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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/モノポリーディール(その1)

     ←告 →趣喜堂茶事奇譚/モノポリーディール(その2)
     ぼくが、その店を見つけたのは、このT市の裏通りで道に迷っていたときだった。

     なんで裏通りなんかを歩いていたかというと、ぼくの友人がこのあたりに引っ越し、一度来てくれなどというメールをよこしてきたのだが、こいつがどうもメールに間違った住所を書いてきたらしく、ぼくは完全に迷路のような路地の中で立ち往生してしまったのだった。

     連絡を取ろうにも携帯は家に置き忘れてきたし。

     雨も降ってきたし、足は棒のようになるしで、どこか座って雨風をよけて休めるところがないか、とうろうろしていたところ、ちょうどよいことにその店があったのだった。

    「漫画喫茶……趣喜堂?」

     正直いって、漫画喫茶には見えなかった。まるで戦前から建っていたような、古びた木造の建物には、妙にすすけたガラス窓がはまり、ドアは明らかに立てつけが悪そうだった。もしかしたら、商売に窮した旧家の主が、漫画喫茶は儲かるとか騙されて、店を開いたのではあるまいか。

     それでも、喫茶店というからには、コーヒーくらい飲ませてもらえるだろう。ぼくは扉を押した。

     がらんがらんがらん、と鐘が鳴った。

    「いらっしゃい」

     年齢不詳の男の声が聞こえた。どうやら店主のようだ。

     中は意外と明るかった。電気というよりも、窓ガラスに貼られていたのは、一種のマジックミラーのような遮光フィルムだったらしい。

    「奥にいらしてください。外は雨ですからね」

     制服なのか仕事着なのか、機能的で動きやすそうな衣服を身につけた若い女性が歩いてくると、ぼくを「奥」へと案内してくれた。

     ぼくは目を見張った。

     そこにあったのは、明治・大正の風格さえ感じられる、ばかみたいに大きないくつもの本棚だった。そして、ガラスかプラスチックのケースの中に並んでいたのは。

    「うわっ……! な、なんですか、これ! 『That’sイズミコ』じゃないですか!」

    「そんなものでなにを驚いているんですか、お客様?」

    「そしてこっちには『明良と孫蔵』の全冊ぞろい……ぼくが読みたい本ばかり!」

     さらになにか、漫画はないかと思ったぼくが視線を横に動かすと……。小説と目が合った。

    「うわっ! これ、ミステリだ! 『そして死の鐘が鳴る』……よよよ、読んでいいんですか、これ?」

    「こっちにはSFとファンタジーとホラーもありますよ。もちろん、時代小説も」

    「こここコーヒーください。いえココアでもいいですから」

    「本を読むならこっちに来なさい。そっちのテーブルもあるけれど、こっちのほうがまだ明るい」

     ぼくは『そして死の鐘が鳴る』を手に、夢遊病者のような足取りで、店主の座っている、麻雀のマットのようなものが敷かれた、ただし麻雀をやるにはかなり広すぎるテーブルについた。

     テーブルの上には、なんだか知らないけれどカードが乗っていた。

    「これは?」

     ぼくは、店員であろう女性が持ってきた、蓋つきのカップに入った甘いコーヒーに口をつけながら聞いた。

    「ゲームは好きかね?」

    「え? 大好きですよ」

    「それはよかった。半年前に買ってきた、タカラトミーの『モノポリーディール』というカードゲームだが、本を読む前に、ひと勝負どうだね?」

     そこでぼくは、天井近くに、山のようなボードゲームやカードゲームが並んでいるのに気がついたのだった。いずれも、地震などで落ちないように支えがついている。

    「こ……この店、なんなんですか?」
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    ごめんなさい(^^;)

    今回は、もろ趣味に走ります(^^;)

    願望小説なもので(^^;)

    Re: semicolon?さん

    ゲームの話とかも書くので、読者おいてきぼりかもしれません(^^;)

    どうか呆れないでいただけたら嬉しいです。

    NoTitle

    すべて分からないタイトルだった・・・
    今回は付いていけんかもシンナイ・・・
    v-16
    その場合は過去記事にでも行こうっと。

    NoTitle

    楽しんで書いてくださいね。
    読むのも楽しみです。

    Re: limeさん

    わたしの夢のような喫茶店ですから、「ファンタジー」に入れようかと思いましたが、これをファンタジーというのは「美味しんぼ」をファンタジーというようなものではないかと思い直し、「ショートショート」に入れました。

    出てくる本やゲームは、全て実在のものですので、探せば手に入るかもしれません。

    マークスの山は……面白かったなあ。読んだ後すごく疲れたけど。

    NoTitle

    軽~い気持ちで遊びに来てみました。
    おお、何やら面白そうじゃないですか。
    ポールさんの宝の山のような物語??

    私にも分かるものが出てくるかは分かりませんが、なんかワクワクします。
    私もこんな空間に迷いこみたいです。
    そこには、私が読むべき系統の小説がたくさんあって、
    ページをめくれば時間が止まって・・・。
    いいなあ。
    どんな本が並んでるかは、ポールさんが知ってそうですが・・・。

    それにしても、「マークスの山」は、かなり本格推理物ですね。
    まだ上巻の後半ですが(遅!)
    この物語は、高村先生、「ちょっと賞金目当てで」書かれたというエピソードを読みました^^
    く~。うらやましい。書けば確実に約束されていた賞金。

    Re: ねみさん

    悪くはないですよ。

    これ、単に「わたしが自分の趣味について語りたい」というだけの、半分エッセイみたいな小説ですから。

    あっそうそうランキングをファンタジーから外しておかなくちゃ(^^)

    それにねみさんの歳で「That'sイズミコ」や「明楽と孫蔵」を知っていたらそっちのほうが不思議です。片一方は二十年近く前、もう片っ方も十年以上前の作品ですからねえ。

    ミステリの「そして死の鐘が鳴る」になると、アマゾンでもプレミアがついています。これについては後で詳しく語るつもり(^^)

    ひ、ひとつもわからん…
    これは俺が悪いのだろうか…
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