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    「ショートショート」
    ミステリ

    償い

     ←幻想の球音 →一見本格風
     ぼくは、飛行機の窓から雲海を見ながら、ひとり、傷心ゆえの物思いにふけっていた。
     彼女のことを考えると、それだけで胸から血が流れるようだった。運転の不注意から、生まれて初めてできたぼくの恋人は……。
     ショックで仕事もなにも手につかなくなったぼくに、彼女の父親は、一組の往復航空券を手渡した。
    「東洋の真珠、シンガポールまでの切符だ。行って、心を癒してくるんだな」
     その言葉に、ぼくは甘えることにした。かくして、ぼくは、機上の人となったわけだ。
     彼女の死は、ぼくのせいだ。
     ぼくが酒さえ勧めていなければ……。

     税関。
     ぼくは列の中で、順番を待っていた。海外旅行ではいつもこうだ。もっとスピードを上げる手段はないのかと思う。
     順番が来た。
     ぼくの顔を見たとたん、税関吏の顔が、サッとこわばるのが感じられた。なにがあったのだ?
     荷物を開けて中を見せる。税関吏が、てきぱきと改めた。その手に、カッターが光った。カッターなんてなにに使うんだろう?
     次の瞬間、税関吏が、叫び声を上げた。
     その手に握られていたのは、白い粉が入った袋だった。
     どういうことだ! ぼくのじゃない!
     叫ぼうと思ったとき、屈強な警察官が、ぼくの身体を拘束していた。

     拘置所に移されたぼくが、まだぼんやりとしている頭で考えたところによると、どうやら罠にはめられたらしい。
     罠を企んだ人間は、日本にいた。たぶん、ぼくの荷物が入ったトランクに、あらかじめ二重底を作っておき、その中に麻薬を入れたのだろう。ぼくが日本の税関を突破して、空港を飛び立ってから、シンガポールの当局に密告したというわけだ。
     なぜ、そんなことをしたのか?
     これにも、推察はついた。ぼくがかつてなにかの本で読んだところによると、シンガポールでは、ヘロインを十五グラム以上密輸したものは、理由のいかんにかかわらず死刑なのだ。
     ぼくの死を願っている人間は、少なくとも何人かはいた。そのうちの誰、とは考えないことにした。
     なぜなら、ぼくは平静とした気分の中にいたからだ。
     これでようやく、ぼくは彼女のもとに行けるのだ。
     ぼくは喜んで死刑になるだろう……。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    この作品は、法にひっかからないで命を奪う手段はなにかないかと考えて作ったものです。
    海外で現地の非合法業者とかを雇えば不確定ですし逃げてこられるおそれもありますが、日本でなにも知らない人間のところにヘロインを仕込めば、後はシンガポールの法律が代わりにやってくれるという寸法で。
    もっとも税関をどう突破するかは問題ですが、「入ってくる」のに対し「出て行く」のはさほどチェックも厳しくないだろうと。
    もうちょっとうまく書けばいい線いったかと思うのですが、1年間はブログの毎日更新を誓ったもので、思いついたアイデアは即ショートショートにするという綱渡り的毎日の犠牲に……(^^;)

    NoTitle

    意外にぶっとばした内容のSSで面白いですね。
    どうもLandMです。
    読み解いてみると……結構面白いような気がします。こういう結末も結構興味深い……ということが主眼にあるような気がします。
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