「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 15-4
エリカが脂汗を浮かべているのは、遠くからでもよく見えた。
「死体はこんがりと焼かれ、後には灰しか残らん」
ガムロス大司教は事実を述べているようだった。それが事実なのはガスにもよくわかっていた。この木造建築では、火はあっという間に回り、天井が落ちてしまうことだろう。少なくとも、ガスが陰謀を企むとすれば、この教会を燃えやすくしておく下準備は欠かさないはずだ。ヴァリアーナの畜生女が、それに気づかないとも思えない。
ヴァリアーナ夫人の説明は続いた。
「となると、あなたが生きている必要はなにもなくなることがわかるでしょう、エリカ・バルテノーズ」
ガムロス大司教がうなずく。
「さよう。わしとヴァリアーナ夫人、このふたりが証人として残れば、婚姻は認められる。夫より早く死んだ妻の財産は夫が相続し、そしてその夫の財産は、死後、その実子か、実子がいなければ弟に相続させられることになる。ガレーリョス家は、イルミール家とバルテノーズ家の財産を全て手に入れられるというわけじゃ」
「ガムロス大司教」
エリカはいった。
「陰謀が成功したとしても、あなたも、いずれはこのヴァリアーナ夫人に殺されます。わかっていらっしゃるんですか」
「そうだのう……」
ガムロス大司教は、エリカの腕を握る手から力をゆるめず、のんびりといった。
「ヴァリアーナ夫人を完全に信じるわけではないが、互いに、自分の境界さえ侵さなければ、けっこううまくやっていけるのではないか、とわしは思っておるのじゃが。ガレーリョス家はこの街の世俗権力を掌中に収め、それと同時に、このわしとレリス教会が宗教権力をさらに堅固なものにする、というわけでな。少なくとも、わしとヴァリアーナ夫人が争わなければならぬ理由はなくなる」
「人を食らうことを広めたのはガレーリョス家ではありませんか。民の怨嗟の声は、ガレーリョス家に対する反乱につながりかねないことは、あなたも知ってのはず」
「それについては、この、現オルロス伯が全ての責任をかぶってくれよう。実の親を信じた時点で、この男は、この街を治めるだけの才覚がなかったことを白状したも同然じゃな。それは、お前にもいえるのじゃよ、『バター飴』ちゃん」
ガムロスは隠し持っていた針剣を抜いた。刃が鋭い針のようになっているこの短剣は、主に暗殺のために使用されるのだった。
「あなたの敗北の屈辱に満ちた顔が見られないのは残念です、エリカ・バルテノーズ」
ヴァリアーナがそう嘲笑したとき……。
扉を蹴り破ってなにかが飛び込んできた。
ナミとその配下の蛮族どもだった。

「死体はこんがりと焼かれ、後には灰しか残らん」
ガムロス大司教は事実を述べているようだった。それが事実なのはガスにもよくわかっていた。この木造建築では、火はあっという間に回り、天井が落ちてしまうことだろう。少なくとも、ガスが陰謀を企むとすれば、この教会を燃えやすくしておく下準備は欠かさないはずだ。ヴァリアーナの畜生女が、それに気づかないとも思えない。
ヴァリアーナ夫人の説明は続いた。
「となると、あなたが生きている必要はなにもなくなることがわかるでしょう、エリカ・バルテノーズ」
ガムロス大司教がうなずく。
「さよう。わしとヴァリアーナ夫人、このふたりが証人として残れば、婚姻は認められる。夫より早く死んだ妻の財産は夫が相続し、そしてその夫の財産は、死後、その実子か、実子がいなければ弟に相続させられることになる。ガレーリョス家は、イルミール家とバルテノーズ家の財産を全て手に入れられるというわけじゃ」
「ガムロス大司教」
エリカはいった。
「陰謀が成功したとしても、あなたも、いずれはこのヴァリアーナ夫人に殺されます。わかっていらっしゃるんですか」
「そうだのう……」
ガムロス大司教は、エリカの腕を握る手から力をゆるめず、のんびりといった。
「ヴァリアーナ夫人を完全に信じるわけではないが、互いに、自分の境界さえ侵さなければ、けっこううまくやっていけるのではないか、とわしは思っておるのじゃが。ガレーリョス家はこの街の世俗権力を掌中に収め、それと同時に、このわしとレリス教会が宗教権力をさらに堅固なものにする、というわけでな。少なくとも、わしとヴァリアーナ夫人が争わなければならぬ理由はなくなる」
「人を食らうことを広めたのはガレーリョス家ではありませんか。民の怨嗟の声は、ガレーリョス家に対する反乱につながりかねないことは、あなたも知ってのはず」
「それについては、この、現オルロス伯が全ての責任をかぶってくれよう。実の親を信じた時点で、この男は、この街を治めるだけの才覚がなかったことを白状したも同然じゃな。それは、お前にもいえるのじゃよ、『バター飴』ちゃん」
ガムロスは隠し持っていた針剣を抜いた。刃が鋭い針のようになっているこの短剣は、主に暗殺のために使用されるのだった。
「あなたの敗北の屈辱に満ちた顔が見られないのは残念です、エリカ・バルテノーズ」
ヴァリアーナがそう嘲笑したとき……。
扉を蹴り破ってなにかが飛び込んできた。
ナミとその配下の蛮族どもだった。
- 関連記事
-
- 紅蓮の街 第三部 16-1
- 紅蓮の街 第三部 15-4
- 紅蓮の街 第三部 15-3
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作連載ファンタジー小説]
~ Comment ~
NoTitle
ヴァリアーナ夫人、みすみす息子が嫁に取られるのを見ているようなママンではないと思いましたが。
そう来たか!!
ザ・烈女!!
……この人を「愛している」と言った先代は心が広い人だなあ。
いよいよ大詰めですね。最後までじっくり読ませていただきます。
そう来たか!!
ザ・烈女!!
……この人を「愛している」と言った先代は心が広い人だなあ。
いよいよ大詰めですね。最後までじっくり読ませていただきます。
- #14583 椿
- URL
- 2014.11/19 08:54
- ▲EntryTop
Re: 秋沙さん
一気読みありがとうございます(^^)
でもあと一週間で最終回だったりする(^^)
どうか一週間おつきあいください。
満足させてみせまする(^^)
でもあと一週間で最終回だったりする(^^)
どうか一週間おつきあいください。
満足させてみせまする(^^)
Re: れもんさん
そりゃあナミは来ますとも。そうでもなければ話が(^^)
はたしてナミはこの状況を?
はたしてナミはこの状況を?
NoTitle
ご、ご無沙汰しまして・・
いやぁ、一気に読んでしまいましたよ。
1ヶ月分?それ以上?
ナミ~~~~~~(T0T)いけ~~~~~つっこめ~~~~~!!
いやぁ、一気に読んでしまいましたよ。
1ヶ月分?それ以上?
ナミ~~~~~~(T0T)いけ~~~~~つっこめ~~~~~!!
NoTitle
おお、ナミ来ましたね!!
ナミがどうしてくれるのか楽しみですね(*´ω`)良い方にも悪い方にもw
ナミがどうしてくれるのか楽しみですね(*´ω`)良い方にも悪い方にもw
Re: ねみさん
エリカちゃんはこんな事態でなにをされても動じないような、もっと度胸と根性のある人のはずだったんですけど。(わざと話をずらす(笑))
とはいえ、エリカちゃん、ナミ、ヴァリアーナ夫人と、これ以上この小説で度胸と根性のある女性を出してどうするんだという話も(笑)。
とはいえ、エリカちゃん、ナミ、ヴァリアーナ夫人と、これ以上この小説で度胸と根性のある女性を出してどうするんだという話も(笑)。
NoTitle
あいからわずおいしいとこだけもってくなぁ、ナミさんは。
なしてっ!
個人的にはもう少しエリカさんをですねぇ(自重というか自粛
なしてっ!
個人的にはもう少しエリカさんをですねぇ(自重というか自粛
Re: ぴゆうさん
わーい、おみやげだー(^^)
おひねりだー(←ないって(^^;))
さてこのままかっさいのうちに終わるか、またはブーイングの嵐になるか、どきどきしながら、連載終了まであと8日。世の中を悲観的に考えたがるやつであった(爆)
おひねりだー(←ないって(^^;))
さてこのままかっさいのうちに終わるか、またはブーイングの嵐になるか、どきどきしながら、連載終了まであと8日。世の中を悲観的に考えたがるやつであった(爆)
Re: limeさん
味方というか。
エリカの目の力に絡め取られて逃げられなくなっているというか(^^;)
エリカの目の力に絡め取られて逃げられなくなっているというか(^^;)
NoTitle
ナミ~~。
待ってました!
やっておしまい!
・・・って、ナミは味方でしたよね。
(ちょっと自信が・・・・)
待ってました!
やっておしまい!
・・・って、ナミは味方でしたよね。
(ちょっと自信が・・・・)
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: 椿さん
ほんとは夜の事件にするはずだったんですが……(^^;)