「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 16-3
ナミは反射的にエリカを突き飛ばした。
頭上から、天井に飾られていた空飛ぶ神々たちの像が落ちてきたのはまさにその瞬間だった。
「ナミ!」
エリカは、青ざめた顔で叫んだ。
そのふた抱え以上もある大きな像は陶器と鉄で作られていた。鉄の重さは、ついさっきまでナミたちがついていたテーブルを粉砕していた。
そのような重量物の直撃を食らっては、いかにナミが鍛え上げられた身体を持っていたとしても、無事でいられるわけがなかった。
背骨を粉砕されたのか、肋骨が肺に刺さったのか、ナミは自分を下敷きにした像から逃れようと、手だけを使って、血を吐きながら床を這っていた。
だが、それも無益だった。
落下の衝撃で粉々になった陶器の部分から、流れ出していたのは、まぎれもなく油だった。そうとう燃えやすい油だったらしい。南国には油分を大量に含んだ植物があるそうだが、その油だろうか。それは、封蝋をするためテーブルに置かれた蝋燭の火を受けて、あっという間に燃え上がった。
ナミは……。
身体を炎に焼かれながらも、笑っているようだった。
「たかが女ひとりの命のために帝国を失うなんて……」
ガスの耳にも、アクバの耳にも、ここにいる人間たち全員の耳に、その言葉ははっきりと聞こえた。
それがナミの最期の言葉だった。
同じく身体を火に巻かれているものが、あとふたりいた。
「ひひひひひ、ひひひひひ、ひひひひひ!」
すっかり狂人、いや廃人と化したヴェルク三世は、身体を燃え上がらせながらもけたたましく笑っていた。
「ひひひひひ、トイス、トイス、熱いぞ、熱いぞ、バル、蜜酒を持ってこさせろ、ひひ、ひひ、ひひひひひ!」
炎に巻かれているもうひとりは、ヴァリアーナ夫人だった。
「熱い! 熱い! 助けて! 助けなさい! 熱い! ああああああ、熱いいいいい!」
救う価値があるかどうかは別として、そこで焼かれていく三人を救うすべは、エリカにも、ここにいる誰にもなかった。
その姿を立ち尽くして見ていたエリカは、なおも逃げようとしている男に目を向けた。
「ガムロス……あなただけは許さない……」
顔を蒼白にしながらも、すらりと立ったその姿は、見るものに強い印象を与えた。
「バルテノーズ家に味方するものよ。あの男を無傷で捕らえなさい。捕らえたら……」
エリカの声は氷より冷たかった。
「死よりもなお苦しい罰を与えるのです」
炎は教会じゅうに回りつつあった。

頭上から、天井に飾られていた空飛ぶ神々たちの像が落ちてきたのはまさにその瞬間だった。
「ナミ!」
エリカは、青ざめた顔で叫んだ。
そのふた抱え以上もある大きな像は陶器と鉄で作られていた。鉄の重さは、ついさっきまでナミたちがついていたテーブルを粉砕していた。
そのような重量物の直撃を食らっては、いかにナミが鍛え上げられた身体を持っていたとしても、無事でいられるわけがなかった。
背骨を粉砕されたのか、肋骨が肺に刺さったのか、ナミは自分を下敷きにした像から逃れようと、手だけを使って、血を吐きながら床を這っていた。
だが、それも無益だった。
落下の衝撃で粉々になった陶器の部分から、流れ出していたのは、まぎれもなく油だった。そうとう燃えやすい油だったらしい。南国には油分を大量に含んだ植物があるそうだが、その油だろうか。それは、封蝋をするためテーブルに置かれた蝋燭の火を受けて、あっという間に燃え上がった。
ナミは……。
身体を炎に焼かれながらも、笑っているようだった。
「たかが女ひとりの命のために帝国を失うなんて……」
ガスの耳にも、アクバの耳にも、ここにいる人間たち全員の耳に、その言葉ははっきりと聞こえた。
それがナミの最期の言葉だった。
同じく身体を火に巻かれているものが、あとふたりいた。
「ひひひひひ、ひひひひひ、ひひひひひ!」
すっかり狂人、いや廃人と化したヴェルク三世は、身体を燃え上がらせながらもけたたましく笑っていた。
「ひひひひひ、トイス、トイス、熱いぞ、熱いぞ、バル、蜜酒を持ってこさせろ、ひひ、ひひ、ひひひひひ!」
炎に巻かれているもうひとりは、ヴァリアーナ夫人だった。
「熱い! 熱い! 助けて! 助けなさい! 熱い! ああああああ、熱いいいいい!」
救う価値があるかどうかは別として、そこで焼かれていく三人を救うすべは、エリカにも、ここにいる誰にもなかった。
その姿を立ち尽くして見ていたエリカは、なおも逃げようとしている男に目を向けた。
「ガムロス……あなただけは許さない……」
顔を蒼白にしながらも、すらりと立ったその姿は、見るものに強い印象を与えた。
「バルテノーズ家に味方するものよ。あの男を無傷で捕らえなさい。捕らえたら……」
エリカの声は氷より冷たかった。
「死よりもなお苦しい罰を与えるのです」
炎は教会じゅうに回りつつあった。
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~ Comment ~
お悔やみ。
ああー。ナミが死んでしまった!
悔しい。
僕らの無敵のヒロインだと思ってたのに!
死に際のドラマもなくあっけなく。
こんなものなのですね。
エリカちゃんを救ったのだから犬死にではなかったってことで。
今は慎んでお悔やみ申し上げます。
悔しい。
僕らの無敵のヒロインだと思ってたのに!
死に際のドラマもなくあっけなく。
こんなものなのですね。
エリカちゃんを救ったのだから犬死にではなかったってことで。
今は慎んでお悔やみ申し上げます。
NoTitle
えええええええ。
ナミ~~。
ナミは最後までしぶとく生きると思ったのに~~。
夢はどうした~~。
このあと、どうなるんでしょう。
ハッピーエンドはありえないかな・・・
ナミ~~。
ナミは最後までしぶとく生きると思ったのに~~。
夢はどうした~~。
このあと、どうなるんでしょう。
ハッピーエンドはありえないかな・・・
ナミーッ!!(ToT)
まさかガスくんより先に逝くとは…。←
ナミにはしぶとく90才ぐらいまで生きてほしかったなぁ。
魅力的なヒロインの退場は寂しいですね…。
さて、あと何人ナミに続くのかな?(マテ)
まさかガスくんより先に逝くとは…。←
ナミにはしぶとく90才ぐらいまで生きてほしかったなぁ。
魅力的なヒロインの退場は寂しいですね…。
さて、あと何人ナミに続くのかな?(マテ)
- #3884 ミズマ。
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- 2011.04/21 07:41
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Re: みなさん
ナミが死ぬことは書き始める前から決めていました。
無敵のような登場人物をあっけなく殺してしまうのは、わたしの一種の美学……というより「信念」ですね。
普通の小説なら死ぬ死なないで一週間くらい引っ張るのでしょうが。
また、この話、ここまで人を殺しておいて「バラ色のハッピーエンド」はありえません。完全なバッドエンドでもないと作者は信じておりますが。
とにかく26日の最終回までお読みいただきたく存じます。もしかしたら、最後の4日は(26日は2回ぶん更新)、ためておいて一気に読んだほうがいい……かもしれません。