FC2ブログ

    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第三部 殺戮の春

    紅蓮の街 千年後

     ←紅蓮の街 エピローグ-4 →紅蓮の街 あとがき
    千年後



     砂浜。幼い弟と、それよりはいくらか大きな兄とが、笑いながら裸足で歩いていた。

     その兄弟が砂浜を遊び場にしていたのには、立派な実用的な目的があった。

    「お兄ちゃん! これ、お金になるかなあ」

     年端も行かない弟が、両手で、浜に打ち上げられたなにか大きなものを抱え上げた。

     数歳年上の兄は、弟の拾ったものを見て、ふん、と鼻を鳴らした。

    「馬鹿だなあ。こんな壊れた、下手糞な木彫りなんて、銅貨一枚にもなるわけないだろ」

    「でも、ここに彫られた女の人、すごくきれいな顔をしてるよ」

    「そりゃそうだよ、教会で見ただろう、聖エリカ様だよ。飢饉のときにお祈りすると、お芋を大きくしてくれるあのかたじゃないか。そんな像なんて、どこにだって売ってるよ。重いし、捨てちゃえよ」

    「ふうん、でも、お兄ちゃん」

     弟は首をひねった。

    「一緒になにかを支えている、男の人と女の人は、いったい誰なんだろう? そんなお話、聞いたことないよ」

     兄はますます弟を馬鹿にした目で見た。

    「聖エリカ様の話は、いろいろな町や村に伝わっているから、おれたちが知らない人がつけ加わっても、別に驚くようなことじゃないだろ」

     弟はさらに首をひねった。

    「じゃあ、お兄ちゃん」

     像を重そうにひっくり返したり戻したり、ためつすがめつしながら、弟はなんでも知っている兄に尋ねた。

    「この像は、どこから流れて来たの?」

     兄はこう答えるしかなかった。

    「そんなこと、知るもんか!」

     そう、たしかに、『大陸』の人間たちは、なにも知らない。

     知っているのは、全ての秘密を沈黙のうちに守る、この夏至の海だけである……。



    紅蓮の街 了


    矢端想さんイラスト!
    イラスト:矢端想さん


    関連記事
    スポンサーサイト






     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    もくじ  3kaku_s_L.png X氏の日常
    もくじ  3kaku_s_L.png 読書日記
    【紅蓮の街 エピローグ-4】へ  【紅蓮の街 あとがき】へ

    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    このほかに、ミもフタもない解説記事とあとがき、それにキャラクターみんなそろっての打ち上げどんちゃん騒ぎ、加えて後日談にあたる「外伝」のショートショートが30編ほどありますので、ちびちび読んでいただければ……(^_^)

    NoTitle

    おつかれさまでした。

    すごく面白かったです。毎日、のめりこんで読んでいました。
    最後を読んでいて、いつかこの大陸に住む人たちが海の向こうと自由に行き来する日が来るのかなあ、とかいろいろ考えてしまいました。

    素敵な物語を、ありがとうございました!

    Re: blackoutさん

    寝食を忘れて読んでいただけるなんて、作者みょうりにつきますね。

    えー、この後で、主要キャラクターたちによる打ち上げパーティーがありますから、ぜひそちらものぞいてみてください(^_^)

    読み終わりました
    面白かったですね

    また、自分の中に新たな触発が生まれたようです

    しかし、こんな時間まで読み続けていたとはw

    Re: fateさん

    ナミは詐欺師で人殺しで根性が悪くて他人のものを奪うことなどなんとも思わない悪魔のような女なのですが、もうどうしようもないロマンチストなのです。中にそういうものを秘めているから、ついてくる人がいるのです。

    ナミがエリカの持つ権力と財力とに憧れていたと同様、エリカもナミのもつそのロマンチストとしての夢に憧れていたのかもしれません。

    まあ、ふたりがこうして地上からいなくなった今、出てくるとしたら回想シーンかおちゃらけショートショートくらいでしょうが……。

    このすぐ後に、登場人物たちによる「打ち上げパーティー」という名の「乱痴気騒ぎ」があるのですが、イメージを大切にしたいかたは読む前にご配慮を(^^)

    それにしても読むのが早いですね……(汗) いつか追いつかれてしまうかなあ(^^;)

    感慨深いラストでしたね~

    結局、ナミの心の内は多くは語られませんでしたね。
    結局、彼女は一人の女のために命を落とした。
    最後に彼女の真髄を貫いたということでしょうか。
    情熱を抱いて、なすべき成し、突き進む人は、ある意味ヒトの心を捨てなければ目的を達成できない苦しさはあるけど、ヒトの心を捨てた人間に人はついては行かない。人を集め、心から従わせ、共に歩むためには一番底の底に、人であり続ける‘愛’を置いておかなければ。

    エリカもナミも最後は同じに見えました。
    そして、人が滅びても歴史は永らえて、町も海もそこに在る。
    心が滅びなければ、それは続いていくのだ。

    そんな深い感慨が残りました。
    しかし、この大作、お疲れさまでした~という感じです。
    ありがとうございました。

    Re: れもんさん

    おつきあいいただいてどうもありがとうございました!

    毎回、3枚のどこかに「盛り上がり」をつけるのはたいへんでした。それが「急展開」になったのかもしれません。

    終幕を気に入っていただけたのはうれしいですね♪

    カラフル・マジックのほうも楽しみにしてますね~♪

    そして、明日の更新ではひんしゅくものの内容が……(笑)。

    NoTitle

    完結おめでとうございます(*´ω`)
    そして大変お疲れさまでした!

    終わり方も素敵でした
    夏至の海だけが知っている…うーん、何だか切ないなぁ。

    ゆったり読んできましたが、急展開がたくさんですごい引きこまれましたv
    本当面白かったです!!

    Re: レオ・ライオネルさん

    ありがとうございます。

    ガスくんの外伝、というかこの話の続編は書きたいけれどなにもビジョンが見えない(^^;)

    まあこの小説も書きあがるまで構想段階から十年以上経ってますから。

    いつか書きたいですね~。

    全ての真相は、「夏至の海」だけが知っているのでありますが、夏至の海はわたしにも秘密を語ってくれなくて(^^)。

    Re: 黄輪さん

    お読みいただいてどうもありがとうございます。

    黄輪さんの「双月世界もの」も楽しく読ませていただいてますよ~。

    600枚で息切れしているわたしなんかよりも遥かに長い大長編をお書きになられるのはさぞやたいへんだろうと思います。

    蒼天剣、ゆるゆると読ませていただきますね~。はやく「火狐伝」に行きたい(^^)

    Re: ねみさん

    はいお茶どすえ(←京都の風習について詳しい人だけ笑ってください。ひでえこと書いたなわたし(^^;))

    まあそれは冗談としても、いまどき普通の戦艦がどーんばばーんではインパクトに欠けるんですよね。

    とんでもない兵器がどーんばばーんする小説のアイデアを考えたことがあったけど、その「とんでもない兵器」にかかわる入門書的な本が見つからなくて断念しました。兵器ではありませんが、その『とんでもない駆動システム』についてはマジに大学で研究されているかたもいるようです。ですが、さすがに無名のブログ小説書きの身分では、教えを請いに行くのもはばかられるしなあ……。

    NoTitle

    長編小説完結
    お疲れさまでした。
    毎日更新するポールさんの物語に下を巻くばかりでした。

    「暗黒街小説」を・・・
    とありますが、ナミやエリカ様たちの思いがポールさんの発想に変化をさせたのかも知れませんね

    今、始めから読み返しているのですが、それが読み終わった後、生き残ったガスの外伝などが読めるかな?
    と、思ってたり

    エリカ様を支える二人の木彫り・・・
    千年後だけどガスが彫ったのかな?
    そう思いました。
    • #3925 レオ・ライオネル 
    • URL 
    • 2011.04/27 01:13 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    連載お疲れ様でした!
    壮絶な戦いと、裏のかき合い。
    読んでみて、一気に引き込まれてしまいました。
    大変面白かったです。

    NoTitle

    お疲れ様でした、ポールさん。
    ナミやガスさんたち。
    大好きです。
    何度も読み返してしまいました。
    受験なのに(笑)
    罪深いですね、ポールさんは。
    なんで夢中にさせるんですかね(笑)

    個人的には次は戦艦とかが
    どーんばばーんとやってくれると嬉しいです。
    本当に。
    そうしたら蒼さんとコラボもしやすいごにょごにょ。

    ポールさんの筆での艦隊戦というのも見て見たいですし。
    それにポールさんの描く兵器の独創性も見て見たいです(笑)

    あくまでも個人的な意見です。
    あまり気になさらないでください。

    ん?
    なんで今回は俺こんなにかしこまってんだ?
    ポール兄さんのおうちだってのにw
    お茶出してください、お茶!

    Re: limeさん

    ありがとうございます。喜んでいただけて、毎日毎日書き続けた甲斐がありました(^^)

    長編、けっこう、書こうと思えば書けるものですよ。案ずるより産むがなんとやらです。

    次の作品ですが、そちらは投稿用にしようと思うので、ブログの小説更新は5月からは月に一回か二回の範子文子と、相互さんの記念ショートショートのみにして、あとはよしなしごとを語る雑日記ブログにしてしまうつもりです。というか、5月以降このブログにショートショート以外の新作の長編とか短編が載ったら、それは「どこかのコンテストでボツになった作品」である可能性が高いと思ってください(笑)。

    祝・完結

    長編完結、おめでとうございますe-420

    ナミが夢見て、そしてガスが追い求めた大陸で幕を閉じるとは、なんとも粋です。
    数多くの殺戮や争い、騙し合い。
    それも歴史の一ページなのだと思うと、兵どもが夢のあと。
    愚かしくも儚い人間たちの群像劇の余韻が、なんとも切なくていいですね。
    楽しい作品でした~。

    あああ、長編、書いてみたい~~~(本音が出た・笑)
    私もポールさんみたいに、書きながら策を練って行くような頭があれば・・・。
    まあいいや。
    短編数珠つなぎで、これからもいくかあ~。

    さて、もう次の作品の構想はあるんですか?
    このあとの、後書き等も楽しみにしています。

    新作には若い男も出してね ψ(`∇´)ψ

    Re: 矢端想さん

    ありがとうございます。

    支えている「なにか」ですが、長い漂流の果てにそこだけ壊れて、なにを支えているのかわからなくなっている、と考えてください。

    余韻を感じていただけたら嬉しいです。

    お祝い? なんだろう。これは全力を挙げてお返しを考えなくてはッ!(ポトラッチかよ(^^;))

    結局経済的状況には勝てず、映画は新宿に行くのをやめて、いくらか近場の松戸の映画館で見てきました。そこがまた音響最悪の映画館で……(^^;) 映画は面白かったけど。

    お疲れ様でした。

    大作をものされましたね。
    本当にお疲れ様でした。

    むかしむかしどこかの国で…。千年後にはすべてがお伽噺のよう。
    彫像、「なにかを支えている」と書いてますが、「なにか」って何でしょう?それは形のないものなのかな。
    余韻の多く残る作品です。キャラクターたちがすっかり身近になったのに終わってしまったのはさみしいですね。

    いずれお祝いをお送りします。いえ、つまらないものです。本当に(汗)

    関係ないけど私は今日から三日間東京出張です。これは携帯から投稿してます。

    Re: ぴゆうさん

    ご評価いただいてありがとうございます。

    最初のころの構想では、人情もなにもない「暗黒街小説」を書くつもりだったのですが、いろいろと方針転換が。

    構成は緻密というよりは、見切り発車で「書きながら考えた」ので、緻密どころではなかったりするのですが(^^;)

    そのへんについては、明日の「あとがき」で内実をちょっとオープンしたいと思います。もしかしたらちと上から目線になってしまっているかもしれませんが、完結して気分高揚しているときに書いたものと思ってお許しを(^^;)

    NoTitle

    終わってしまった。

    終末港で起きた歴史の1ページ。
    その時にガスがいた、ナミがいた。エリカが笑っていた。
    通り過ぎてしまえば夢の跡。
    なのに鮮明に息づかいが今だに聞こえてくる。
    サシェルの骸骨顔がいまだに過る。
    像のエリカを支えるのは紛れもなくガスでありナミだろう。
    いや無辜の民かもしれない。
    余韻がいつまでも残る。

    この作品を語る時、残酷、飢餓、カニバリ、騙し合いとつまらぬ文言は消えてしまう。
    やはり核となるのは人の情だといえる。
    誰もが己を次とした。
    エリカもナミもそしてガスさえも。
    長編大作と呼ぶに相応しいスケール、
    緻密な構成と舞台背景に歴史観。
    本当に楽しかった。
    ポール、お疲れさま。
    最高の作品でした。
    ありがとう。
    v-218
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【紅蓮の街 エピローグ-4】へ
    • 【紅蓮の街 あとがき】へ