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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第三部 殺戮の春

    紅蓮の街 エピローグ-4

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     ガレーリョス家の内実については、今はオルロス伯領に小さな農園を営む、もとガレーリョス家家令のバルが、ささやかな金銭的援助の代わりに、いやというほどしゃべってくれた。ゴグから聞いたこともいくつかあるが、わたしのこの作品におけるヴェルク三世の人物像はバルから聞いたことだけでできているといっても過言ではない。

     エリカ・バルテノーズ公爵閣下については、閣下が詳細な日記をつけていたのが大いに参考になった。本来ならば、家臣が見るべきものではないのかもしれないが、公爵閣下は、わたしをはじめ家士の誰にも、「日記を見るな」と命令してはいない。だからわたしは読み、自分の記録に活かしているというわけだ。貴族の家に仕える家令ともなると、そのくらいの融通は平気できかせるようになってしまうものである。

     なぜ、あのときわたしは燃える炎に飛び込んで公爵閣下を救わなかったかだが、たぶん、毒が閣下の身体に回り、死に近づいていたため、閣下の能力もそれと同時に弱くなっていたからだろう。閣下が亡くなってしまった以上、それくらいの憶測しかできない。

     ナミについては……。

     この女が、いったいなにを考えていたのかは、わたしの想像の範疇を遥かに超えている。そもそも、東の果てに新天地があるという話自体が、真実なのか、ナミの妄想なのか、ナミがスワルヴェ族をたぶらかすためについた嘘なのかすらわたしにはわからないのだ。公爵閣下に口づけをしたのも然り。閣下を怒らせるためにやったのか、ただの冗談か、それとも好意をもっていたのかもわからない。

     そのような女には、行動だけしか記述の参考にできるものはなかった。そのため、ナミの内面に関する描写は、一切存在しない。ナミのいった言葉にしろ、すべて、わたしやガスやゲイロ、それにアグリコルス博士といった、その場の証人から聞いたことをもとにしたものだ。ちなみにアグリコルス博士は体力の限界を感じたのか、終末港にとどまって、弟子の育成とクワルス芋、いや今ではエリカ芋と呼ばれる芋の栽培に尽力し、二十年を生きた。その葬儀は市をあげてのものだった。大往生だったと思う。

     ナミが腹の底ではなにを考えていたにしろ、ゲイロの言葉によれば、エリカ公爵閣下の署名のついた誓約書は、ナミが肌身離さず持っていたそうだ。もちろんあの日も。誓約書が灰になってしまった以上、わたしたちにできることは、公爵閣下の命令を遵守することだけだった。公平に見て、公爵閣下はナミの遺志をある程度は叶えたのではないかと思う。

     冒頭に書いた農民たちの寄り合いについては、終末港に流れ、難民として住み着いたもと農夫から聞いたものである。

     家令としての職務は、決して暇ではない。そんなわけで、こうして書き上げるのに三十年も経ってしまった。思えば長い年月であった。

     そして……。

     今も、わたしはゴグと会っている。お互い、髪は白くなったものの、ゴグは大鎚を携えてきては、毎年、夏至の日に、港でもっとも高い塔の鐘楼に登ることをやめない。そしてわたしもそうなのだ。塔のてっぺんの見晴し台に立ち、互いに無言で、海の果てを見る。そこに、ガスを乗せた船がやってくるのではないかと、一抹の期待をもって。

     常識的に考えれば、ガスたちの船は、あてもない航海の末に、食糧も物資も尽きて沈むか幽霊船と化してしまったと考えるべきなのだろうが、わたしもゴグも、どこかでガスを信じているのだ。ガレーリョス家を裏切り、イルミール家を裏切り、エリカ・バルテノーズ公爵の期待も裏切ったこの男について回る、『裏切り』という宿命が、エリカ公爵閣下のお言葉通り、あの斧とともに消えてなくなったことを確かめたいのだ。

     妻と孫とが呼んでいる。わたしもここで筆を措こう。



               アクバ・アルクマー



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