「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第三部 殺戮の春
紅蓮の街 エピローグ-1
エピローグ 三十年後、予兆の夏ふたたび
これが、「沈黙の秋」と「非情の冬」、そして、ベイウルコスの言葉を借りれば「殺戮の春」とでも呼ぶべき季節に起こった出来事のあらましのうち、わたし、バルテノーズ家家令のアクバ・アルクマーの知ることの全てである。
このときの火災は終末港のおおよそ三分の一を焼いた。秋、冬と生き延びてきたものたちの上に、さらなる災厄が舞い降りたというわけだ。
犠牲者数は、秋口からの餓死、病死、凍死、殺人、人肉食、焼死などを全て合わせると、控えめに見積もって四万人以上。終末港は、その人口の十分の一にあたる数の人命を失ったのである。
見かたによれば、これは少ないほうかもしれない。火災の翌日、雪害の及ばなかった南方から食糧や油といった物資を満載して帰ってきたバクソス船長率いる船団の存在がなければ、犠牲者数はさらに増えていただろう。
とにかく、この火災をなんとかするのと同時に、政治的な権力が混乱状態に陥るのを避けることが急務の課題だった。イルミール家、ガレーリョス家、そしてバルテノーズ家の当主たち全てが死ぬか廃人になってしまった以上、残されたものたちで一刻も早く善後策をまとめなければ、なによりも恐ろしい、無政府状態が訪れていただろう。
ゴグがあの場でガムロスとヴァリアーナに毒を盛られていたのは、しかも筋肉の力を失わされる毒で、耳と目についてはまったく冒されていなかったのはある意味幸いだった。運よくカルモラスの薬酒が効いて身体の自由を取り戻したゴグは、わたしたちバルテノーズ家残党と当座の和解をし、ともに協力することを約してくれたのだから。
そのときにまとめられた和解案を簡単に説明すると、こうなる。
すべてはガムロス大司教が、この街、終末港を支配しようとして、卑劣にもガレーリョス家とバルテノーズ家の当主をいちどきに殺そうと、聖なる教会に火を放った結果である。ヴェルク三世は、か弱い公爵閣下と、自分の母を陰謀から守ろうとしたものの、力及ばずして焼死。ガスとゴグは、共闘して奮闘の末、陰謀家ガムロスの捕縛に成功。嘘でもつかなければ、とうていおさまる話ではなかった。
件の婚姻は、見届けるはずの聖職者が腐敗堕落の徒であったことから破談。バルテノーズ公爵家は、遠縁のフェルド・エルム・バルテノーズ公子が相続し、ガレーリョス伯爵家は、ヴェルク三世の弟であるアルビヌスが相続することになった。アルビヌスがどれだけ、あの悪魔のような女の血を引いているのかはわからないが、後見人は天下に名高い武人のゴグなのだ。あれから三十年、アルビヌスは不正を憎み正義を愛する、堂々とした伯爵家当主ぶりを示している。実に喜ばしい。

これが、「沈黙の秋」と「非情の冬」、そして、ベイウルコスの言葉を借りれば「殺戮の春」とでも呼ぶべき季節に起こった出来事のあらましのうち、わたし、バルテノーズ家家令のアクバ・アルクマーの知ることの全てである。
このときの火災は終末港のおおよそ三分の一を焼いた。秋、冬と生き延びてきたものたちの上に、さらなる災厄が舞い降りたというわけだ。
犠牲者数は、秋口からの餓死、病死、凍死、殺人、人肉食、焼死などを全て合わせると、控えめに見積もって四万人以上。終末港は、その人口の十分の一にあたる数の人命を失ったのである。
見かたによれば、これは少ないほうかもしれない。火災の翌日、雪害の及ばなかった南方から食糧や油といった物資を満載して帰ってきたバクソス船長率いる船団の存在がなければ、犠牲者数はさらに増えていただろう。
とにかく、この火災をなんとかするのと同時に、政治的な権力が混乱状態に陥るのを避けることが急務の課題だった。イルミール家、ガレーリョス家、そしてバルテノーズ家の当主たち全てが死ぬか廃人になってしまった以上、残されたものたちで一刻も早く善後策をまとめなければ、なによりも恐ろしい、無政府状態が訪れていただろう。
ゴグがあの場でガムロスとヴァリアーナに毒を盛られていたのは、しかも筋肉の力を失わされる毒で、耳と目についてはまったく冒されていなかったのはある意味幸いだった。運よくカルモラスの薬酒が効いて身体の自由を取り戻したゴグは、わたしたちバルテノーズ家残党と当座の和解をし、ともに協力することを約してくれたのだから。
そのときにまとめられた和解案を簡単に説明すると、こうなる。
すべてはガムロス大司教が、この街、終末港を支配しようとして、卑劣にもガレーリョス家とバルテノーズ家の当主をいちどきに殺そうと、聖なる教会に火を放った結果である。ヴェルク三世は、か弱い公爵閣下と、自分の母を陰謀から守ろうとしたものの、力及ばずして焼死。ガスとゴグは、共闘して奮闘の末、陰謀家ガムロスの捕縛に成功。嘘でもつかなければ、とうていおさまる話ではなかった。
件の婚姻は、見届けるはずの聖職者が腐敗堕落の徒であったことから破談。バルテノーズ公爵家は、遠縁のフェルド・エルム・バルテノーズ公子が相続し、ガレーリョス伯爵家は、ヴェルク三世の弟であるアルビヌスが相続することになった。アルビヌスがどれだけ、あの悪魔のような女の血を引いているのかはわからないが、後見人は天下に名高い武人のゴグなのだ。あれから三十年、アルビヌスは不正を憎み正義を愛する、堂々とした伯爵家当主ぶりを示している。実に喜ばしい。
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回顧録だったのか・・・
むぅ~~
読ませるなぁ、まだ知られていない秘密があるのかな。
そう云えばクワルス芋と博士はどうなったのかな?
むぅ~~
読ませるなぁ、まだ知られていない秘密があるのかな。
そう云えばクワルス芋と博士はどうなったのかな?
- #3903 ぴゆう
- URL
- 2011.04/23 07:41
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Re: ぴゆうさん
もちろん博士の「その後」も出てきます。
「知られていない秘密」は……一部を除き特にありません。でも作者のほうが忘れているかもしれん(笑)