「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 第三部 16-4
「公爵閣下、ガムロスはお任せください! それよりも、お身体を! ナミ殿が身を捨てて守ってくれたお命ではありませんか!」
アクバは叫んだ。
「わたしはナミに詫びねばなりません」
エリカの顔は蒼白を通り越して土気色になっていた。
「わたしはあの男にかすり傷を負わされました……毒です。この効き目の速さと症状からいって、ゼバの毒でしょう。これに対する解毒剤はありません。もはや、立っているのも難しいのです……」
「閣下!」
「ガス」
エリカは、アクバに支えられたこの忠実なる男にいった。
「あなたに、最期の頼みが、裏切り者などと二度と呼ばせないための頼みがあります。ナミのかわりに、このスワルヴェ族の男たちを訓練し、率い、新天地目指して旅立ちなさい。そうですね、準備には長くても十年はかからないでしょう。そして、その斧、『裏切り』は捨てなさい。あなたが運命から解き放たれ、新生するそのしるしとして」
エリカの衣服に火が燃え移った。
「公爵家は、遠縁のものに譲りなさい。確か、傍系の男爵家に、フェルドという男の子がいたはずです。その子を養子にし、アクバ、あなたが高級貴族としての教育を行うのです。わたしのような魔女よりも、立派に公爵家を……」
天井が落ちてきた。
アクバにできたことは、他の者たちとともに、教会を脱出することだけだった。
すすと焼け焦げだらけの制服を着た、バルテノーズ家の家士がやってきた。
「ガムロス大司教は、礼拝堂に逃げ込もうとしていたところを捕らえました。サシェル男爵とその妻も保護しましたが、自分の見るところ、どっちも完全に発狂しています」
「ごくろう」
アクバはそれだけをいった。
アクバは空を見た。強い南風……。
「『セラーラの恵み』か……春を告げるこの風が、まるで悪魔の嵐に見える……」
バルテノーズ家の家士が、消防のためにすでに周囲の建物の破壊にかかっていたが、そのようなものでは、この火の勢いはおさまるものではなかった。
「アクバ……」
ガスが苦しい息の下からいった。
「メアを頼む……お前も、あの娘に……」
「その話は後です。まずは安全な場所へ」
アクバはガスを引きずってこの場から遠ざかろうとした。
「わがままをいっていいか……」
「なんですか」
「どこか高いところへ連れて行ってくれ。ナミやエリカやおれたちの執念のこもったこの街が……紅蓮に染まるのを見ていたい……」

アクバは叫んだ。
「わたしはナミに詫びねばなりません」
エリカの顔は蒼白を通り越して土気色になっていた。
「わたしはあの男にかすり傷を負わされました……毒です。この効き目の速さと症状からいって、ゼバの毒でしょう。これに対する解毒剤はありません。もはや、立っているのも難しいのです……」
「閣下!」
「ガス」
エリカは、アクバに支えられたこの忠実なる男にいった。
「あなたに、最期の頼みが、裏切り者などと二度と呼ばせないための頼みがあります。ナミのかわりに、このスワルヴェ族の男たちを訓練し、率い、新天地目指して旅立ちなさい。そうですね、準備には長くても十年はかからないでしょう。そして、その斧、『裏切り』は捨てなさい。あなたが運命から解き放たれ、新生するそのしるしとして」
エリカの衣服に火が燃え移った。
「公爵家は、遠縁のものに譲りなさい。確か、傍系の男爵家に、フェルドという男の子がいたはずです。その子を養子にし、アクバ、あなたが高級貴族としての教育を行うのです。わたしのような魔女よりも、立派に公爵家を……」
天井が落ちてきた。
アクバにできたことは、他の者たちとともに、教会を脱出することだけだった。
すすと焼け焦げだらけの制服を着た、バルテノーズ家の家士がやってきた。
「ガムロス大司教は、礼拝堂に逃げ込もうとしていたところを捕らえました。サシェル男爵とその妻も保護しましたが、自分の見るところ、どっちも完全に発狂しています」
「ごくろう」
アクバはそれだけをいった。
アクバは空を見た。強い南風……。
「『セラーラの恵み』か……春を告げるこの風が、まるで悪魔の嵐に見える……」
バルテノーズ家の家士が、消防のためにすでに周囲の建物の破壊にかかっていたが、そのようなものでは、この火の勢いはおさまるものではなかった。
「アクバ……」
ガスが苦しい息の下からいった。
「メアを頼む……お前も、あの娘に……」
「その話は後です。まずは安全な場所へ」
アクバはガスを引きずってこの場から遠ざかろうとした。
「わがままをいっていいか……」
「なんですか」
「どこか高いところへ連れて行ってくれ。ナミやエリカやおれたちの執念のこもったこの街が……紅蓮に染まるのを見ていたい……」
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- 紅蓮の街 エピローグ-1
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~ Comment ~
NoTitle
壮絶な終章。
圧倒されました。
ナミさん、ああ死ぬとは……。でも、彼女も優しいところもある人でした。とても彼女らしかったのかも。
エリカちゃん、いろいろ無念だったろうなあ。
タイトルはここに結びついていたのですね。
すごかったです。
圧倒されました。
ナミさん、ああ死ぬとは……。でも、彼女も優しいところもある人でした。とても彼女らしかったのかも。
エリカちゃん、いろいろ無念だったろうなあ。
タイトルはここに結びついていたのですね。
すごかったです。
- #14595 椿
- URL
- 2014.11/20 18:03
- ▲EntryTop
Re: れもんさん
世の中そういうものなのです。
それでも人間は生きていかなければならないのです。
エピローグではそんな人間たちが描かれます。
あと3日、どうかおつきあいください。
それでも人間は生きていかなければならないのです。
エピローグではそんな人間たちが描かれます。
あと3日、どうかおつきあいください。
NoTitle
ちょ、ナミぃいいエリカ・゚・(つД`)・゚・ ウェ―ン
まとめて読んだんですが、わあああ(ry
まさかナミが死ぬとは思わなかったので、衝撃的でしたw
まとめて読んだんですが、わあああ(ry
まさかナミが死ぬとは思わなかったので、衝撃的でしたw
Re: 矢端想さん
エリカちゃんはねえ……もともと「エリカとナミが死ぬシーン」から逆算して話を作ってきましたので。
「悲劇」を書こうと思って書き始めたのですが、うまくいかなかったようです。
本来の筋書きではエリカちゃんは「美少女薄命処○のまま」ではなかったんですが、「全年齢対象」でそういうシーンを入れるわけにはいかなかった、というのもあります。カオパラやアルファポリスから放逐されてしまいますもん。
「悲劇」を書こうと思って書き始めたのですが、うまくいかなかったようです。
本来の筋書きではエリカちゃんは「美少女薄命処○のまま」ではなかったんですが、「全年齢対象」でそういうシーンを入れるわけにはいかなかった、というのもあります。カオパラやアルファポリスから放逐されてしまいますもん。
NoTitle
なになにポールさん、ナイーヴな高校生とちがって私は平気ですよ。(←もともと冷たい人間。)
確かに仕方がない。ナミぐらいの業になると生きて大団円など許されない。
でもエリカは・・・「魔女」の宿命?
物語的にはアリですが・・・もう「悲劇のヒロイン」としか僕には・・・。
(「美少女薄命〇女のまま」ってフレーズがありましたね・・・もったいない。かわいそう。合掌。)
確かに仕方がない。ナミぐらいの業になると生きて大団円など許されない。
でもエリカは・・・「魔女」の宿命?
物語的にはアリですが・・・もう「悲劇のヒロイン」としか僕には・・・。
(「美少女薄命〇女のまま」ってフレーズがありましたね・・・もったいない。かわいそう。合掌。)
Re: 矢端想さん
すみません矢端想さん。こうなることは先ほども書いたように書く前から決まっていました。
エリカもナミも、自分に負いきれる以上の『業』を背負ってしまったのでしょう。
そう思ってこらえてください。
エリカもナミも、自分に負いきれる以上の『業』を背負ってしまったのでしょう。
そう思ってこらえてください。
Re: ねみさん
繰り返しますが、みんなしてあれだけ人を殺しておいて「バラ色のハッピーエンド」を迎えたらウソです。
主役のふたりが死ぬことは書く前から決めていました。
これを書きたくて書いていたといってもいいでしょう。
明日からはエピローグです。
主役のふたりが死ぬことは書く前から決めていました。
これを書きたくて書いていたといってもいいでしょう。
明日からはエピローグです。
NoTitle
まあまあ、ネミエルさん、
世は無常。非情。
それを投影するのが物語。
物語とはこういうもの。
そんな物語でも、意味はある。
(↑ 大人の対応)
世は無常。非情。
それを投影するのが物語。
物語とはこういうもの。
そんな物語でも、意味はある。
(↑ 大人の対応)
NoTitle
何でやねぇぇえええええんん!!!!
はぁっ、はぁっ!
えぇっ!?
なんでやねんぇええんっ!!
エリカさぁああんん!!!!
はぁ、少し熱くなりすぎてしまいました。
なんでやねんっ!
はぁっ、はぁっ!
えぇっ!?
なんでやねんぇええんっ!!
エリカさぁああんん!!!!
はぁ、少し熱くなりすぎてしまいました。
なんでやねんっ!
Re: ぴゆうさん
本来はここがラストシーンになるはずでした。
わたしの中で、この小説の主人公はあくまでも「ナミとエリカ」でありますので……。
ここできれいに終わらせられなかったのがわたしの物語作家としての限界かもしれません(^^;)
わたしの中で、この小説の主人公はあくまでも「ナミとエリカ」でありますので……。
ここできれいに終わらせられなかったのがわたしの物語作家としての限界かもしれません(^^;)
Re: limeさん
次からはエピローグです。
まあちびちび読んでも一気に読んでも内容は変わりませんが……(^^;)
まあちびちび読んでも一気に読んでも内容は変わりませんが……(^^;)
NoTitle
エンディングに向けて、展開が鮮やかになりましたね。
なるほどこれは、溜めて一気に読んだ方がいいのかも。
でも、少しずつ更新というブログ小説。この緩急の調節が難しいところですよね。
楽しみに読んで行きます。
なるほどこれは、溜めて一気に読んだ方がいいのかも。
でも、少しずつ更新というブログ小説。この緩急の調節が難しいところですよね。
楽しみに読んで行きます。
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Re: 椿さん
ここらがわたしの限界のようです。(^_^;)