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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/モノポリーディール(その2)

     ←趣喜堂茶事奇譚/モノポリーディール(その1) →ミズマ。さんプレゼントショートショート!
    「この店は、『おもむきどう』というんだ」

    「はあ」

     趣味を喜ぶと書いておもむきと読ませるのか。凝っている。

     年齢不詳の店主は、どこか教師か医師を思わせる、「先生」と呼ぶのがふさわしいような容貌の持ち主だった。

    「喫茶店を開くことにしたんだが、ちっとも儲からない」

    「はあ」

    「だったら、わたしの好きなものを全部集めて客寄せにしたらどうか、と、娘がいい出してね。コレクションの中から一部を選んで、店に置いてみたのだが……やっぱり、人、来ないねえ」

     それは立地条件にも問題があるのではないかと思ったが。

    「で、好きなものが?」

    「漫画と、娯楽小説と、ゲームだというわけさ。そっちのテーブルは、主に漫画を読んで語り合うためのテーブル。そしてこっちの明るいほうは、小説を読んだり、ゲームをしたりして過ごすためのテーブルというわけだ」

    「はあ」

    「正直なところ、わたしは店主ということになっているが、喫茶店経営のコツなどまったくわからない。店の切り盛りは、この娘に任せ、わたしはこの手回しミルでコーヒーを挽くか、食器を洗うかしかやっていないというわけだ」

    「はあ」

    「まあ、昔よくあった、楽隠居、というところかな。もうひとつの仕事は、客の相手をすることだな。漫画や小説の話をしたり、ゲームの相手をしたり。客が少なくて暇なときは、娘もメンバーに加わってくれる」

    「ははあ……」

     この店全てが道楽ということか。うらやましい。なんてうらやましい環境だ。

    「というわけで、娘とこのカードゲーム、『モノポリーディール』をプレイしていたんだが、やっぱりふたりではねえ。君もやるかい?」

    「やらせていただきます」

     年齢不詳の店主の妙な威厳に押されるようにして、ぼくは頭を下げていた。

     ルールを簡単に聞いたところによると、同じ色の土地の権利書で、権利書ごとに決められた枚数(二枚から四枚)のセットをつくり、そのセットを三種類最初に作ったプレイヤーが勝つ、ということだった。手番に山からカードを二枚引いて、三枚まで使える。もちろん、二枚や一枚でやめてもいいし、引くだけ引いてパスをしてもいい。手札の上限は七枚。権利書のほかにも、お金カード、特殊カードといろいろあるが、その説明は全部カードに書いてあるらしい。

     最初の一ゲームはルールを覚えるだけにとどめよう、ということで、試しに遊んでみることにした。

     店主さんが最初、次に娘さん、そしてぼくという順番になった。全員にカードが五枚ずつ配られる。

     山札からカードを二枚引いた店主さんはまず、自分の場に「お金カード」を出した。二万ドルのカードが一枚と、一万ドルのカードが一枚。それに、緑の権利書カード。これで計三枚で、手番終了ということらしい。

     娘さんも、山札からカードを引くと、五万ドルのお金カードを一枚と、三万ドルのカード一枚を場に出した。そして青い権利書カード一枚。青い権利書は二枚でセットができるので、警戒するに越したことはない。

     ぼくは、五万ドルのお金カードを一枚と、緑の権利書カードを二枚出した。いい忘れていたが、権利書にはそれぞれ、地代というものが設定されており、請求のカードを持っていたら、権利書カードに書かれているだけの地代を他のプレイヤーからむしり取れるのだ。もちろん、同じ色の権利書カードを複数持っていたほうが、より多くの地代を請求できる。

     元になったゲームであるモノポリーは過去にプレイしたことがあるが、この点はこちらのカードゲームのほうがより豪快になっている。

     店主さんの番になった。店主さんは、「カード追加」のカードを使い、手札を増やした。ちょっと悩んだ末、オレンジの権利書を二枚置いた。

     ぼくはこっそりとほくそ笑んだ。ぼくの手元には、全員に請求できる緑の権利書の地代請求カードと、請求額倍増カードがあったのだ。これを使えば、店主さんからお金と権利書のどれかを、娘さんからもお金と権利書を奪い取ることができるだろう。大儲けだ。

     しかし、ぼくのそんな思いは、はかなく消えることになった。

     娘さんが、青の権利書カードをもう一枚重ねて、フルセットを作った。フルセットの上に、娘さんは「ホテル」を建てた。色のセットを作っていると、そこには「家」や「ホテル」が建つのである。

     娘さんは、青の権利書の地代請求カードを場に出して、厳かな声で宣言した。

    「みなさん、青の権利書フルセットで八万ドル、それに加えてホテルの効果で四万ドル、合計十二万ドル払ってください」

     目の玉が飛び出すのではないかと思った。

     店主さんはぶつぶついいながら、お金カード三万ドルぶんと、残り九万ドル……手持ちの全権利書を娘さんに渡した。ぼくも、涙が出る思いをしながら、五万ドルのお金カードと、せっかくそろえた緑の権利書カード二枚を差し出した。「お釣りがでない」システムというものの恐ろしさを、ぼくは肌で感じた。

     ゲームの中でだが、一文無しになったぼくは、つけるべきではない闘争心に火をつけてしまった。

     一回のゲームが十五分もあれば終わる『モノポリーディール』で何時間遊んだか、その間ぼくがどれだけコーヒーを飲んだか、なんてことはどうでもいい。

     重大なのは、すっかり陽が暮れてしまったことだった。

     文庫本が二、三冊くらい余裕で買える額をレジで支払ったぼくは、昼間でさえさんざん迷った路地を、夜の暗がりの中でさんざん迷うことになったのだった。

     もうひとつつけくわえておけば……ぼくは次の日、近所のドンキホーテでこのゲームを買った。千円もしなかった。

     今度行ったときには絶対にかたきをとってやる、ぼくはそう思いつつ、いやがる友人知人を集めては今日もこのゲームをしているのである。

    (「モノポリーディール」の回、おわり)
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    ~ Comment ~

    Re: 名無しさん

    細かいルールについてはわたしも正確なところがわからないので、想像になりますが、わたしは「できる」と思います。

    理由としては、グループを解除することにより、「横取り」「交換」などで相手に奪われるリスクが増大することになり、そこでバランスが取れていると考えるからです。

    カードカウンティングにより、「横取り」「交換」と、「のっとり」の比率を計算してグループ解除かどうかを決めるのはどうだろうか、というのが本意かと思いますが、それは「戦術」のうちでしょう。

    とはいえ、世の中には多様な考えの人がいます。

    ゲームのルールには、「ルールブックがそこまで考えていなかった」というような状況が、多かれ少なかれ出てくるものです。

    そうした場合には、事前にプレイヤー同士で話し合って、「ルールの解釈」について合意を取っておく、というのが理性あるゲームプレイヤーのやることではないでしょうか。

    ついでながら、あのルールブックは舌足らずなところがほかにもあり、それについても合意を得ておくべきだと思います。

    A・山札がなくなったときにゲームが終了していなかったらどうするか

    B・アクションカードをすべて「お金」として使用してしまってゲームが止まってしまったらどう処理するのか

    C・ワイルドカードの権利書は、「お金として払うことができない」とあるが、破産してもそのカード自体はプレイヤーのもとに残り続けるのか

    など。

    これらに対するわたしなりの暫定的な答えは、

    A・その手番が終わったときにゲームを終了し、金銭と権利書額面の総額の最も大きかったプレイヤーを勝利とする

    B・ゲームを終了し、金銭と権利書額面の総額の最も大きかったプレイヤーを勝利とする

    C・このカードは「0万ドルの価値」があるものとみなし、他の権利書を全て処分しても払いきれなかった場合に限り、その請求したプレイヤーのものとする

    というものですが、これらもあくまでも「私案」にすぎないので、公的なルールとは違う可能性がある、ということを覚えていてください。

    もし、「公的なルール解釈」が知りたければ、メーカーに直接問い合わせるしかないのではないでしょうか。

    わたしとしては、ゲームのルールは「楽しく遊べて納得できればそれでいい」という考えです。

    モノポリーディールのルールに関して

    モノポリーディールのルールに関して
    http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1262173247

    Re: llamaさん

    わたしの友人には、モノポリーの日本選手権に出た人が四人もいるのですが、そういう人たちとプレイすると、あれがドロドロの交渉ゲームであることが痛いほどわかります。大人のゲームです。

    で、こちらの「モノポリーディール」は、そんなモノポリーからドロドロの交渉を抜いて、他人から金と権利書を巻き上げる興奮はそのままに、短時間で勝負がはっきりつく小粋なカードゲームに仕上げてあります。

    ある意味本家モノポリーより面白いゲームで、わたしの好みにぴったりだったのですが、このカードゲームをプレイした印象でモノポリーをすると、かなりのカルチャーショックを受けることになるだろうと思います。

    どっちかというと本家より日本人向きかも。

    夕飯は家族の一大事です。また遊びに来てください(^^)

    NoTitle

    モノポリーって、そんなに楽しいと思った事はないかも。
    勝ち負けがハッキリせず、勝負をしていると言う実感が薄いので。
    私ならば、そんなに高いコーヒー代は払わずに済んだようですね。

    ですが、時間を忘れ、楽しいお話に夢中になっていました。
    ここではお支払いはないですが・・・ないですよね(笑)
    夕飯を作る時間を削ってしまいます。
    さて、そろそろ頑張らないと・・・また、来ますわ。

    Re: limeさん

    いちおう、公営ギャンブルを除き、金銭を賭けることは違法です。

    それでも、麻雀店などで金銭を賭けた勝負をやっているのは、いわば「お目こぼし」みたいなものなのです。

    警察としても、そうしたことに目をつむっているのは、そこまで警察も手が回らないのと、いざというとき「賭博罪」で別件逮捕、という、実に都合のいい手段が取れるからです。もし知人がそういうことで逮捕されたら、共同正犯として、いっしょに遊んでいた人間のところにも警察がやってきて、哀れ手錠をかけられる、ということになりかねないので遊ぶときは注意してください。

    もちろん、この喫茶店は、客とのリクリエーションの一環として、サービスとしてゲームを遊んでいるのであって、金銭の収受はいっさいありません。

    でもしっかりとしたデザイナーが存在するゲームを使ってサービスしている以上、著作権上は問題があるかもしれませんね。そこを細かく追及すると、いろいろ破綻してくるので、そこには、

    「目をつぶる!」

    のであります(笑)

    そういうところはいろいろとボロをかくしているのであります(^^;)


    高村先生の似顔絵、見られませんでしたか。

    それならば不肖このわたしがこのブログにUPを(しません(^^;))

    NoTitle

    モノポリーって、聞いたことあります。
    でも、ゲームって。負けると悔しいから、あまりしないです・爆

    ところでここでもし、こんなゲームでも金銭を賭けたとしたら、それは刑法にひっかかって処罰の対象になるんでしょうか。
    ふと、そんな疑問が・・。

    で、・・・。
    以前ポールさんが送ってくださった画像・・・・開けませんでした><
    Macでは無理だったので、Winに転送したけど、だめでした。
    これはもう、神様が「お前は見るな」と言ってるのでしょう・・・・。
    せっかく送ってくださったのに、ごめんなさい・汗
    文章の方は読めましたよ~。

    私も高村先生の本はミステリーじゃないなあと思ってるんですが。
    李歐も神の火も・・。
    でも、「マークスの山」は、ミステリーですよね。がっつり。

    Re: ねみさん

    どんなゲームか知りたければこのサイトをどうぞ。

    http://www.takaratomy.co.jp/products/monopoly/products/deal001.html

    探せば近所の店のおもちゃ売り場にも売っていると思います。タカラトミー、けっこう刷ったようだから。ちなみにわたしが買ったのは、近所のドンキで598円でした。

    NoTitle

    やったことないなぁ・・・。
    そんなゲームがあったとは。

    なんか楽しそう・・・。
    アマゾンで探してみるか。

    Re: ぴゆうさん

    遊んで面白かったゲームや、読んで面白かった本を小説の形で紹介しようと思うのですが、面白さを伝えるのは、やっぱり難しいですね。書いて雁屋哲先生の偉大さを知る(^^;)

    NoTitle

    人生ゲームみたいなもんか?
    負けると悔しいよね。
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