?」
「で……できるさ、そのくらい」
口ではそういったものの、ガスは自分でも半信半疑だった。暴力と陰謀と裏工作に明け暮れ、最後にはどこかの路上で刺されて死ぬのが運命だ、と思っていたため、いきなりの運命の転変についていけないのだ。
「じゃあ決まった。メアとは、そういうことはまだ話していないんでしょう?」
「こういうことは切り出しようがないもんだからな」
アクバは、この男にしては珍しいことに鼻を鳴らすと、立ち上がって本棚に歩いていった。そこから、哲学者にして博物学者として名高いベイウルコスの対話編をまとめた分厚い書物をはじめ、いくつかの本をどけた。
「おい……?」
ガスの困惑をよそに、アクバは奥の空間から杯ふたつと、小さな樽を引き出した。
「公爵閣下にも黙っていた、わたくしの隠し資産です」
樽の上部にはめられていた栓を抜き、小さな蛇口を取り付け、蛇口が正面に来るように横に倒すと、蛇口をひねって中から黄金色の液体を杯に注いだ。
「蜜酒ですよ。年代ものの」
アクバは杯のひとつをガスに手渡した。
「公爵閣下とメアのために、生きて帰って来られますね?」
「もちろんだとも」
アクバはちらりと窓から太陽を見た。
「そろそろわが主が出られる時間です。これは厄払いと前祝いと思ってください」
ふたりの男は杯を干した。
「行きなさい、ガス殿。惚れた女のために」

「はあ……す、すまん」
ガスは頭を下げた。なんで自分がアクバに頭を下げなければならないのか、混乱したガスの頭ではもうなにがなんだかよくわからなくなっていた。
「とにかく、今後もわがバルテノーズ家ではガス殿を必要としているのですから、それなりの家中での位置を占めてくれなければ困ります。どんな役につくにせよ、いつまでも居候みたいにされていては、わたくしが示しがつきません」
「じゃ、どうすればいいんだ」
「簡単です」
アクバは断固とした口調でいった。
「この公爵閣下の婚礼と、それにまつわるごたごたが全て終わったら、ガス殿、あなたメアを娶りなさい。この終末港とバルテノーズ邸には、夫婦者が暮らす部屋くらいいくらでもあります」
「おれが家庭を?」
「その通り。それから、公爵閣下に忠誠を誓う儀式を経て、正式なバルテノーズ家の家士のひとりになる。できますよね?」
「で……できるさ、そのくらい」
口ではそういったものの、ガスは自分でも半信半疑だった。暴力と陰謀と裏工作に明け暮れ、最後にはどこかの路上で刺されて死ぬのが運命だ、と思っていたため、いきなりの運命の転変についていけないのだ。
「じゃあ決まった。メアとは、そういうことはまだ話していないんでしょう?」
「こういうことは切り出しようがないもんだからな」
アクバは、この男にしては珍しいことに鼻を鳴らすと、立ち上がって本棚に歩いていった。そこから、哲学者にして博物学者として名高いベイウルコスの対話編をまとめた分厚い書物をはじめ、いくつかの本をどけた。
「おい……?」
ガスの困惑をよそに、アクバは奥の空間から杯ふたつと、小さな樽を引き出した。
「公爵閣下にも黙っていた、わたくしの隠し資産です」
樽の上部にはめられていた栓を抜き、小さな蛇口を取り付け、蛇口が正面に来るように横に倒すと、蛇口をひねって中から黄金色の液体を杯に注いだ。
「蜜酒ですよ。年代ものの」
アクバは杯のひとつをガスに手渡した。
「公爵閣下とメアのために、生きて帰って来られますね?」
「もちろんだとも」
アクバはちらりと窓から太陽を見た。
「そろそろわが主が出られる時間です。これは厄払いと前祝いと思ってください」
ふたりの男は杯を干した。
「行きなさい、ガス殿。惚れた女のために」
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Re: limeさん
しばらくはコメントの返事などをしながらボーっとして過ごそうと思ってます。
合間に高村先生の本でも読んだりしつつ。
でも二週間ですからねえ(^^;)
アクバは……いやもうなにも申しますまい。あとはうまく終わってくれることを祈るだけです。
合間に高村先生の本でも読んだりしつつ。
でも二週間ですからねえ(^^;)
アクバは……いやもうなにも申しますまい。あとはうまく終わってくれることを祈るだけです。
NoTitle
わ、ポールさん、最終話まで書きあげてあるんですね。
それって、なんか至福の時間じゃないですか?
まだ貯金がある~~って♪
アクバは粋な事をしますね。
ガスもほんのちょっと、未来に幸せを感じることができるかな?
でも、もうひと波乱、ふた波乱、ありそうですが・・・。
それって、なんか至福の時間じゃないですか?
まだ貯金がある~~って♪
アクバは粋な事をしますね。
ガスもほんのちょっと、未来に幸せを感じることができるかな?
でも、もうひと波乱、ふた波乱、ありそうですが・・・。
Re: ぴゆうさん
プレッシャーもなにも、26日の最終話まですでに予約投稿済みだったりします(^^;)
200日も毎日やっていたため、次になにをやるにせよ、気持ちの切り替えに時間がかかりそうなので。
今はあとがきと……ねみさんのお題を解決するのが急務であります(^^;)
「紅蓮の街」については、どうか仕上げをごろうじろ。
200日も毎日やっていたため、次になにをやるにせよ、気持ちの切り替えに時間がかかりそうなので。
今はあとがきと……ねみさんのお題を解決するのが急務であります(^^;)
「紅蓮の街」については、どうか仕上げをごろうじろ。
NoTitle
銭返せーー
じゃないよね。
わたし的には独りくらい、終末港で幸せになってもいいではないかと思うね。
何十万トンのプレッシャーをかけとこう。


じゃないよね。
わたし的には独りくらい、終末港で幸せになってもいいではないかと思うね。
何十万トンのプレッシャーをかけとこう。

- #3795 ぴゆう
- URL
- 2011.04/10 18:58
- ▲EntryTop
Re: ミズマ。さん
わたしがそこまでパターンを踏んだ正統派な物語を書くと思いますか?
けっこう書くんです(←おい)
とりあえずご覧になっていてください(^^)
お代は見てのお帰り(^^)
けっこう書くんです(←おい)
とりあえずご覧になっていてください(^^)
お代は見てのお帰り(^^)
NoTitle
え、えーとー…。
「この戦いが終わったら、オレ、彼女と結婚するんだ!」
的な、いわゆる世間で言うところの、死亡フラ……いやいやいや、ななななななんでもないですよッ!!
案外、ずーっと「死ぬ死ぬ」言ってたキャラが、エピローグで自分の大家族に囲まれた平和な我が家で物語を振り返って終わる、とか、そんな展開になったら! そうだったら嬉しいな、って!
「この戦いが終わったら、オレ、彼女と結婚するんだ!」
的な、いわゆる世間で言うところの、死亡フラ……いやいやいや、ななななななんでもないですよッ!!
案外、ずーっと「死ぬ死ぬ」言ってたキャラが、エピローグで自分の大家族に囲まれた平和な我が家で物語を振り返って終わる、とか、そんな展開になったら! そうだったら嬉しいな、って!
- #3793 ミズマ。
- URL
- 2011.04/10 13:45
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Re: 椿さん
ただですむわけがないじゃないですか(笑)