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    ささげもの

    ぴゆうさんお返し落語!

     ←蛋白石の宝冠 →ミズマ。さんお返しショートショート!
     ずいぶん前にプロフィール画像とガスくんのイラストを描いていただいたのにこちらからはなにもお返しをしてなかった「五黄猫国往来記」ののくにぴゆうさんにプレゼントするために落語を書く。

     難しいなあ落語!

     ぴゆうさんの小説の設定をもとにしているため、これを読む前にはリンク先からぴゆうさんのところへ飛んで、そのファンタジー小説を、設定集だけでも読まれることをおすすめいたします。

     ではどーん。


    ※ ※ ※ ※ ※



    落語「一六」


     えー、申し上げるまでもありませんが、われわれ猫族というのは神様ではございません。である以上、それなりの楽しみというものがないと生きていけないわけでございますな。ことニャン間の三大悪徳とでも呼ぶべきものといったら、飲む、打つ、食うの三拍子でございまして、酒を飲んでばくちを打ち、うまいものを食ってすごせたらどれだけいいだろう、とは一度くらいは誰でも思うことでございます。まあ、これも天下泰平のおかげでありまして、この天下が傾きでもしたら、ニャン間、「食う」こと以外に何も考えられなくなってしまうものであります。遠く人界では、なにか大変なことが起こって、まさにそういう状態になってしまったそうでありますな。わたくしもよそから聞いただけなのでよく知りませんが、人界の騒動が早くおさまってくれる事を、向こうに住むわれらの親族である猫たちのためにも神様に祈る次第でございます。

     さて、ここからしばらく離れたところにある平傘村というこれといったこともない村に、コロ吉という猫が一匹住んでおりました。

     この猫、腕のいい畳職猫なのですが、名前からもおわかりのとおり、三大悪徳のうちでなにが好きといって、さいころを転がすのが大好き、というやつでございます。もっとも、三度の飯が食えなくなったらさいころを転がすこともできない、ということくらいは心得ていましたから、賭場へ行っても深入りはしない。さいころを振って楽しく遊んだら、ほどほどに負けたところでさっと帰る、という、このままでは落語の主役にもなれないような猫でございます。

    「ふら吉兄貴、団栗銭がなくなっちまったんで、あっしはそろそろ帰りますぜ。最後に残ったこの銭で、あっしのかわりに、みんなに酒をふるまってやっていただきてえんですが」

    「おっ、それじゃ預かっとくぜ、コロ吉。おれは今日は馬鹿みたいにツイてるから、もうちょっと勝負する。月が出ているたあいえ、夜道は暗えから、気をつけて帰るんだぜ」

     帰り支度を始めたコロ吉にそう答えたのは、目の前に団栗銭を山のように積んだぶち猫、ふら吉でございます。この猫も腕のいいふすま職猫で、コロ吉の三軒隣の家に暮らしておりました。昔、コロ吉がさいころ遊びに夢中になり、借りちゃいけないようなところから金を借りようとしたときにぶん殴って止めた男でもございます。それ以来、コロ吉はふら吉を兄貴と呼んで、猫生の師のように慕っておりました。

     賭場で飲んだ酒の酔いに、春の風が心地よい。空には月が白々と輝き、勝手知ったる田舎道、帰るのにもなんの心配もございません。

     いや、ひとつだけ心配事がございました。

    「お幾……」

     コロ吉の隣の家に住んでいる、幼馴染の娘猫、お幾のことでございます。小生意気な子猫と思っていたところ、いつの間にやらたいそう美しい娘になっていたお幾に、コロ吉はすっかり惹かれていたのでございました。

     それとなく言葉を交わしてみたものの、どうもその思いがわからない。自分にまんざらでもないような気もするし、ほかに誰か思っている猫がいるようにも見える。どうやら、お幾は、結婚相手を誰かほかの猫とどちらを選ぶか、迷っているらしいのでございます。

    「ああ……お幾と添い遂げられたらなあ……いいんだけどもなあ……」

     月を見ながらため息をつくと、ふとその耳に、なにやら音が聞こえてきた。

     ちりいん……。

     ちりいん……。

     何かと思ったら、なんでもない、ついさっきまで、自分がやっていたさいころ遊びの、丼にさいころを投げ入れるときの音でございました。

     はて。月夜とはいえこんな夜に、いったい誰がこんなさびしいところでさいころ遊びを。

     面妖に思ったコロ吉は、音がするほうへ足を向けました。

     ちりいん……。

     ちりいん……。

     音はまだ聞こえてきます。

     コロ吉が目を凝らすと、古びた小屋の軒先で、筵を敷いて座っている真っ黒な老猫が、目の前の丼に、さいころを投げ入れては拾っていたのでございます。

     その背後には、大きな字で、「一天地六」「無損勝負」と書いた白いのぼりが立ててありました。

     コロ吉は、怪しいと思うより先に面白くなりまして、

    「おい爺さん、こんなところで賭場を開いたって、誰も来やしないよ。賭場は、もっと向こうの、蔵の中でやってるんだからな」

     老猫は、ちりいん……と丼にさいころを投げ入れながら答えました。

    「お前は来たではないか」

     コロ吉は、ちょっと言葉に詰まりましたが、

    「でも、あっしは、すかんぴんだ。団栗銭一粒たりとも、持っちゃいないよ」

    「わしも持っとらん」

     老猫は、ちりいん……と、丼に、拾ったさいころを投げ入れました。

    「じゃが、わしは別に、団栗銭などほしくはない」

    「じゃ、爺さんは、なにが楽しくてさいころ遊びをしてるんだい」

    「願いじゃ」

    「願い?」

    「さよう」

     老猫はうなずきました。

    「わしは、道行くものと、『願い』を賭けてさいころの勝負をしている。わしに勝ったら、願いをかなえて進ぜよう」

    「負けたら?」

     コロ吉は、ちょっとぞくっとしたものの、聞き返しました。

    「なに、わしはしがない爺じゃ。お前をとって食ったりはせん。金もいらんし、物もいらん。そしてすべてはなるようになる。お主はなにも損することはないのじゃよ」

     コロ吉は、老猫の背後ののぼりを見ました。

    「爺さん、願いをかなえてくれるというのは、ほんとうだろうな」

    「もちろんじゃ。勝負してみるか?」

     コロ吉は、老猫の前に座り込みました。

    「いいだろう。爺さん、あっしは、お幾って娘に惚れている。あっしが勝ったら、お幾と添い遂げさせてくれ」

    「ほう。そのようなものでよいのか。では、さいころを取れ。わしが振ったら、いかさまを疑われるからな」

    「どうすればいい?」

     コロ吉は、受け取った三つのさいころを手に、尋ねました。さいころに、なにかが仕込んであるようには見えません。

    「この三つのさいころを振り、六の目が出たら、わしの勝ち。一の目が出たら、お前の勝ちじゃ。どちらも一つずつ出るか、一も六もまったく出なかったら、勝負なしでもう一度振る。ただし、六六一は、わしの勝ち。一一六は、お前の勝ちじゃ。いいかな?」

    「いいとも」

     コロ吉は、威勢よく、丼にさいころ三つを投げ入れました。

     ちりいん……。

     老猫は低く笑いました。

    「二二五か。もう一度振れ」

     空に浮かぶ月には、ゆっくりと雲がかかりつつありました。

     コロ吉は振りました。

     ちりいん……。

     ちりいん……。

     何度振っても、なかなか一も六も出ません。たまに出たとしても、一と六が一緒に出て、勝負なしになってしまいます。

     ちりいん……。

     ちりいん……。

    「そういやさ、爺さん」

     ちょっと苛立ってきたコロ吉は、老猫に話しかけました。

    「お幾のやつ、あっしと、だれを天秤にかけているんだろう」

     老猫は、くつくつと笑いました。

    「なに、お前、知らんかったのか。ふら吉だよ」

     コロ吉は、ぎょっとして、さいころを取り落としました。

     ちりいん……。

     さいころは、丼の中に落ちたようです。

    「ふら吉兄貴……?」

    「二三四か。これ、さいころを振らんかい」

     コロ吉はさいころを取りました。

    「ふら吉兄貴が……」

    「さよう。お幾はふら吉のことを好いておる。そのまま行けば、似合いの夫婦になったじゃろうなあ」

    「知らなかった……」

     コロ吉はさいころを振り入れました。

     ちりいん……。

    「お幾がお前に教えなかったのも、ふら吉とお前との仲を考えてのことじゃ」

    「それじゃあ、あっしは、こんな勝負やってられねえ。ほかならぬ兄貴と、お幾ちゃんが幸せになれるのなら、あっしが横から入っていい筋合いはねえ」

    「いや、お前はこの勝負を始めてしまった」

     老猫は顔を歪ませて笑いました。

    「もう遅い……」

    「こんなもの!」

     コロ吉は、さいころを後ろの茂みに投げ捨てました……。

     ちりいん……。

     投げ捨てたはずのさいころは、丼の中に落ちていました。

    「一五六。まだ勝負はつかんな」

    「爺さん! あんた、なにが楽しくて、こんな勝負をやっているんだ!」

     老猫はふっと遠い目をしました。

    「わしは、猫の想いを食って生きておる……もし、お前が負けたら、お幾とふら吉の心から、お前を思う気持ちを食う……そうすれば、お前に対する思いやりなどなにも考えずに、お幾はふら吉と結ばれる」

    「あ、あっしが勝ったら?」

     コロ吉は、さいころを丼に投げ入れました。

     ちりいん……。

    「お幾とお前の心から、ふら吉を思う気持ちを食う……そうすれば、ふら吉のことなどどうでもよくなって、お幾とお前は結ばれる。簡単な話じゃろう?」

    「そんなのどっちも嫌だ!」

     コロ吉は、さいころを老猫にぶつけようとしました。

     ちりいん……。

     さいころは、丼に落ちました。

    「まだ、出ないのう……なかなか、面白い勝負ではないか」

     コロ吉は、顔色を真っ青にしながら、さいころを振り続けました。

     ちりいん……。

     ちりいん……。

     ちりいん……。

     ちりいん……。

     もう、何十度振ったかもわかりません。コロ吉が震える手でさいころを振ったとき、、雲が月をすっぽりと覆い隠しました。

    (客席と舞台の明かりがふっと消える)

    「あっ……出たっ……」



    ※ ※ ※ ※ ※



     はい怪談噺です(^^;) ラストは、古典落語の名作「死に神」へのオマージュです。

     しかし難しいなあ怪談。圓朝師匠はよくも怪談を量産できたなあ……。
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    ~ Comment ~

    Re: レオ・ライオネルさん

    なるほど。単に「不気味な話」を書きたい一心で書いていたので、そういう見方には気づきませんでした。

    そう思って読み返すと、わたしけっこう深い話を書いていたではないか(褒められると木に登るタイプであった)

    NoTitle

    わー、やだやだ

    コロ吉の思いはどっちだったんでしょう・・・一?六?

    サイコロが中々でないのはコロ吉が迷っているから
    そして、最後に出た出目はコロ吉の本当の心・・・

    人(猫)の本性を見透かされているようで・・おー怖っ
    • #3969 レオ・ライオネル 
    • URL 
    • 2011.05/02 01:37 
    •  ▲EntryTop 

    Re: limeさん

    いやー、本人は「結果を見せずにリドル・ストーリーで終わる」のが読者の想像力を刺激していちばん残酷でおっかないかなあ、と(^^)

    死に神っていう落語は、もとはヨーロッパの怪談(というか昔話)を日本で翻案したものです。

    YOUTUBEに円生師匠の名演が収められていますよ。もう寝るかというときなのに見入ってしまった(^^;)

    NoTitle

    いや~、楽しいお話でした。
    怪談とおっしゃいますが、なんだかコロ吉の優しさが伝わってきて、切ない余韻です。

    結果を見せずに終わるのも、優しさを感じた次第で・・・。
    怪談を書いたと言うポールさんに怒られるかな^^
    でも、抜けられない状態にしておいて、事実を語られるあたりは、ぞ~っとしました~。

    いいお話でした。
    ぴゆうさんの世界を舞台にするって、さすがだな~。
    そう言う技が、ポールさんならでは・・・ですね。

    「死に神」って落語、怖いんですか??

    Re: マダム猫柳さん

    この話を書く上で大いに参考にした古典落語の「死に神」はもっと怖いですぞ~(^^)

    夜中トイレに行けなくなったりするとなんだから、生では聞いたことがないですが、本で読んでぞくぞくしたであります。

    NoTitle

    こんにちは^^
    読み応え有りましたです。^^
    最後が少し怖いまま・・そういう余韻が素敵。^^

    Re: ぴゆうさん

    ぴゆうさんの世界、けっこう縛りがきついから、そんな中でどう怪談を作ればいいかけっこう迷いました。

    幽霊、はだめだけど、「よくわからない悪意を持った化け物じみた存在」だったらまあいいだろうと……(^^)

    最後のシーンは、「死に神」のいただきです。あっちは「あっ……消えた!」だから、こっちは「出た!」にしたという、それだけのことでして。

    ちなみに、この落語を書くのにヒントになったのは、実はアニメ「カードキャプターさくら」の某エピソードだ、などとは口が裂けてもいえるものではありません(笑)

    よかったらもってってください。

    明日は明日でミズマ。さんにふふふふ。(イヤらしい笑い)

    NoTitle

    朝から怪談話。
    目が覚めるようでおもろかった。
    最後のオチもなかなか気が利いてる。
    すっと終わる。
    余韻を残しつつがいい。

    落語は楽しいよね。
    古典のパクリで一つ考えているのがある。
    ポールに触発されたなぁ。
    来週あたりにでもアップしようかな。

    ありがとう。
    とても楽しかったです。
    プロフ画とガス像が怪談話になって戻って来た。
    わらしべ長者の気分だ。
    v-398
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